正ヒロインから見た勇者 マユラside
勇者は誰でもなれるわけでは無いけれど、唯一無二と言う訳でもない。
魔王が現れてから数百年の間に、勇者足りえると判断された者は幾人も存在していた。
勇者となりえるかどうかの判断は、至極単純明快にして納得のゆくもので、数種類ある英傑の剣の内、どれか1つに選ばれる事だ。
英傑の剣とは、選ばれた勇者にしか扱えない名剣の事で、数種類存在し、それぞれ特性と必要な発動条件が違う。
勿論、数ある種類の中でも希少性や価値に差は生まれるし、選ばれる剣によって勇者への期待度は格段に変わる。
数百年の中でかなり期待され、絶大な人気を誇った勇者も居れば、期待薄な勇者も当然居た。結局は皆魔王にやられてしまい、命を落としたけれど、それでも、そんな歴代勇者達のおかけで魔王の数は減った。
大きく動いたのは意外にも、つい数年前の事。
聖剣の中でも最も強いと言われる名剣に選ばれた勇者が、周囲の期待に沿って当時は7体存在していた魔王を3体倒した。
けれども、その勇者は東の魔王に敗れて仲間と共に姿を消した。おそらく生きては居ないだろう。
その後現れた勇者が今代、私が仲間となった勇者、レイヴンだ。
先代勇者に続き、彼もまた周囲からの期待値は大きい。
何故なら、今代勇者は先代勇者が選ばれた聖剣と対となる魔剣に選ばれたのだ。
魔剣の中では最も強い名剣と呼ばれており滅龍の大剣、その名もーー〝魔剣グラム〟
魔剣に選ばれるには、聖剣とは真逆とも言える条件が必要で、そもそも勇者が魔剣に選ばれること事態珍しいと聞く。
聖剣が神に与えられた光であり、人の〝愛〟な気持ちを原動力にする。
しかし、魔剣は本来その昔の魔王が作った物なので闇の力を有している。原動力は人の〝絶望〟もしくは〝守りたいもの〟への気持ちを原動力にしている。
〝守りたいもの〟はともかく、〝絶望〟はおおよそ、勇者に相応しい響きとも思えない。
そして、魔剣に選ばれるきっかけも、その二つのうちどちらかが、人より大きい者が選ばれる。
今代勇者が誕生したのは、彼が家族の仇を撃つために、通常であれば無謀とも言える、西の魔王へ戦いを挑んだ時だった。
つまり、今代勇者は〝絶望〟により剣の所有者に選ばれた。
彼は深傷を追い、絶体絶命だというそのとき、条件は満たされのだ。
魔王に恐れを一度も抱かず、ただひたすら、殺された家族だけを思い出し、負けられない相手を前に、重傷を負い絶体絶命の絶望の中。
〝復讐を果たしたい〟と、強く、渇望した心の深き絶望。
これにより、今代勇者は魔剣グラムに選ばれた。闇を御せる力を宿す者として。
魔剣を扱うには危険が伴う。
使用していた勇者が闇の力に負けて取り込まれてしまった事もあったらしい。使用者が心に闇を抱える程力を宿す、諸刃の力とも言われる剣。
剣の真価を発揮するには、常に条件を満たした状態でなければならず、必殺技の発動時には、記憶の底にある闇の記憶を無理やり引き出されることもあるという。
まだ、今代勇者は魔剣グラムの真価を発揮しなければならない場面は無かったけれど、今後、全ての魔王討伐を果たすには、剣の真価を発揮する事は必須条件となる。
私に出来る事は、伝承の巫女として受け継いだ知識により、魔剣グラムを進化させる手助けをして、1日も早く勇者の負担を減らすこと、そして、仲間として、巫女特有の力を強化し、勇者と共に戦う事だ。
♢♢
勇者には、婚約者が居ると聞いていた。とても高貴な方で、戦場の天使とまで言われているそうだ。
この目で実際見てみると、想像とは少し違って、親しみやすくて、可愛らしくて、綺麗で、少し天然?な人。
でも、私達勇者一行は、馬鹿ではないからメンバー全員がもう知っている。
王都に住む王侯貴族が、勇者のやる気を出させて戦いから逃れられない様にする為、用意した婚約者である事を。
勇者を平民だからと侮っているのが透けて見える。高貴で美しく可愛い子を当てがっておけば、文句は無いだろうと思っているのはお見通しだし、相手の御令嬢にしても勇者が本当に魔王を滅ぼす事が出来たなら大きな栄誉を手に出来る。
勇者も、王侯貴族特有のそうした身勝手な事情が絡んでいることをわかっているだろうけれど、それを私達の前で口に出した事は無い。
ただ、婚約者の惚気が増えてくるだけだった。王都に住む貴族達の思惑通りに動いている様に見えるから、仲間達はそんな勇者の姿に少しお人好しすぎないかと、ハラハラしていた。
「この邸宅の周りにも念の為、結界を張っておいてくれないか?」
「??此処は王都の中だよ?王都には既に賢者の結界があるじゃん、無駄じゃない?」
「念の為だから、この通り!頼む!!」
次の旅が、少し長引きそうとはいえ、婚約者に過保護過ぎはしないだろうかと突っ込んだけれど、勇者はただヘラりと笑うのみ。
これは、勇者が底抜けに優し過ぎるからなのか、其れともー…?
勇者は 婚約者のことをどう思っているんだろう。
私はふと、そんなことが気になっていた。




