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はじめまして

ユウフェが転生したファンタジー小説の正ヒロインこと、伝承の巫女マユラ。


 顔の両サイドにある髪を組紐で結えており、後ろ髪はボブ。

 服装も2次元用に可愛くアレンジされた巫女衣装。そして、赤毛の髪に金色の瞳…。



 彼女は小説の物語が始まる前まで、炎龍の住処の近くにある村に住んでいた。



 村長の娘であり巫女として、伝承と邪気払いを受け継いでおり、彼女の住んでいた村は人里の中で、西の魔王から1番近い場所にあった。


 村自体は炎龍の住処で隠れていた事と、代々村を守る巫女がおり、微弱ながら巫女が張れる結界によって西の魔王に見つかる事なく数百年間無事存在出来たという。


 しかし、西の魔王が勇者に討伐された事で、数百年間大人しくしていた炎龍が活性化し、村への被害は日に日に大きくなり、仕舞いには大惨事になってしまった事から、村長の娘であり巫女として、炎龍討伐へ挑みに行った際、勇者と出会い後々仲間になる。


 

ーーと言うのが、ヒロインについて、ユウフェの知っている基本情報である。


 因みに勇者一行のメンバーは巫女のヒロインと勇者とは別に、魔法使いと弓使いがいる。



 そのヒロインを含む勇者一行達と、これから初めて対面するので、ユウフェの胸の鼓動は未だかつてなく、最高潮の高鳴りを迎えていた。





♢♢♢



 勇者の邸宅にパーティーメンバーが集まって数時間が経った。



 初めこそ王から下賜された屋敷に興味津々だったが、勇者の帰りを待つうちに、ロイドはソファーで横になり、オルフェは窓辺で外を眺めながら弓の手入れをしていた。


「勇者がこんな立派な屋敷を持つなんてね。……まぁ本人は落ち着かないって言ってたけど」


 弓使い(オルフェ)が苦笑混じりに呟く。


「だろうね。レイはこういう場所、好きじゃなさそうだし」


 魔法使い(ロイド)は眠そうに目元をこすりながら答えた。


 ゆったりとした空気が流れていたその時――

 部屋の扉がカチャリと開き、勇者が入ってきた。


「お、帰ってきたね」


「……ロイド、寝てただろ」


「ちょっとだけだよ」


 勇者は軽くため息をつきつつ、横に立つ少女へ視線を向ける。


「皆に紹介したくてさ。彼女は――」


「ユウフェ・ヴィクレシアと申します!」


 勇者より前に出たユウフェが、少し前のめりで挨拶した。

 緊張のせいか、声が勢いよく響く。


 オルフェが柔らかく微笑んだ。


「こんにちは、公女様。初対面なのに、ずっと前から知っていたみたいな挨拶だね」


「もちろんです!皆様のことは――えっと、まず貴方が弓使いのオルフェ様。そしてこちらが魔法使いのロイド様。そして……」


 ユウフェの視線が巫女の少女で止まる。


「貴方が、伝承の巫女ーーマユラ様ですね?」


 紹介されたマユラは少し驚いたように瞬きをしたが、礼儀正しく会釈した。


「ええ、はじめまして。公女様は顔を覚えるのが上手なのね」


「当然です!勇者様のパーティーメンバーですから!」


「と、当然……なんだ」


 オルフェが小さく笑い、ロイドは「貴族ってそういうものなのかな」とぼそりと呟いた。


 ユウフェとマユラはすぐに会話を弾ませ始めた。

 マユラも最初こそ敬語だったが、ユウフェの距離感に引っ張られ、いつの間にか砕けた口調になっていた。


 その様子を少し離れたところで見ながら、勇者は言いようのない感覚に襲われていた。


(……仲が良くなるのは嬉しいけど。なんだろう、この感じ)


 言葉にできないモヤのようなものが胸の奥で揺れる。


 オルフェはそんな勇者の様子に気付くことはなく、勇者の肩に腕を回して言った。


「おいレイ、俺達は俺達で話そう」 


 ロイドも珍しく興味を示している。


「そうそう。公女様のこと、いろいろ聞きたい」


「おまえらなぁ…」


 勇者は観念したように苦笑した。





♢♢♢





 各々自己紹介を終え、使用人が長机にティーカップを並べてゆく。 


 ユウフェがそれを口に含み、ほっと息をついて微笑んだ瞬間――「くしゅん!」と大きなくしゃみをした。




 夕方になり、僅かに開いた窓から入ってきた涼しい風が、ユウフェの鼻をくすぐったらしい。


 思いがけず盛大にくしゃみが出てしまい、憧れの勇者一行の前ということもあり、羞恥心で顔が一気に熱くなる。


「すみません、私としたことが、人前で……」


 両手で顔を覆って赤面するユウフェを見て、勇者は窓を閉め、自分の上着をそっと肩にかけてやった。自然とその目線に合わせるように身をかがめながら。


「外出して疲れてない?

 こいつらは突然来ただけだし、無理にもてなさなくていいんだよ。

 俺も行くから、部屋で休んでこよう」


「おいおい。俺達だって好きで押しかけたわけじゃないぞー」


 オルフェが苦笑すると、ロイドがぽつりと呟く。


「勇者って……こんな気遣いできるんだ」


 それにマユラが、ぴくりと反応した。


(――私が旅先で風邪を引いた時は、看病をオルフェに任せきりだったのに)


 勇者は、ときおり「大丈夫?」と聞く程度だった。

 思い出すほどに、胸の奥がじわりと熱くなる。


 マユラは小さく、きゅっと唇を結んだ。


「ご心配おかけしてすみません! 勇者様はお仲間さん達とお話ししててください!!」


 両手で顔を覆ったまま、ユウフェは脱兎のごとく部屋の外へ駆け出していく。


「ユウフェ!」


 追いかけようとした勇者の腕を、オルフェが掴んだ。


「だからー、俺達だって好きで押しかけたわけじゃないの。おまえに話があるのに、いないと進まないだろ」


「じゃあ、せめて部屋まで見届けて――」


「――とんだ過保護だな」


 ロイドが呆れ混じりに言うと、勇者は本気で悩んでいる様子で続ける。


「俺が長く連れ回したから、体調崩したのかもしれない。

 俺達と体力が違うのに……楽しくて、無理させたのかも」


「くしゃみ一つでそこまで心配するか?」


「俺達のくしゃみと違うんだよ! ユウフェは人前でくしゃみなんてしないんだ!」


「あー、貴族の令嬢はそうだよね。でも邸宅内だし、使用人もいるから大丈夫大丈夫。話進めるぞー」


 そのやりとりを見ていたマユラの胸のあたりに、

ふと、ひそかな疼きが走った。


(……あれ? どうしたんだろ、私)


 理由がわからず、目を伏せる。

 気づけば、呼吸が少しだけ浅くなっていた。


「ん? マユラ、顔色悪くない?

 どっか痛むの?」


 ロイドが覗き込む。


「えっ……あ、ううん。なんでもないの」

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