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勇者は婚約者と出会う


 


「私はヴィクレシア公爵家長女、ユウフェ・ヴィクレシアと申します。

長きに渡り、貴方とお会い出来るのを待っていました!」


「え?」


「お任せください勇者様。貴方がヒロインと結ばれるまで、しっかりお勤めさせていただきます!」



 それは俺が政略結婚を見据えた婚約者に、アメジストの瞳をキラキラさせて開口一番に言われた言葉だった。


 〝お任せください〟と〝お勤め〟の言葉以外の部分がよく聞き取れなかった。


 いや、聞こえてはいたが理解が追いつかなかった。

 ただ、彼女の必死な様子を見るに、多分重要なところなんだろう。



「……?」



(貴族って、変わった子が多いのか?)



 周囲をちらりと見ると、王宮でのあの鉄壁の笑みを崩したことのない公爵が、額にじんわり汗を浮かべていた。


 視力が良い俺にはそのポーカーフェイスの誤魔化しはどうやら効かないようだ。



「はじめまして、俺は先日国王陛下より男爵位を賜りました、レイヴン・ボランハルト。勇者をしてます」


 

「勇者様、私は今日から貴方の婚約者です!今からタメ口でも構いません!だから。早く仲良くいたしましょう!」



どう見ても焦っていた。

 なんとかして距離を詰めようとしているのが分かる。


 小刻みに震えた手。


 頬まで真っ赤にしながら、それでも必死に取り繕おうとしている。


 差し出された右手はーー握手を求めていた。


 正直、驚いた。

 王都で見た貴族令嬢は、まずこんなことはしない。


 平民なら挨拶代わりに握手するのは普通だが、

貴族の女性が自ら手を差し出すなんて、まず見ない。


 貴族の女性はまず握手という習慣がないらしい。


 謁見前に聞いた時もそう言われた。


(そうか、彼女なりにこの間まで平民だった俺に合わせようと色々調べてくれたのか。さっきの良くわからない台詞は、その過程で何か間違った知識も身につけてしまったのだろう)




 

 男性経験の少なさ故か、から回っている雰囲気が出ている。そこに、公爵の方から「ウォッホン!」と咳き込む声が聞こえてきた。


「すみません、レイヴン殿。どうやらユウフェは体調が悪く…「悪くありませんわ!すこぶる快調です!」



周りの召使い達も、普段のご令嬢とは思えないと言った表情をしている。


 震える華奢な手。

 貴族令嬢としては、礼儀のなっていない事を分かった上でやっている自覚がありながらも、真っ赤になっている顔。


 それを見て、勇者は口元に小さく笑みを浮かべて己の右手で、ユウフェの手を握り返して握手をした。




「今日からよろしく。ユウフェ殿」



 言った瞬間、ユウフェは大きなアメジストの瞳を瞬かせ、頬を朱に染めて微笑んだ。


 その笑みはーー

 今まで俺が誰にも感じたことのないほど、美しいと思った。




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