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サブヒロインの願いと正ヒロインの小さな嫉妬 ユウフェside/正ヒロインside

ユウフェside



ー勇者様。


 勇者様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私は婚約する前に一度だけあなたにお会いしています。


 まだ五歳にも満たなかった頃。

 父に連れられて訪れた子爵家で迷子になり、森へ入り込んでしまいました。

 熊に遭遇して逃げる途中で転び、もう駄目だと目を閉じたその瞬間――。


 幼い男の子が現れ、私を救ってくれたのです。


 腰を抜かし座り込む私の前で熊を倒し、ゆっくり振り返ったその男の子は、私を怖がらせないようにとそっと身を屈め、手を差し出しました。


「立てる?」


 珍しいターコイズ色の大きな瞳。

 “綺麗な目”だと幼い私は思わず呟きました。


 そして胸がどきりと鳴った瞬間、まるで堰を切ったように前世の記憶が溢れ出したのです。


 ――私の知る“物語”の勇者。

 そして彼がこれから背負う、あまりに深く残酷な未来。


 私は幼いながらに備えようと決めました。

 やがて訪れる、西の魔王による自領襲撃。

 父に何度訴えても信じてもらえず、それでも私は準備を続けました。


 そして、どうしても果たしたいことがありました。


 あの少年が心を抉られる日を、止めること。


 人を使って勇者の少年を探しても見つからず、自領が襲われるまで一年を切った頃、私は父の反対を押し切って旅立ちました。

 “あの日”より前に勇者様へ伝えるために。


 けれど――間に合いませんでした。


 ようやく辿り着いた村は魔物に荒らされた後で、廃墟の中に勇者の嘆きが響いていました。

 それは、幼い頃に私を救ってくれた優しい声とは思えないほどの深い絶望で。


 私は耳を塞ぎ、その場から逃げるように走り去りました。


 ……救えなかった。


 前世の知識を持つ私だけが助けられたはずの 〝家族との未来〟を与えてあげられなかった。

 その事実が胸を裂くほどに苦しかった。


 小説の中のユウフェはただ勇者の活躍を願うだけの存在。

 でも私は違います。


 世界は勇者に求めるばかりで、勇者は世界から何ひとつ与えられていない。

 本当に必要としていたはずのものすら――

 ……〝失われた家族との未来〟さえ。


 今頃、勇者様は喪失を抱えたまま西の魔王へ向かい、その先でも深い傷を負う。

そして王都へ召され、戦いの日々が続く。


 私にできることは、もうほとんどありません。

 けれど、たったひとつだけある。


 ――せめて、サブヒロインとしての役割を果たすこと。


 これ以上勇者様が心を抉られないように。

 世界が求めるばかりなら、私は“与える側”になりたい。


 やがて勇者が本当のヒロインを見つけ、幸せへ辿り着くその日まで。

 私は北の魔王にこの身を捧げてでも、勇者様の負担を少しでも軽くする。


 物語のサブヒロインとして、誰よりも役立つ存在になる。


 それが、幼い私を救ってくれたあなたへの――

 私にできる唯一の恩返しです。


◆◆◆


正ヒロイン・巫女 side





 私は先日勇者一行に加わった巫女、マユラ。

 王命による討伐を重ね、光の力も前とは比べ物にならないほど強くなっている。


 今日も魔物討伐を終え、仲間と焚き火を囲みながら食事をしていた。


 ふと勇者の横顔を見る。


「……さっきから、なにか考え事をしているようね」


「少し思い出してただけだよ。

 昔……助けた女の子のこと。今日の魔物がいた場所でさ。


 平民の俺は、あんな可愛い子見たことなくて。

 当時は本気で天使かなって思ったよ」


 その言葉に、私の指がぴくりと止まる。


(女の子……?)


 勇者は気づかず続ける。


「ただの昔話だけど、今はどうしてるかなって。

 実は――俺の婚約者に少し似ててさ」


「へぇ……初恋ってやつ?

 勇者様でもそんなふうに思い出す相手がいるのね」


(婚約者……?)


 笑顔を作りながら、声の奥に小さな刺が混ざる。


「そう言えば、王命で婚約したってオルフェさんから聞いたけど……仲良くできてるの?

 高貴なお嬢様だよね?」


「ぁあ、すごく可愛くて良い子なんだ。

 きっと仲間のみんなとも気が合うよ」


「そう……それならよかったね」


(……どうしてこんなに胸がざわつくの?)


 自分でも理由の分からない感情に、私はそっと視線を落とした。


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