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叙勲式後、公爵に聞いた娘の話 勇者side



「申し訳ございませんレイヴン殿!あの婚約成立後に娘が押し掛けているようで…」

 

 叙勲式後、王宮にある一室で、ユウフェの父であるヴィクレシア公爵に頭を下げられ、謝られた。

 どうやら俺の邸宅にユウフェが滞在している事を知ったのはユウフェが公爵家を出ていった後みたいだ。


(ヴィクレシア公爵は知らなかったのか…じゃあ、屋敷の事はユウフェの独断。

それはそうか。貴族の令嬢が結婚していない婚約者の1人住まいに住まわせるなんて、指示する親はいないよな)


「俺は凄く助かっているんです。

あのように大きな邸宅の管理をどうしたら良いのか、誰に頼んで良いのか、俺には分からなかったので…」



俺がそう言って頭をかくと、公爵は頭を上げてホッとしたようで、息を深く吐いた。


「いやそう言っていただけて良かった。

あの子は一見淑やかそうなんですが、いや、普段も基本的にはちゃんと礼節ある子なのですが。


たまに突拍子もない事をするのです」


公爵はコーヒーに写る自分の姿を見つめて、何処か遠い目をしている。何か色々気苦労したのだろう。


「…ですが、ユウフェ殿がそういう事をする時は何か意味がある気がします」


 その瞬間、俺の言葉に、公爵の目つきが変わって真剣なものになった。


「やはり、勇者様もそう思いましたか。


あの子が突拍子もない事をする時は、いつも何か意味を持つのです」


「前にも何かあったのですか?」


「ええ、まずはあの子がまだ5歳にも満たない頃、

急に治癒師の勉強がしたい、先生を付けて欲しいと、それは熱心にわたしに頼んで来ました。貴族の令嬢には手に職についての勉学は要らないと言うのに。…それが、突拍子もない行動の始まりだった様に思います」


「そんな幼い頃から治癒師の技術を学んでいたんですね」


「はい…色々、それからほんとーに色々!他にも令嬢らしからぬ行動はありましたが…中でもある日の事、〝旅に出たい〟と言いました」


「旅に?」


「そうです。〝旅に出てある村を見つけたい〟…と」


…前に渡された治癒師の評価が書かれたチラシに、様々な村の名前があったので可笑しいなとは思ってたけど、そういう事か。


「村を回って旅をしていたんですね」


「はい。娘は言っていました。

〝村の名前はわからない。けれど勇者様を見つけなければ〟と。言われた時は、何の冗談かと思いましたが、そのまま娘は本当に旅に出ました。

そして…それから一年した後に、暗い顔で娘は帰って来ました」


「俺が、見つけられなかったんですね」  


(…そんなことがあったのか。


俺を探してーー)


「多分…そうでしょう。泣きながら何かに向かって何度も謝っていました。

ですが後日、今度は大きな救護所の作成を始めました。旅をした際に稼いだお金を全て使い、出来るだけ多くの救護所を」


「その後、西の魔王に目を付けられ公爵領が攻撃を受けたのですね」





「!…そうです。娘の作った救護所はあっという間に怪我人で溢れかえりました。

もし、救護所が無ければ数多の怪我人が野ざらしのまま数日、いや何十日もの間、雨風にさらされ、疲弊し、大半が治療も受けられずに死んでしまった事でしょう。

だが、救護所の清潔な環境で、適切な治療を受けられた。

そして娘が治癒師として活躍したお陰で更に多くの者が救われました。


ですからレイヴン殿、娘が突拍子もない事をした時は信じて見守ってやってください」


「公爵……」




「ですが!だからと言って、まだ未婚の男女ですからーー清い交際を!絶対にです!」



(1番言いたかったのはそこか)


「…はぁ…」


「いいですか?指一本も触れてはいけませんからね?」


「いや。それは流石に…」


「貴族の令嬢とはそういうものなんです!

婚約者として許されるのは本来、一緒にお茶をするとか、デートをするとかです。くれぐれも清い、真っ白な交際でお願いしますね!ね!?」


「は…はい……(指一本は治療されてるから無理だけど…)」







♢♢♢







 こうして公爵に同居を認められたものの、清い交際を約束させられた勇者は、帰路に着くべく王宮を後にした。


(だよなぁ…。おかしいとは思ってたけど。まさか公爵に黙って来てたとはな)



 馬車の中でふいに、マントの裾を持つと、紋章が刻まれた布地を親指で擦り、ユウフェと共に繕って完成させた時の光景が蘇る。




『〝旅に出てある村を見つけたい〟…と』


『泣きながら何かに向かって何度も謝っていました』



 勇者は顔を上げて、馬車の窓から見える夕日に、目を細めた。





(そうか…ユウフェは、あの事を知っていたのか)

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