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勇者はサブヒロインを意識している 勇者side


  邸宅に帰った後、勇者が上半身の服を脱いだ背中に、薬を塗り込む為に、ユウフェの指先が触れている。

 背中に伝う、か細く柔らかな手の感触に癒されつつ、勇者は触れられてほんの少し意識してしまう。


 密室で2人きり、ベッドの上。年頃の男女で久々に会う可愛い婚約者である。健全な男なら至極当然の事と言えた。


(婚約者って、恋人だよな。キスとかしても良いのか?)


 勇者の後ろで、背中の傷の具合ごとに分けて薬を調合しているユウフェの横顔を、チラリと見る。


(今まで会った貴族子女は見ただけで〝有難く思いなさい〟って顔された印象しかないな。


けど…ユウフェはそのイメージとは全然違うし…かと言って平民の女の子とも違う。取り敢えず、こうして触られてると、変な気になるな…)



 勇者も年相応に性欲はある。だが平民ならともかく、公爵令嬢などの貴族の娘は結婚の初夜までそう言う(・・・・)事をしてはいけないくらいの常識も知っている。


 けれど、数日ぶりの再会も手伝っているのか、こうして薬塗られているだけでも、心臓がとにかく煩くなる。炎龍と対峙した時より脈が早い。


(公爵はその辺、どう考えて娘を此処に住まわせているんだ? 良いのか?最後結婚するんだから良いよって事なのか?)



 自分が勇者だからユウフェの親も信用しきっているのだろうか。勇者は魔王を倒せるだけで別に聖人君子な訳ではないと言うのに。


「勇者様」


 ビクッ

「…、…何?」


 一生懸命尽くしてくれているのに、邪な事を考えてしまうのをバレないように、極力平静を装った。

 

「あの…じ、実は……」


言い淀む声に、勇者は後ろを振り返ると、薬がついた指先を胸元で抱えて、もじもじとしながら頬を朱らめているユウフェの姿に、胸の高鳴りが期待をしている正直な勇者の気持ちを表していた。 


 ユウフェの手に、自分の手を重ねようとした瞬間ー…



「実は…龍討伐後の叙勲式に着けていただく予定のマント、まだ未完成なのです。当日に間に合いそうにない程に未完成なのです。」


 そう言いながらユウフェはカァッと真っ赤になって両手で顔を覆った。


「マント?」



「申し訳ございません!私の不徳の致すところです。判断ミスです。採取よりも繕い物を先にすべきでした……」



(…紛らわしい!)と内心で叫びつつも、

涙目のユウフェに文句なんて言えるはずもなかった。


「…いや、それは西の魔王討伐した時のやつがあるから別に…」




「名誉な事ですのに、使い回しをさせてしまうなんて、出来ません!それはそれで大切に保管させて頂いてますし」


「…それじゃあ、適当に街中で…」



「名誉な事ですのに…適当なんていけません…」


 涙目になってしまった。


(うーん、どうしようか)



「じゃあ、今から一緒に繕えば間に合うんじゃないかな?俺もそう言うの出来るよ。実家で冬支度とか間に合わない時手伝ってたし。結構早いと思う。」


「勇者様にそのような事は……」



 紡ぎかけた言葉をユウフェが止めたのは、目の前に居る勇者が、静けさを奥に宿したターコイズの目で真っ直ぐに見つめてきたからだ。ユウフェはその瞳に小さく息をのんで頬を染めた。


 勇者は身体ごと振り返って、ユウフェの胸元に抱え込んだ手を包み込むように握る。


 傷の一つない綺麗な白い柔らかく小さな手。

 だけど、治癒師は手でこうして直接患者に触る。だから少しの引っ掛かりも与えないよう手に傷を作らないように気を付けているのを知っている。

 だから、この手が苦労知らずな訳でない事は勇者にもわかる。


「今回炎龍の討伐、事前にユウフェが適切な治療を施してくれたから身体を自由に動かせた。

装備も薬も事前に必要なものちゃんと見繕ってくれたから回復も適切に出来て余計なダメージをパーティーにも俺にも与えなかった。

だから、今回の仕事は半分ユウフェに手伝って貰ったようなものだ」


「…そんな事は。私は、何も」


「幾ら龍が、西の魔王より弱いとしても、西の魔王から受けた傷を、ユウフェの治療を受けないまま行っていたら状況は全然違ったよ。だって、攻撃避けるのは全部すれすれだったから。

おかげで治療してもらった傷が開くくらいには加減出来なかった」


「……。でも。私は実際に一緒に戦った訳じゃ…」


「何でも自分でしようとしなくて良いんだ。

俺に出来ない事は君が出来る。君に出来ない事は俺が出来る。2人で出来ない事は2人で学び、2人に出来る事は2人でやれば、良いんだよ。


ユウフェ」



アメジストの綺麗な瞳が見開いて、潤んでいるのがわかった。

 今、頬に宿っている朱みはきっと、勘違いでないと思う。


 勇者がそっとユウフェの頬に手を添えてみれば、その手に手を重ねて幸せそうな表情で頬をすり寄せるものだから、身を乗り出しかけた勇者は何かを堪えた。



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