第3話 友人を幸せにするのは王女の勤め
エリザベスとカイルとルルーシュ。
三人は、同じクラスで、いつも一緒に行動している。
移動も、昼食も、課題も、だいたい三人1セット。
周囲からは「仲良し三人組」と呼ばれているけれど、今日、気づいてしまったのだ。
カイルとルルーシュが並んで歩いているのを見たとき、エリザベスは確信した。
この二人、ぴったりじゃない?
決して、筋肉布教を諦めたからそう見えるわけじゃないわ。ぴったりなのよ!
私は、前世でスポーツジムのトレーナーになるために、大学では運動生理学とパーソナル分析を学んでいたから、性格や生活習慣の傾向を見抜くのは得意なの。筋肉を育てるのと同じように、人間関係も育成と相性が大事。
ルルーシュは穏やかで、話を聞くのが上手。そして、婚約者はいない。
カイルは誠実で、静かな時間を好むタイプ。彼はあくまで婚約者候補。婚約者じゃないってところが重要。
二人は趣味も合う。紅茶が好き。詩集も好き。スイーツも好き。
そして何より――筋肉に興味がない。
これ最重要!
それに、もう一つ。すごいことに気づいたの!
この国は、肥沃な土地と穏やかな気候に恵まれ、農業が盛んだ。
穀物や果物の生産が国の基盤を支えていて、貴族たちも農業政策に深く関与している。
グランドル公爵家――カイルの家は、農業政策に深く関わっている。
アスリト侯爵家――ルルーシュの家は、農業技術の支援をしている。
つまり、二人が結ばれれば――
農業政策が円滑に進む!
国益になる!
筋肉は育たないけど、作物は育つ!
これはもう、恋愛マッチングじゃない。
政策支援型マッチングよ!
二人の性格・趣味・食の好み・会話のテンポを分析して、相性を数値化してみたら……
「結果:相性度92%」(※当社比:過去最高(笑))
これはもう、二人をくっつけるしかないわ。
よし、作戦開始よ!
「では、本日の視察は、ルヴァン南部の穀倉地帯です。二人とも、準備はよろしくて?」
エリザベスの声に、ルルーシュとカイルが頷いた。
学園の課外活動として企画した農業振興視察――その実、恋愛マッチング計画の一環である。
もちろん、王女としての公務でもある。筋肉探しも兼ねている。つまり、三重の意味で重要な任務なのだ。
馬車で揺られること一時間。広がる麦畑と、のどかな農村の風景。空は高く、風は穏やか。
ルルーシュは「空気が甘いわね」と微笑み、カイルは「土壌の質が良さそうです」と真面目に分析している。
……やっぱり、ぴったりじゃない?
一行はにこやかに農家の者たちに挨拶を返し、収穫体験へと向かった。
エリザベスは、鍬を持つ農夫の腕を見て、思わず目を輝かせる。
「……あの上腕、完璧」
「ベス、また筋肉見てるでしょ」と、ルルーシュが苦笑する。
「見てるわよ。見ない理由がある?」
麦畑の端で、ルルーシュとカイルが並んで立っていた。
エリザベスは少し離れた場所で、農夫の上腕を眺めながら、耳だけはしっかりそちらに向けている。
「今年、この辺りは雨が少なくて……」
ルルーシュが、畝の乾いた土を見つめながら言った。
カイルが少し首をかしげる。
「この地域って、アスリト侯爵家が水路整備を支援してるんでしたっけ?」
「ええ、そうなんですが、水路の整備が追いつかなくて、畑によっては収穫量に差が出てしまうんです。同じ種をまいても、場所によって半分くらいしか育たないところもあって」
「……それは深刻ですね」
カイルは、眉をひそめて小さく頷いた。
「灌漑設備の整備は、やっぱり優先すべきだと思います」
カイルは視線を土に落としたまま、ぽつりとつぶやいた。
「でも、それだけじゃ……足りないな。……人材育成の支援も必要か」
ルルーシュが、少し首をかしげる。
「人材育成……農業の?」
「保全管理ですよ」
カイルは、声の調子を崩さず、静かに言った。
「せっかく整えた水路も、使い方が分からなかったり、壊れても直せなければ、長くは持ちません。
だから、地域で維持できる人材を育てる仕組みも――一緒に考えるべきだと思います」
ルルーシュは、目を見開いた驚いた。
「……そういう考え方もあるのね。設備だけじゃなくて、使えるようにすること。私たち技術側も、そこまで考えなきゃいけないのかもしれないわ」
ふたりは、目を合わせて、照れたように笑い合った。
あら?
何もしなくてもいい感じじゃない?
そして、午後には、地元のスイーツ試食会。
ルルーシュは苺のタルトを選び、カイルは蜂蜜のパイを手に取る。
エリザベスは、もちろんチョコレート系。筋肉に効くから。
「エリザベス様は、なぜこの視察を企画されたのですか?」
カイルが、尋ねてきた。
「国益のためよ。農業振興は王族の責務だもの」
「……それだけですか?」
エリザベスは、チョコをかじりながら、彼の顔を見た。
その目は、何かを見抜いているようだった。
「……気づいてたのね」
「ええ。……この催しの背景にあるお気持ち、察しておりました」
カイルは少し黙ってから、静かに言った。
「そのご配慮に、感謝します。ルルーシュ嬢とは、互いに支え合える関係を築けると思います」
二人は見つめ合い、ほほを赤く染める。
「……筋肉は育たなかったけど、恋は育ったのね」
私は、満足げに頷いた。
でも、恋も、案外いいものかもしれないわね。




