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第1話 目覚めたら王女だった

――どこよここは。

目を開けた瞬間、まず思ったのはそれだった。

天井がやたら高い。カーテンがふわふわ。ベッドが広すぎる。

そして、枕元には見知らぬ女性がメイドのような恰好をしていて、にっこり笑ってこう言った。

「エリザベス王女様、お目覚めですか?」

……はい?

え、王女様って、誰のこと? 私? え、私??

いやいや、そんなバカな――と思ったのも束の間。

頭の中に、すーっと情報が流れ込んできた。


ルヴァン王国。農業が盛んな、のんびりした平和な国。

四季の恵みに満ち、世界でもっとも多彩な食材が育つ土地。

人々は食を愛し、暮らしの中心にはいつも豊かな食卓がある。


そして私は、その王国の王女――エリザベス・ヴァレンティス・ルヴァン。18歳。


……え、18歳? 若っ!

鏡を見て、さらに驚いた。

腰まで届くふわふわの栗色の髪に、大きな空色の瞳。

肌は透けそうなくらい白くて、顔立ちはまるで絵本の中のヒロイン。


「可憐」って、こういうのを言うのね……って、私!?


これは――転生したっていうこと、なんだろうか。

小説もゲームもあまり興味がなかったから、よくある転生モノってやつかどうかはわからないけど、

まあ、細かいことは気にしない。


前世のことはあまり思いだせないけど、性格は変わってなさそうだ。

運動大好き、走るの大好き、馬に乗るのも大好き。

王女だろうがなんだろうが、走れるならそれでよし!


そう、エリザベスはポジティブシンキングで、細かいことは気にしない性格だ。

――たぶん、王女らしくはない。でも、まあいいか。


そんなことを考えていたら、侍女がにっこり笑って言った。

「では、お着替えなさいますか?」


彼女は、エリザベス付きの侍女――ミーナ。

小さいころから、ずっとエリザベスに付いていて、いつも親身にお世話をしてくれている。

うん、ちゃんとわかる。覚えていてよかった。


……そうだ。王女って、パジャマのまま朝食行ったらダメなやつだ。

ていうか、そもそもこのふわふわネグリジェ、外に出る勇気ない。

案内されるままに、鏡の前で着替えを済ませる。

レースとリボンがふんだんにあしらわれたドレスに、ふわっとしたケープ。

……うん、悪くない。ちょっと動きづらいけど、走れなくはない。


そして、朝食の席へと向かうと、

そこには、父王、母王妃、そして――6歳上の兄、アレクお兄様が座って待っていた。


……たくましい筋肉美。

肩幅、胸板、盛り上がった上腕二頭筋。王族の威厳と鍛錬の成果が、そこにあった。


その瞬間、なぜか胸がざわついた。

……あ、私、筋肉が好きだった。

思い出した。前世、私はスポーツジムのトレーナーだったのだ。


筋肉こそ美。筋肉こそ信頼。筋肉こそ正義。

アレクお兄様の腕を見て、眠っていた筋肉愛が見事に目を覚ました。


そうだ、私は筋肉が好きだったんだ。

王女になっても、その本能は変わらないらしい。


軍服の肩が、今日も見事に張っている。

「おはよう、エリザベス」

「おはよう、お兄様。今日も筋肉の調子がいいわね」

「……筋肉の調子?」

(三角筋が昨日より立体的だわ)


「昨日はどんな訓練をしたの?」

兄はスープをひと口すすり、戸惑いつつも答える。

「昨日か?昨日は剣術の稽古と弓の練習、それから騎乗戦術の確認だ。馬上での姿勢維持と、突きの動作を繰り返した…かな」

「……なるほど。王族らしい鍛錬ね。でも――効率が悪いわ」


兄が手を止める。

「効率?」

「剣術はいいの。でも、弓は片側ばかり使うから筋肉が偏るし、騎乗戦術は体幹には効くけど、下半身の筋肉が伸びきらないのよ。つまり、全体のバランスが崩れるわ」


「……そうか?」


「ええ。だから、補助トレーニングが必要なの。たとえば――」

エリザベスは身を乗り出し、語気を強める。


「馬上姿勢を意識して、地上でスクワットを取り入れるの。

そうすることで、騎乗時に使う筋肉――体幹と下半身の連動を、ちゃんと狙って鍛えられるわ」

「それから、弓の稽古だけど、片側ばかり使ってると肩や背中に負担がかかるから、反対側でも引く動作を加えたほうがいいと思うわ」


兄は、エリザベスをじっと見つめた。

「……ベス、急にどうしたんだ?」

「なんとなく、気になったの。お兄様の鍛え方、少しだけ改善できると思って」


兄は、しばらく沈黙した。

そして、ふっと笑った。

「じゃあ、言われた通りにやってみるよ。左右差の調整と、体幹スクワット……だったか?」

「そう! お兄様、素直でよろしい!」

兄は、肩をすくめて笑った。


その様子を見ていた王と王妃は、互いに目を合わせ、いぶかしげに眉を寄せる。

「……ベスが元気なのはいつものことだけど」

「筋肉の話をするなんて、どうしたんだ?」

「なぜそんなに詳しいのかしら?」

「最近、何かあったのか?」


しまった、そういえば――思い出す前は、筋肉の話なんてしたことなかった。

心の中でつぶやきながら、笑顔を作る。


「えっと……ちょっと、読んだの。鍛錬の本。……お兄様に、もっと強くなってもらいたくて」

声の調子を整えながら、なんとかごまかす。


兄の笑顔が、深くなった。

「……そうか。ありがとう、ベス」


王妃が小さく首をかしげ、王がカラカラと笑った。

「……まあ、ベスらしいといえば、らしいか」

「ええ。突拍子もないことを言い出すのは、昔からだったものね」


ベスはスプーンを指先で転がしながら、そっと息を吐いた。

――なんとか、乗り切った。たぶん。

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