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常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第2章 常世へ続く風の道
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第4節「詠み人の資質」

常世の霧の中、ミヨは湊を静かに見つめていた。

 その眼差しは、どこか試すようで、どこか優しかった。


「湊……あなたの声には、まだ自分でも知らない力が眠っている。」


「僕の……声に?」


 湊は思わず喉に手を当てた。これまで自分の声を特別だと思ったことなど一度もない。

 けれど、短冊に触れたとき、確かに“言葉が光る”瞬間を見た。


 ミヨは一枚の白い紙を差し出した。

「試してみて。心に浮かんだ言葉を、ただ声にしてみるの。」


 湊は戸惑いながらも、ゆっくりと目を閉じた。

 祖母の声を思い出す。幼いころ、夜眠れない時に唱えてくれた祈りの言葉。


「……ひふみ、よい……。」


 その瞬間、紙の上に淡い光の文字が浮かび上がった。

 揺れる炎のように形を変えながら、言葉は空気に溶け、霧の中に漂っていく。


「……見える……。」


 湊の瞳に映ったのは、自分の声が光の粒となって空間を満たす光景だった。

 声がただの音ではなく、世界に刻まれる“力”だと、初めて実感した。


 ミヨは微笑み、頷いた。

「それが“詠み人”の資質。言葉をただ使うのではなく、響きそのものに命を与える力。」


 湊は震える手を握りしめた。

 自分が特別だなんて信じられない。

 けれど、確かに今、この目で見た。声が世界を動かす瞬間を。


「……僕に、本当にできるのかな。」


 不安げに呟く湊に、ミヨは静かに答えた。

「できるかどうかじゃない。あなたしか──できないの。」


 その言葉は、常世の風よりも重く、湊の胸に深く刻まれた。

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