表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第1章 封じられた祝詞と、言霊の井戸
5/21

第4節「言葉をなくす病」

翌日の学校は、どこかざわついていた。

 教室に入ると、黒板に書かれた文字が半分ほどかすんで消えている。先生がチョークを走らせても、すぐに白い粉だけが残り、書いたはずの字は輪郭を失っていった。


「先生、それ……見えないんですけど。」

「いや、ちゃんと書いてるぞ。ほら、これは──」


 そう言いかけた先生の声が、急に途切れた。

 口は動いているのに、音が意味を持たず、ただのざらついたノイズに聞こえる。

 クラスの全員が息を呑み、耳を塞いだ。


 次の瞬間、隣の席の女子が泣き出した。

「ノートが……ノートが読めない……!」


 開かれたページには文字がびっしり書かれていたはずだ。けれど、今は黒い線がぐちゃぐちゃに絡み合っただけの模様になっていた。


 教室の空気が一気に冷え込んだ。

 誰もが言葉を失い、ざわめきだけが響いた。


 放課後、湊が商店街を通ると、シャッターに掲げられた看板の文字が消えかけていた。

「八百屋」のはずが「八 屋」と空白になり、「薬局」は「 局」と読めるだけだった。


 通りすがりの老人が、焦った顔で湊に話しかけた。

「なぁ、坊主……“言葉が消える”ってことが、本当にあるのか?」


 湊は返す言葉を探したが、喉が詰まって声が出なかった。

 昨夜の井戸の声が頭の奥で蘇る。


 ──ここに、ことばはねむる。


 祖母の死とともに途絶えた祈り。

 そして今、世界から奪われていく言葉。


 それは、町だけの問題ではない。

 やがて、この国全体、いや、世界へと広がっていく“病”の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ