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常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第1章 封じられた祝詞と、言霊の井戸
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第3節「言霊の井戸」

短冊を手にしたその夜、湊は眠れなかった。

 布団に入っても、あの声の余韻が耳から離れない。

「……うた……わすれるな……。」


 夢うつつの中で、ふと祖母の言葉がよみがえった。


 ──“井戸の底には、声が棲んでいるんだよ。”


 幼い頃、祖母に連れられて行った古井戸の記憶。山裾の竹林に囲まれた場所にあり、もう誰も使わなくなったはずの井戸。祖母はよく手を合わせ、何やら小さな声で祝詞を唱えていた。


 翌日、居ても立ってもいられず、湊は一人で山道を登った。

 蝉の声が遠ざかり、竹がざわめく細い道を抜けると、そこに苔むした石垣と古い井戸があった。


 井戸の周りは不思議なほど涼しく、風が流れていた。

 湊は短冊を取り出し、井戸の口にかざしてみた。


 すると、紙片の文字がふわりと浮かび上がり、井戸の底から水音のような響きが返ってきた。

 それは音でもなく、言葉でもなく、胸の奥に直接届くような声だった。


「……ここに……ことばは……ねむる……。」


 湊の心臓が大きく跳ねた。

 誰の声かわからない。けれど、確かに“生きている”気配があった。


 その瞬間、井戸の水面に小さな波紋が広がり、風が強く吹き抜けた。

 湊の手から短冊が舞い上がり、井戸の上で光の粒となって弾けた。


 まるで、井戸が呼吸をしているようだった。


 湊は震える声で呟いた。

「……祖母さん、これが……“言霊の井戸”……なのか。」


 その言葉を皮切りに、井戸の奥から再び声が響いた。

 今度ははっきりと、ひとつの言葉を告げた。


「……トコヨ……。」

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