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常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第1章 封じられた祝詞と、言霊の井戸
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第2節「誰にも読めない短冊」


 祖母の四十九日を控えたある日の午後、湊は神社の掃除を手伝うことになった。

 霧結町の小さな鎮守──白霧神社は、山の斜面にひっそりと建っている。参道の石段には落ち葉が積もり、社殿の屋根瓦には苔が生えていた。


 境内を掃き清めていると、古びた倉の鍵を預かった神主が「少し整理しておいてくれ」と頼んできた。誰も近寄らなくなった倉には、埃をかぶった祭具や古い掛け軸が雑然と積まれていた。


 湊は戸口を開けると、むっとするような湿った匂いに顔をしかめた。

 そのときだった。棚の隅に落ちていた木箱が、かすかに光を放っていたように見えた。


 箱を開けると、中には黄ばんだ和紙が何枚も重なっていた。

 短冊のように切りそろえられた紙片には、確かに文字が書かれている……はずなのに。


「……なんだ、これ。」


 湊は目を凝らした。

 ところが、その文字は墨で書かれたはずなのに、まるで水に滲んだように輪郭が掴めない。見ようとすればするほど、形が崩れ、意味を結ばない。


 不思議なことに、声に出して読もうとしても舌が回らなかった。

 まるで、言葉そのものが拒んでいるようだった。


 ただ一瞬だけ──風が倉の隙間から吹き込んだとき。

 短冊の文字が浮かび上がり、淡い光を帯びた。


 そのとき、湊の耳に、誰かの声がかすかに届いた。


「……うた……わすれるな……。」


 振り返っても誰もいない。

 あるのは、光る短冊と、胸の奥を震わせるような声の余韻だけだった。

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