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エピローグ「風が運ぶ未来」
朝の光が霧結町を包んでいた。
蝉の声が響き、子どもたちの笑い声が校庭に戻っている。
商店街には人の声があふれ、誰もが互いに言葉を交わしながら歩いていた。
世界は再び、言葉を取り戻した。
湊は丘の上に立ち、風に頬をなでられながら空を見上げた。
あの夜に見た、光の文字たちの残像はもうない。
けれど、耳を澄ませば、風の中に誰かの祈りがまだ流れている気がした。
──ありがとう。
──また明日。
──生きたい。
そのひとつひとつが、確かに世界を形作っている。
「……ミヨ。」
彼女の名を呼ぶと、風がやさしく吹き抜けた。
姿はもうない。けれど、残した声は今も生きている。
それが湊の胸に宿る永遠の灯だった。
湊はポケットから短冊を取り出した。
すでに光は失われ、ただの白い紙に見える。
しかし、その上に鉛筆で一言だけ書き加えた。
──「ありがとう」
それは誰に向けた言葉か、自分でもはっきりしない。
祖母に、ミヨに、世界に。
けれど、その一言を声にした瞬間、確かに風が応えてくれた。
湊は微笑み、歩き出した。
言葉は消えない。
たとえ忘れられても、祈りとして常世に残り、誰かの声に呼び覚まされる。
そして今日もまた、風は未来へと運んでいく。
ひとつの声が、次の声へと繋がるように。




