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常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第4章 失語の夜と、祈りの覚醒
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第3節「詠むということ」

 ミヨが霧に消えたあと、湊は長い間、立ち尽くしていた。

 胸の奥に残ったのは、どうしようもない喪失感。

 けれど、その中に確かに、彼女の声が息づいていた。


 ──お願い、歌を完成させて。


 湊は短冊を手に取った。

 そこには相変わらず、輪郭の定まらない文字が浮かんでいる。

 何度見ても、意味を結ばず、ただ滲むように揺らめくだけだった。


「どうして、読めないんだ……。」


 苛立ち混じりに呟いた瞬間、ふと祖母の言葉がよみがえった。


 ──言葉は“唱える”ものじゃない。“感じる”ものなんだよ。


 湊ははっとして、深く息を吸った。

 目を閉じ、文字を「解読」しようとするのではなく、その気配を心で受け取る。

 すると、不思議なことに、黒い滲みの奥から柔らかな響きが浮かび上がってきた。


 それは、意味ではなく“祈り”だった。

 「ありがとう」「生きたい」「また明日」──それぞれの声が重なり、ひとつの旋律になろうとしていた。


「……そうか。

 “読む”んじゃない。

 “詠む”んだ。」


 湊は小さく呟き、声を重ねた。


「ありがとう。

 生きたい。

 また……明日。」


 言葉が空へ放たれた瞬間、短冊が光に包まれ、文字がはっきりと浮かび上がった。

 それは、失われていた《歌》の断片。


 湊の胸が震えた。

 言葉とは、ただ意味を伝える記号ではない。

 心と心をつなぐ“祈りの器”なのだ。


 彼はようやく、自分が“詠み人”である意味を理解し始めていた。

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