第4節「風が運ぶ残響」
廃校の黒板に残された言葉。
祈らなかった神主の胸に眠っていた声。
そして、夜鳴き石の娘が託した想い。
三つの断片を手にしたとき、常世の風がざわめき始めた。
霧結の山々を渡る風が、湊の頬を撫でる。
その風の中に、かすかな旋律が混じっているのを感じた。
歌でも、声でもない。
それは、祈りと祈りが重なって生まれる“残響”だった。
「……聞こえる?」
ミヨが問いかける。
湊は目を閉じ、静かに頷いた。
耳を澄ますと、誰かが囁く声が風に溶けていた。
──ありがとう。
──生きたい。
──また明日。
それは三つの断片が繋がり、ひとつの旋律を形作ろうとする瞬間だった。
湊は短冊を両手に掲げ、そっと声を重ねた。
「……ひふみ、よい……。ありがとう。生きたい。また明日。」
その声が空へ放たれた瞬間、風が強く渦を巻いた。
光の粒が舞い上がり、空中で文字のように散りばめられた。
やがて、それらは線を結び、ひとつの詩となって浮かび上がった。
「これが……《トコヨノカミノウタ》の旋律……!」
ミヨの瞳が驚きに輝く。
常世の空が震え、揺らぎ始めた。
消えかけていた記憶の壁に、再び色が戻っていく。
しかし同時に、黒い影のようなものが風に混じって現れた。
風が蘇ることを妨げるように、濁った声が渦の中で呻いている。
「……まだ早い。
歌は完全じゃない。」
ミヨは湊の肩を掴んだ。
「残響が生まれたことで、あの存在も目を覚ました……!」
湊は喉を締めつけられるような感覚に襲われながらも、風に向かって声を放った。
「僕は、必ず歌を取り戻す……!」
その叫びに応えるように、風は再び光を帯び、空へと駆け上がった。




