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常世の詠み人(とこよのよみびと)  作者: 霧坂 レイ
第3章 言葉を失くした人々の祈り
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第4節「風が運ぶ残響」

廃校の黒板に残された言葉。

 祈らなかった神主の胸に眠っていた声。

 そして、夜鳴き石の娘が託した想い。


 三つの断片を手にしたとき、常世の風がざわめき始めた。


 霧結の山々を渡る風が、湊の頬を撫でる。

 その風の中に、かすかな旋律が混じっているのを感じた。

 歌でも、声でもない。

 それは、祈りと祈りが重なって生まれる“残響”だった。


「……聞こえる?」

 ミヨが問いかける。


 湊は目を閉じ、静かに頷いた。

 耳を澄ますと、誰かが囁く声が風に溶けていた。


 ──ありがとう。

 ──生きたい。

 ──また明日。


 それは三つの断片が繋がり、ひとつの旋律を形作ろうとする瞬間だった。


 湊は短冊を両手に掲げ、そっと声を重ねた。

「……ひふみ、よい……。ありがとう。生きたい。また明日。」


 その声が空へ放たれた瞬間、風が強く渦を巻いた。

 光の粒が舞い上がり、空中で文字のように散りばめられた。

 やがて、それらは線を結び、ひとつの詩となって浮かび上がった。


「これが……《トコヨノカミノウタ》の旋律……!」


 ミヨの瞳が驚きに輝く。

 常世の空が震え、揺らぎ始めた。

 消えかけていた記憶の壁に、再び色が戻っていく。


 しかし同時に、黒い影のようなものが風に混じって現れた。

 風が蘇ることを妨げるように、濁った声が渦の中で呻いている。


「……まだ早い。

 歌は完全じゃない。」


 ミヨは湊の肩を掴んだ。

「残響が生まれたことで、あの存在も目を覚ました……!」


 湊は喉を締めつけられるような感覚に襲われながらも、風に向かって声を放った。

「僕は、必ず歌を取り戻す……!」


 その叫びに応えるように、風は再び光を帯び、空へと駆け上がった。

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