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英霊が来る  作者: 大和あゆむ
第1章 『シル』
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第2話  「英霊が居る」

 

 白馬に乗馬した巨躯(きょく)の男が、戦場を掻き回す。


「相手は反乱軍、元国民とはいえいずれは脅威になる存在。情は無用だ、殲滅しろ!」

「「「はっ!」」」


 光翼団(こうよくだん)は、真然術(しんねんじゅつ)を扱いながら狂気的に士気を上げた反乱軍へと襲撃を仕掛ける。

 対極、地に足を付けた長身の男が、戦場を駆け抜ける。


「相手は光翼団! あの馬鹿げた王家に従う天術(てんじゅつ)兵団(へいだん)や! このまま突っ込むで」

「待て!」

「なんや! エバンじゃなくて大将」

「一旦退くで、あいつは危ない……」


 撤退の命令に不満を抱いた長身の男は、自身に向けられる火式を華麗に避けながら後ろを振り向く。


「あいつは危ない? 何やねん弱気やな、オレらはずっと勝ち続けてきたやろ?」

「今回に関してはそうもいかへん……」

「そないにヤバいのか?」

「ああ、あいつは光翼団第三分団長オーラグレイ・ジアーツ。イスタルク南部において最強を誇る男や」


 その言葉を聞いた長身の男は、件の存在に視線を向けようとする。刹那、視界が白い毛並みに染まり、その正体が馬だと分かった時、馬特有の咆哮(ほうこう)が耳を劈く。

 自身をここまで導いてきた運が瓦解する、そんな音が聞こえた。

 白馬の上に、彼が乗っている。


「王家に不満を持つ気持ちは正直わかる。だが悪いな。これは家族を守るためなんだ」


 首に苛烈な痛みを感じた瞬間、視界が反転した。球体のようにコロコロと転がっていく。そして漸く気づく、自分は首を()ねられたのだと。

 途絶える寸前のその声で男は呟いた。


「これが……オーラグレイ……」


 エバン率いる反乱軍は快進撃を続けるも、南部最強オーラグレイ・ジアーツ率いる光翼団第三分団と対戦し敗走。反乱軍総勢二千に対して、第三分団はたったの百だったという。




「誰なんだよ、自分は」


 嘆息と同時に心の内を流す。

 薄々感づいていた事だが、自分は記憶を無くしていた。これまで生きてきた生涯全ての記憶を。

 しかし、逆に何もかも知らないこの世界で自分がどう生きてきたのか分からない以上、酷く厭う理由もなかった。少しだけ過去に興味が湧くとそのくらい、のはずだ。


「本当に何も覚えてないのよね?」

「はい……家族も……自分の名前も……全て」

「じゃあ落雷を受けてから記憶を失ったって事? やっぱり雷の衝撃で記憶を失ったのかな?」

「雷による衝撃の可能性もあるが……断定はできないな。雷を受けるのと記憶喪失に因果関係があるのかどうか。まぁひとまずは無事を喜ぶべきだろ。命の危機に瀕していたんだからな」


 自分と同い年くらいの少年少女は、記憶に対する疑念と存命に対する安堵を示した。

 モナさんが急に抜け出して連れてきた二人だが、どうにも気を失っていた自分の状態を幾らか知っているようだった。


「紹介するわ。こちらが長女のホルンに長男のカルガ。あなたをここまで連れてきたのも二人なのよ」


 最初に見つけてくれたのは姉弟二人らしく、自らの判断でここまで運んできたくれたらしい。命の恩人はモナさんだけではなかった。


「本当にありがとうございました」

「良いの良いの」


 両手を大仰に振るホルンさんは、茶色の髪を肩にかからない程度に揃えた可憐な容姿をしていた。当たり障りが無く気さくでとても喋りやすい印象だ。


「記憶を失っているのに随分喋れるな。そこらは支障がないってわけか」

「ええ、日常会話は普通に出来るようです」

「そうか、良かったな」


 一方弟のカルガさんは、聡明な立ち振る舞いをし、年相応には思えないほど落ち着きがある。そのためか姉と同じ茶色の眼と髪をしていても、何処か少しだけ影がかかっているように感じた。


「あのさー、何かを見て思い出す事とかないの? 例えば身に着けていた物とか」

「あ。包帯を巻く時にちょうど見つけたんだけど、ポケットの中にネックレスが入っていたわ」


 顎に手を当てて疑問を投げかけるホルンさんに、モナさんが掌を拳でぽんっと叩き、ネックレスの所在地を左右見渡し探し始める。あったと小さく口にしてネックレスを掴み、期待と不安が混沌した様子で自分に見せてくれた。


「どう?」


 ネックレスは、菱形の蒼白な水晶で出来ており、中々の値打ちがあると一目見てわかる。

 自分は、一縷の望みにかけて痛む身体を無視して覗いてみるが、


「何も……思い出せません」


 少しの希望さえ現れてはくれなかった。記憶を失っているのは前々から分かっていたこと。でも、何処かすぐに思い出すだろうという甘い考えがあった。自身が所持していたネックレスの思い出一つも見せてくれない。淡い期待は罪深く心の傷が残るほどに鋭利な物だと感じる。

 目を落として考え込む。


「ん? あれ?」


 これからどうすれば良いのだろうか。


「ここに何か書かれてない? 『ライ』って?」


 過去の自分はどうやって生きてきたのか。一体何処に住んでいたのか。


「ホントだわ。しっかり書いてあるわね」


 自分に家族は居るのか。居たとして再会できるのか。


「『ライ』って人名かな?」


 過去の自分が存在したことすら証明できない自分は何者なのか。


「そうねー、聞いたことはないけれど居てもおかしくはないわね」


 ここで漸く自分が拳を強く握っている事に気づく。ゆっくりと力を抜き、嘆息を零す。

 本当にこれからどうすれば良いのだろうか。


「君さー、名前『ライ』って言うんじゃない?」

「え?」


 急に話しかけられたことで、喫驚し憐れな声音が漏れてしまう。同時に心臓がドキリと跳ねた。心が異様にざわつく。だが、靄がかかった心に問いかけても返事は返ってこない。


「『ライ』ですか……。ごめんなさい、覚えがないです」

「そう」


 明白に落胆するホルンさんを見て申し訳無さが際立つ。しかし、どうしようもないのだ。


「名前が分からないのだし、いっその事『ライ』と名乗るのはどうかしら? 記憶を失っているからって名前なしとはいかないでしょ?」

「確かにな。半端な名前よりは自分に何かしら関与している名前のほうがよっぽどマシだ」

「それ賛成ー!」


 『ライ』か。別に馴染みがあるわけでもなく、違和感もあまり無い。だが、『ライ』という名前にざわめく心は賛成の意を示しているようだった。自分は、運命に導かれるままに決然とした言葉を発する。


「そうですね、これから自分を『ライ』と名乗りたいと思います!」


 そう口にすると三人からの柔和な眼差しで包まれた。ずっと三人に救われてる。感謝の許容を超えている。考える前に言葉が出ていた。


「何から何までありがとうございました」


 精一杯の感謝を込めて深く頭を下げる。


「私は、子どもたちの手伝いをしただけよ」

「いや、僕も良いんだよ。姉さんがたまたま城の外で修行しようと馬鹿な事を口にしたからすぐ助けに行けたんだ。礼は姉さんにだけ言ってくれ」

「馬鹿は余計!」

「いってぇー」


 躊躇なく弟の頭に拳骨を振り下ろすホルンさん。轟音が鳴り響くもやはり殴られ慣れしているのか、カルガさんは頭を手で押さえ涙目になるだけに収まる。というか、あれに慣れるってどうかしている……。


「くー、本当のことを言ったまでだろ? 何が悪いんだよ」

「あのね、言って良いことと悪いことがあるでしょ? もっと姉さんを敬ってよ……」

「姉さんが敬うことをしていたらの話だろ、それって」

「してるでしょ? 特に今日なんて【(げん)(へん)】を成功させたんだし」

「あ、確かに。姉さんが修行で燃え尽くした大樹に向けて【源変】を放ってい――」

「――ダメダメ……褒めすぎだよ。恥ずかしいからもう言わないで。ね?」

「燃え尽くした大樹? まさか父が大事にした大樹を燃やした訳じゃないでしょうね」


 眼光を光らせて詰め寄るモナさんにホルンさんは両手を振る。


「いや、ママ。そうだけど、そうじゃないの。これはカルガと一緒に燃やしたの」

「どうせ、貴方が無理矢理やらせたんでしょう。ね?」


 大仰に頷くカルガさんと、その様子に対して睨み付けるホルンさん。ほらと一言、娘の下へ一歩一歩重く歩み寄るモナさん。

 握った両手を胸に押し付け、あわあわと震える彼女は、扉に体が当たるまで後退った。


「ホルン、ちょっと来なさい!」

「ママ、服を掴まないで……自分で歩きますから」

「いってらっしゃい」


 二人の背中を見送る。

 静寂は似合わない、そう思う程に喧騒でいて愉快だった。自分が憂う時間を与えないよう気を使って明るくしている、自分にはそう見えた。素直に有り難かった。何かに集中しなければ思慮に思慮を重ね、悪い方向に行ってしまいそうだったから。


「ライ」


 二人がよく分からない大樹の件で退出したあと、カルガさんは一人真剣な面持ちで自分を見据えていた。


「どうしました? カルガさん」

「カルガでいい」

「どうしました? カルガ」

「タメ口でいい」


 カルガは苦笑を挟む。


「……どうした? カルガ」

「ご飯……食うか? 僕が作ってやる」

「いいのか? じゃあ有り難く頂きます」

「そうするといい」


 踵を返すカルガだったが、立ち止まり神妙にこちらを振り向いた。


「記憶なんて元から曖昧だ。失ったのなら仕方ない。これから幸せな日々を送って、過去の自分に嫉妬させてやれ。そうしたら勝手に思い出すさ」

「ありがとう。カルガ」

「ライの最初の友達は僕だな。その事は忘れるなよ?」

「あぁ、忘れないよ……」


 カルガの美味しくて温かいご飯を頂いた。理由は分からない。だけど、目尻が熱くなった。これから先は考えられない。どうするべきで何が自分にとって正しいのかが不明だ。

 生きたいと思わせる希望の光は、眩むほど爛々としていて今の自分では見ることは出来ない。しかし、いつか拝めるその時を願って今は瞼を閉じた。




 夢を見た。

 闇に飲み込まれた世界の中、眼前で四十歳に近い凛々しい男が鷹揚(おうよう)と佇んでいる、そんな夢を。黄色い髪に、頬に一閃の傷。右手に弓を持ち、左手では白き炎を放っていた。自分と目が合うと優しく笑い、口を開けて言葉を発して空気を震わせた。刹那、霧のように漂う闇が彼を襲い、命をいや言葉を奪おうとする。しかし、彼はそれを見越していたかのように、左手で放つ白き炎を更に増大させ、闇を押し退けた。それは彼の体を包み込み、ついには目の前の自分までも包み込んだ。


「生きろ。僕はそれだけを望むよ」


 彼はそう口にして最後、世界を眩しいほどの白光に変えて、姿を暗ました。




「おっはよー」


 バタンと激しく扉を開かれ挨拶と叫ぶのは、部屋着姿のホルン・ジアーツだ。


「朝だよ起きて! ほーら!」


 布団に丸まって熟睡していた所に、ホルンがカーテンを開け布団を引き剥がしてくる。


「ん……?」

「んじゃないの。朝だから行くよ」


 ホルンは、笑顔を貼り付けた顔で意味不明な事を言い放つ。約束などした覚えはない。


「……朝だから行くって? 自分、ホルンと約束なんかしてたっけ?」


 疑問を呈すると、口に手を当て眼を揺らす明白な動揺をわざとらしく見せてきた。自然なのだとしたら罪深い仕草だ。


「昨日決めたじゃん! あたしの面倒を見るって」


 腕を大きく振って頬を膨らますホルンを眺めながら思い出す。


「あっ……あぁあ……あぁ?」


 やっぱりそんな約束したっけ?




 昨日から自分は、ジアーツ家の城に住ませてもらっていた。身寄りもおらず帰る場所もない自分をホルン達ジアーツ家が引き取ってくれたのだ。何から何まで助けてくれるジアーツ家には感謝してもしきれない。

 ジアーツ家の家は、端的に言えば城だ。本部の真横にあるシルの象徴的存在の壮大な城。たちまち入れば感嘆の息が溢れるほどに広く、何もかも整っていて何というか凄い。

 ジアーツ家の偉大さは、本部で寝ていた時に団員さんから聞き及んでいた。ホルンの父オーラグレイは、ここを守る一番偉い方なのだそう。今は出張でいないみたいだが、いずれ挨拶をしなければならない。

 そして、光翼団とかいう団の中でもモナさん然りホルンも物凄く強いのだとか。仕える上司を自分の事のよう嬉々に話す部下を見て、畏敬の念を払っている事は一目瞭然だった。力と名声を持つ人たちは強い。そりゃあこんな立派な城に住めるわとも思ったし、自分なんかを拾うのも造作のないことなのだろう。

 自分が城に住むことになって、モナさんはわざわざ部屋も与えてくれたのだが、広すぎて余った空間をどう使うか悩んでしまう。ベッドと机が最低限入る小さな部屋で十分なのだが……客人を雑に扱うのはジアーツ家の家訓に反しているらしい。いや、矜持といった所か。有り難いのだが、もう他のものを与えられてしまうと罪悪感で押し潰されるのでやめて欲しかった。何から何まで助けてもらって本当に申し訳ないのだ。

 なので昨日の夕食――三人が集まる場所――で自分にできる仕事がないか訊いてみた。


「仕事ねー、何かあるかしら?」


 豪華絢爛な料理を小皿へ移し、鼻歌を口ずさむホルンにやめなさいと注意しながらモナさんは言葉を反芻する。


「姉さんの面倒を見てもらうとかは?」


 ビーフを頬張ったカルガが、フォークを残した口で淡々と案を出す。


「あ、そうね。それがいいわ!」


 即決だった。流石にホルンが可哀想になってくる。


「えー何それ……あたしってそんなに心配?」


 怪訝でいて不機嫌な顔を見せるホルン。その様子に同情を寄せる訳もなくモナさんは、言葉で重い一撃を食らわす。


「ええ、心配よ。あなたすぐ問題起こすじゃない」

「ぐっ……」

「ふう、やっと僕が解放されるってことか。ライ、姉さんのことよろしく頼むぞ」


 気が早いカルガは、立ち上がって手を差し伸べてきた。


「あ、はい」


 それに応じて握手を交わしたものの。仕事って何かもっとこう、やり甲斐があるようなのが……。


「決まりね、じゃあ明日から頼むわ。ホルンは馬鹿で自分勝手だけど面倒見てやって」

「え、それが娘に言う言葉なの?」

「頑張っては、みます」

「だから、面倒見られなくても大丈夫だってー!」


 こうした経緯で自分は『ホルンの面倒を見る』という仕事についた訳だが、如何せん仕事内容が漠然としすぎて寝たら忘れていた。昨日モナさんとカルガがああは言っていたが、実は根が良いホルンとは何かと上手くいけそうで楽しみだったのだ。これは嘘偽りのない気持ち、初日から起きられず仕事を放棄するつもりなどなかった、のだが。


「いくらなんでも起こすのが早すぎる」


 カーテンが開けられた窓から見る外の景色。そこには光は存在せず、闇が広がるばかりだった。早朝というかまだ夜中に起こされるなんて、とんだ仕事を受けおいてしまったか。


「ライをとある場所に連れてこうと思って早く起きたんだよ。うっふん」


 嬉しいでしょと言わんばかりに胸を張り腰に手を当てるホルンだが、何処が凄い所なのか自分の乏しい知識では理解できない。

 状況が飲み込めなかったので一旦布団をホルンから奪い取り、冷えた体を温める。


「あー寝ないでよ。ライが来ないと意味ないんだから!」


 布団から顔を出してみると彼女は口を膨らましながら地団駄を踏んでいた。


「ある場所ってどこの事だ?」

「教えない」

「早朝である理由は?」

「教えない」

「ホルン」

「なに?」

「おやすみ」

「あーあー待って待って。これあげるから」


 布団にうずくまる自分にホルンは不吉な笑顔を向けながら、綺麗に畳まれた茶色の布を渡してきた。手に取り広げてみると、その布の正体は袖のない外套だった。


「はい! あげる!」

「マント⁉」

「そう!」

「寒さ対策?」

「……」


 横に目を逸らして無言を徹するのがこれまた怪しい。寒さ対策でないマントなんて着たところで意味はあるのか。用途は想像できないが、ホルンの無言の圧に負けた自分は全てを承諾することにした。


「分かったよ。準備するから外で待っておいて」

「ありがとっ。じゃあカルガと外で待ってるから、なるべく急いで来てね」


 純粋な喜びを表す屈託のない笑顔を見せ、鼻歌を歌いながらスキップで出ていった。しかし、言い忘れた事があるらしく『そうだそうだ』と口にし頭だけを覗かせる。


「そのマントね、耐熱性が凄く良くて、とても硬くて頑丈で、とにかく羽織っておくと安全なの。それじゃ」


 ホルンは、手を振りながら扉を閉めた。渡されたマントを見てみる。

 生地が厚くて頑丈な作りがされているのが素人が見ても分かる。


「いや今から何するんだよ……」


 マントがあまりにも高性能という事は危険な地に赴くのだろうか。

 この計画は十中八九ホルンが練ったのだろう。昨日の大樹の一件やモナさんとカルガの言動を見れば、ホルンが問題児であることは考えるまでもない。比較的まともなカルガと一緒なのは安心したが、ホルン単体では何を仕出かすか分かりはしない。本当に大丈夫なのか。

 憂慮する気持ちを頭の隅に置き、寝間着を脱ぎ始める。その間、凄烈な胸の高鳴りが止まることはなかった。


 準備が完了した後、モナさん達を起こさないように忍び足で外へ向かう。慣れない城の中で少し迷子になってしまった。途中、不気味な絵画や彫刻に脅かせられながらも、漸く見慣れた玄関に辿り着く。扉に手を置いた時、外からの声が耳を擽った。


「ライ、大丈夫かな?」


 ホルンの憂わしげな言葉から始まる会話は、扉に耳を当てて盗み聞きを決行する程に興味深かった。

 何だ何だ、着替えはできるのかとかいう類の心配をしてるんじゃないだろうな。


「うーん、いずれ乗り越えなければならないしな。場所は一緒でも今回の目的は違うんだ。もしもの時は、僕達がフォローすれば良い。そうだろ?」

「うん、そうだね」


 何の話をしているのか理解できない。二人は自分を何処に連れて行く気なのだろうか。間違いなく穏やかな話ではないな。


「カゴ、僕が持つぞ」

「うん、ありがとう。もしかして時間に間に合いそうにない? あとどれくらい?」

「一時間くらいじゃないか。まあ、急げば間に合う。だから隠れてないで出てきてくれ。ライ!」

「え」


 唐突に名前を呼ばれた事に驚愕し、不覚にも声を出してしまう。今更、誤魔化しなど効くはずもなく、外に出るしかなくなった。


「あはは、バレてたのか……」

「音で分かる」


 カルガは耳をトントンと軽く叩き、自分の物音が聞こえたと主張する。そっと聞き耳を立てていただけだし、感づかれる音を出しているつもりもなかった。多分、勘がいいのだろうな。


「おそーい! 待ちくたびれたよ」


 ホルンが口を膨らまして文句を言い放つ。この人はいつも変わらない。そこが良い所だと短い付き合いの自分でも分かる。


「ごめん、城が広くて少し迷ったんだ」

「なにそれ」


 口を手で隠しプププと笑って小馬鹿にしてくるホルン。前言撤回、この人は変わるべきだ。


「昔の姉さんみたいだな」

「なっ、もうそれ忘れてって言ったでしょ!」


 またもや、二人の仲良し喧嘩が始まってしまった。他人事のように見ていると――本当に他人事だが――二人の服装に目が移った。

 二人共、軽い服装に渡してきたマントを羽織っている。自分だけの特別なマントだと思っていたのだが違っていたみたいだ。

 茶色の外套(マント)は、首の下のボタン一つで簡単に羽織れ、更に軽量でフード付き。着心地も良くて、肌寒い今日には適していた。今の時点で高性能だと実感できる代物。いや高性能なのが気がかりなのだが。


「揃ったことだし、行くとするか」


 知らぬ間に姉弟喧嘩は終わっていたらしく、いつも通りの態度に戻っていた。

 この姉弟は仲直りが早いんだよなと思いながら、二人の間に入った時、温かい息と『似合ってるね』という言葉が左耳を擽った。

 驚き見返した時には、何気ない様子で、


「よっし、しゅっぱ〜つ!」


 と可憐な口の端と細い腕を上げている。こいつあざといな。


「カルガ、よろしくね」

「ああ」


 辺りが暗闇に包まれる中、唐突にカルガの右手が明るく照らされる。炎のようなメラメラとした何かが右手から放たれていた。炎? いやいや、起きたばかりだから視界がぼやけているだけだろ。目を擦ってもう一回見てみたら変わるはず、


「手から火が出てる⁉」


 何回見ても手から火が出てる。いや、どういう事だ? 自分が記憶を失っている内に、文明ってそんなに発達した? というか記憶喪失になってまだ一日目だし。そんな訳ないし。


「あれ? (しん)然術(ねんじゅつ)分からないの?」

「しんねんじゅつ⁉」

「日常会話は普通にできるのに真然術を知らないんだ。生きてて使わないもしくは知らないって事ないと思うけど」

「あまり真然術ないし天術(てんじゅつ)に触れてこなかったんだろ。周りに教えてくれる天術者(てんじゅつしゃ)がいなかったとか、ライが元々天力(てんりょく)が備わってない無天力(むてんりょく)とか色々理由は考えられる」

「てんじゅつ⁉ てんじゅつしゃ⁉ むてんりょく⁉」


 もう話についていけない。何の話か理解できない。まず、手から出る炎って何だよ。熱くないのか、火種はどこから出たのか、どうやって燃え続けているのか、疑問が無限に浮かんでくる。そのせいで、急に大分前から軽くだが死ぬほど頭痛が痛い。


「天術というのはな、天使から与えられた力『天力』を人間が使用して不可解な技を繰り出せる術のことだ。そして、天術の基礎として真然術が存在する。真然術は、まあ簡単に言えば自然を操れる術のこと、火水土風の四つの対象が存在していて一人一つ使用できる。ちなみに僕は火を操れる火式だ」

「あたしは風を操れる風式ね」

「へー」


 凄まじい世界のルールを聞いた。天術という特殊な術は、皆の生きる上で重要な役割を果たしていると予想するのも容易い。自然というのは巨大な力だ。日常生活はもちろんの事、戦争にだって悪用できる。


「まさか光翼団って」

「ああ。天術を使用して戦う『天術者』だけの兵団、それが『光翼団』だ」

「なるほどな」


 カルガは自然を操れる真然術を天術の基礎だと言った。光翼団というのは天術を使用する者だけの兵団な訳で、基礎の真然術は皆が行使できると思って良いのだろう。末恐ろしい、一人の兵が火や水や土や風を操ってくると考えたら。それに天術は真然術以外にもある。世界が滅びてないのも奇跡だとも思う。

 しかし、なんというか不思議だ。ここまで世界に浸透している『天術』が自分の言葉の辞書に載っていないというのは。さっきもカルガ言っていたが、以前は天術と一切関係を持っていなかったのだろうか。


「カルガとホルンは、自分が天術を使えると思う?」

 天術に詳しい二人に己についての見解を訊く。

「うーん、天術を知らなかった時点で使えないんじゃない?」

「またそれは後々確認する、安心してくれ」

「うん……分かった」

「他に気になることある? あたしたちで良ければ教えるよ」


 この機会だ。外に出てから気になっていたことを二人に質問しよう。指を指して名指しし、疑問をぶつける。


「じゃあ、その矢は何なんだ?」

「ん? 矢?」

「矢って分かってるじゃないか」


 怪訝な面持ちのホルンとカルガは、指差しの方向に目線を向けようとしない。質問が悪かったのかと思い、もう少し砕いて口にした。


「そこの道端に刺さっている青い特殊な矢は、何で作られてるんだ?」

「道端に刺さっている?」

「青い特殊な矢?」

「うん」

「そんなのあるわけ……――」

「姉さん本当にあるぞ」

「なぬ⁉」


 驚愕する姉弟はすぐさま特殊な矢に駆け寄り、興味深く観察しだす。


「見たこと無いよ、こんな矢」

「これ氷で作られてるな」

「こおり?」

「氷だよ、氷」


 しゃがんで顔だけを向けるホルンがゆっくり張りのある声で伝える。しかし、生憎こおりという物を知らない。もしかすると、シルの特産物なのかもしれない。


「こおりってシルの特産物とか?」


 二人の表情が再び怪訝な面持ちに戻る。自分は何かおかしな事を言ったのかもしれない。これは禁忌のモノなのか。知られて殺されたりしなよな。


「ふふふ、氷を知らないの? ライって面白いね」

「ライは特段暑い地域に住んでいたのかもしれないな」

「まあさー、氷くらい知らなくても問題はないよねー」

「確かにな、でも姉さんは困るだろ?」

「あたし、氷の上で滑るの好きだからね」

「六歳の時なんて姉さん毎朝凍った湖の上で滑ってたしな」


 二人が背を向けて談笑している。改めてこうして見てみると、二人は仲が良いのだと思う。姉弟という関係について無知な自分ですらカルガとホルンの関係性は特別であると感じた。

 自分にもそのような関係を持った人物は居たのか。居たとして今生きているのか。自分に問いかけても何も返ってこないとそう分かっていても、止められるものではない。


「結局こおりって何なんだよ」


 唇に人差し指を当て上を向くホルンは『んー』と考えたあと、こおりの正体について説明してくれた。


「水がね、冷たくなるとね、カチコチになって固まるの。それが氷。だよねカルガ」

「まあそんなとこだな」


 とカルガは真然術の火式を氷の矢に近づけて、水で出来ていることを証明してくれる。

 釈然としない説明だったが、何となく理解した。氷は水なんだな。


「よっし、時間もないし。正真正銘の〜しゅっぱ〜つ!」


 律儀に拳を高く上げるホルンと微小に笑うカルガとの旅?が始まった。

 年は同じくらいなのに二人を見ると、どうしても疎外感を感じてしまう。これは、二人の間柄が姉弟だからとかそういう訳じゃない。同年代で見ても、彼らは異質で別格なのだと思う。明白に生きている次元が違っている。

 薄暗い夜道を石畳を叩く三つの音で彩っていく。小さな炎の光を頼りに足を前へと進めた。マントを靡かせる風は冷たく肌を少し震わせ、温かさを求めて少し早歩きをしてしまう。その際に横目で見た道端に咲く花は、朝の挨拶をするように揺ら揺らと踊っていた。

 胸の高鳴りは収まることを知らない。未だ感じたことのない感情が湧き出てくる。不快ではない何かの感情。記憶を失って自分の感情が理解できなくなった。

 外の寒さで体を震わせ、胸の高鳴りで心臓を振動させ、未知の感情で心を痙攣させる。震えは止まるのだろうか。




「ここを登るのか?」

「そうだよ」


 シルの西門を抜け、足を撫でる草原を歩いた先、眼前に立ちはだかるは雪で白化粧された山。針葉樹が生い茂るこのエスケープ山脈は、巨大で勾配が激しく、人を見下したよう傲然に佇んでいる。今しがた延々と続く石畳の階段を登る事が確定した訳だが、やはり登り切るのは簡単では……なさそうだ。

「さあ急ぐぞ、外が明るくなってきた」

 雪の軽い音と石の硬い音が混在して響く中で、カルガは時間がない事を報告する。その後、颯爽と二人は走る速度を上げた。


「これ以上は速く登れないよ」

「なら手を貸してあげる」


 後ろを振り向いたホルンが、柔らかく優しい手で自分の手を握った。自分よりも背の低い少女がぐんぐん引っ張っていってくれる。


「ありがとう。優しいなホルンは」

「いいのいいの」


 茶色の髪が顔の近くまで迫り、ふわりと爽やかな香りを漂わせた。力を加えたら折れてしまいそうな華奢な体をしている事に今更ながらに気づく。ホルンって、


「ホルンって女の子なんだな」

「へぇ?」


 上擦った声を発するホルンは、少しだけ手を強く握り、耳が赤くなった。確かに今日は肌寒いもんな。


「何だよそれ。ライは僕の姉を奪う気か?」

「え、いやそんなつもりはないよ。ただそう思っただけ」

「そんなつもりもあって欲しかったなぁ……」


 自分の回答に対して豪快に笑うカルガと少し落胆の色を見せるホルン。会話って難しいなとつくづく思う。

 こうしていると目標が近づいているようで、頂上を覗けば暗く潜む木に段々と終わりが見えてきた。最後の階段を登り切る。


「着いたー!」

「無事、間に合ったな」

「間に合ったって何に?」

「ほらほらっ、後ろ向いて」


 肩を叩かれ後ろを向くように促される。今まで辿ってきた階段を見て何だと言うのだ。辟易とした自分は首だけ背後へと向けた。


「明けるぞ」


 カルガが消え入る声で口に出す。

 二人から深い説明はなかった。だけど、二人が何を目標に何を見せたかったのかすぐに理解した。深緑に彩られる草原のその先、右横にあるシルを囲む城壁のその先、永遠と続く水平線のその先に、夜を押しのけ橙色に光る『朝日』。

 日の出だ。二人は自分に日の出を見せたかったのだ。しかし、見せたいと思う気持ちも理解できる。山から見えるただの朝日にこんなにも心を動かされるのだと、初めて気付かされたから。

 感嘆の息が自然に出てしまう。こんな壮大で荒唐無稽な景色が存在したなんて。

 暗く闇に囚われた空を一筋の光が解放していく。そんな景色に自分を投影してしまった。記憶を失った自分が何故か救われたような、今までの全てが浄化されているような気がして。


「……美しい」

「あー笑ってるー! カルガ、カルガ、ライが笑ってるよ」


 右手にいたホルンが体を跳ね上げて喜びを表現している。


「見たら分かる」


 自覚はなかったため口角が上がっているか咄嗟に手で確認してしまう。


「え? 笑ったことなかった?」

「うん、ずっと笑ってなかったよ。思い詰めて苦しそうな顔をしてた。それが寝てる時さえも続くから」


 寝てる時も苦しそうな顔。そういえば昨日は夢を見たんだ。確かに笑える夢ではなかった。でも現実では、カルガとホルンとモナさんと居た時には笑っていたはず。いや……笑えていなかった。自分の生きる意味を見い出せなくて、偽りの笑みさえ作る事は出来ていなかった。

 なんて情けないんだ。そんな自分を。


「姉さんは心配してこの計画を考えたんだよな」

「ちょっカルガ。言わない約束だったでしょ? もうっ、なんで言っちゃうかなー」

「二人共迷惑をかけたよ、ごめん。そしてまた救ってくれてありがとう」

「あーいいさ。僕は友達だからな」

「それあたしが言おうとしてたセリフー!」


 カルガは掌の上で発動していた火式を握り潰し消火しながら、ホルンは大きく口を開き白い息を吐きながら、満面の笑みを浮かべた。

 二人から目を逸らし、姿を現し切った朝日に視線を向ける。煌々と照らす太陽は皆に影を与える平等な存在だ。影があるのは自分だけではない。その事に気付けるいい機会だった。

 そして何より美しい。やはり鼓動が鳴り響く。そうか、ずっと高揚してたんだ。三人で過ごしている時が好きで好きで堪らなかった。だから早朝から心臓が鳴っていたんだ。

 手のひらを胸において高鳴りを確認する。


「よっし、日の出も見たことだし帰るとするか」

「うん……そうだね、真っ直ぐ前を見て帰ろう」


 カルガとホルンは迷いなく光のある方へと進む。そして自分も二人に続こうと足を上げた時、ふと一つの疑問が脳裏へと浮かび上がった。『彼らと共に歩んで良いのだろうか』と。今まで自分の二日ばかりの人生を振り返った時、ジアーツ家から助けを貰い続けているのがほとんど。しかし、まだ傷も癒えたばかりの憔悴しきった青年、自分で言うのも何だが仕方ない部分もあるだろう。この数日間なら問題ないのかもしれない。だが、彼らに助けられるこの状況が続けば、そして慣れてしまえばきっと依存する。生きる術を持たない自分が、彼らの後ろへと歩む事に依存してしまえば、自らの成長はないだろう。それでは駄目だ。彼らの横に並び、一緒に歩み進むようにならなければならない。


「ライ?」


 付いて来ない事を心配したホルンは、四段目の階段で立ち止まり自分に声を掛けた。

 いや、流石に短絡すぎるか。ただ帰路につくだけに自分は何を思い悩んでいる。帰宅目的で後ろを付いていく事に対して深く考える事なんて何処にもないだろう。

 浅くて深い思慮を重ねていると、後方へ違和感を感じるようになった。頭に靄がかかったような感覚に襲われる。光が届かぬ闇の景色を見る口実に成り得る事を、理解不能な淡い願望を抱いている事をひしひしと自覚しながら、何かに突き動かされるように。

 そして振り向き、気付く。正面――階段を登ってきた方向――、日の光を浴びるまで認識する事のなかった石碑たちに。道を開けるように横へと並ぶ複数の石碑と真正面で我らを迎えるかのように立つ二つの石碑。その先にはまだ朝日を浴びられていない世界がある。

 まるで先頭二人が後ろの兵士を従えて闇へと攻め込むような構図だった。


「ここは?」


 階段をまた上がり、同じ場所に立ったカルガが教えてくれる。


「光翼団の英雄が眠る石碑」


 英雄と聞いて腑に落ちた。異様に満ちたこの空間は普通ではない。威容を誇る石碑を見ると、生前勇ましい者たちだったのだと分かる。


「そして――」


 カルガが続けて言葉を発しようとした時、胸のざわめきを感じた。夢で見た黒の霧が心臓を包容し締め付けるような感覚。そして、気づけばカサついた唇を開いていた。


「自分が倒れていた場所か」

「……ああ、そうだ」


 自分でも何故分かったのか説明できない。決して自分が倒れた場所がここであると覚えていた訳ではなかった。でもそれは、石が硬い事を、太陽が明るい事を、氷が溶ける事を皆が知っているように誰しもが頭の片隅にある常識的な知識。自分の記憶ではそのような扱い方をされている、ようだった。


「全く思い出せないな」

「朝日を見てもらって元気付ける目的もあったんだけど、本来の目的としてはライがここに来れば記憶が戻るかなと思ってこの計画を立てたの。余計な事してごめん」


 ゆっくり一歩一歩階段を登りながら、こちらに移動するホルン。両手を合わせて謝る仕草をしていた。


「何を謝る必要があるんだよ」


 妙な沈黙。苦悶の表情を浮かべるホルンと神妙な佇まいを見せるカルガを目前にし、自分はまた迷惑を掛けている事に気付く。

 しかし、視線を巡らした。それに自分が気付いたとてどうしようもなかったからだ。

 木に乗っかる雪は朝日の影響により溶け始めている。雫に姿形を変え、独りで地面へと赴く。硬い地面も泥濘んできた。この自然現象は必然で運命、避けることはできないだろう。

 まるで自分みたいだと、そう酷く突き放した考えも浮かぶようになってきて。


「自分はもう死んでいるんだ」


 という解釈に至る事もできて。意外にもその解釈が安堵する理由になり得て。


「え?」


 二人の驚嘆でやっと、無意識で述懐していた事に気付く。

 ホルンが眉を寄せて、眼を揺らしている。

 大仰に両手を振りながら、狼狽するホルンの誤解を解くため苦し紛れの言葉を吐いた。


「いやいや、自分はここで記憶を無くした訳だろ? それなら自分はここで亡くしたと言っても過言ではないかな、と。そういう事での発言な訳で……」

「確かにそうかぁ……」

「そうも捉えられるな」


 愛想笑いの最中、咲き誇る桃色の花が自分の目に留まる。太陽が昇ると同時に開花するこの花は、まるで「太陽の目」のようだった。こんなにも脆弱な植物が、闇を退き光を浴びようと懸命に生きるのだから。

 ――自分だって。

 自分には、過去の自分へと申し訳無さがあったのかもしれない。自分で良いのかと、オマエは戻らなくて良いのかと、そう自問しながら。

 背後を向く。そして、朝日を眺めながら思わず笑みが溢れた。

 そう、過去の自分はここで死んだのだ。今や死人、いや霊なのかもしれない。

 それでも、それだから、やれることがある。

 暗然たる気持ちは、もうとっくに晴れた。闇と化す記憶の中に住む一人の青年が昏く嗤っていたとして生きてみせる。


「オレ、始めてみるよ。新しい人生を」


 今日という日の始まりを示す玲瓏なる朝日が、ライという人生の始まりを示した事に感慨深くなった。

 名前の由来となった水晶を手に取り、決然とした思いを言葉に乗せていく。


「もう過去には囚われない、オレの零を全て脱却してやる。だって、オレはオレだから」


 二人の瞳が映る。


「強いね、ライは」

「僕らの助けなんて必要なかったな」


 そんなことないと首を横に振りながら、二人を前にして姿勢を正した。


「オレの名前はライ。諸事情にて極めて世間知らずですが、何卒よろしく」

「ああ、こちらこそ宜しく」

「ふふ、これからもよろしくね」


 そして感じた、二人以外の笑みを。

 石碑に目を向け、心臓に手を当てる。

 笑っているのか、『ここ』に居る人達は。

 まだ『ここ』には――、


「英霊が居る」

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