第6話
――入学して、数日が経った。
クラス内では、すでにあちこちで仲良しグループが完成しつつあった。
昼休みになれば、自然と集まる者たちが決まり、談笑する輪が生まれる。
剣士専攻の生徒は技術論を交わし、魔術専攻の生徒たちは魔法の研究について語り合う。
女の子たちはお互いの髪型を褒め合いながら笑い合い、強者たちは互いの力を認め合いながら切磋琢磨している。
そんな中――僕は、ずっと一人ぼっちだった。
無能と呼ばれたその日から、誰も僕に積極的に話しかけてこない。
ララと話したときもそうだった。
少しでも僕に関われば、周囲から距離を置かれる。
そんな雰囲気が、すでに出来上がっていた。
……まあ、いいさ。
僕は一人、教室の片隅の席に座りながら、机の上に腕を組んでじっと周囲を観察していた。
目的はひとつ。
"スキルを奪う最初の相手"を見極めること。
このクラスには最強の魔剣士が3人もいる。
―――炎の王女 モモア・フレイム・アルトドルフ
―――雷の皇女 リア・ヴォルデンベルク
―――大地の公女 ユノア・グランツバッハ
この学園でも指折りの美少女たち。
ただし、普段この三人はつるんで行動していることが多い。
さすがに一度に三人を相手にするのは、リスクが高い。
だから、まずは一人だけを狙う。
僕は、彼女たちの動きを慎重に観察しながら、"単独になる瞬間"を待っていた。
そして、数日が経ち――ようやくその機会が訪れた。
昼休みの教室。
普段はリアやユノアと一緒にいることが多いモモアが、珍しく一人で席に座っていた。
彼女は机に肘をつきながら、暇そうに窓の外を眺めている。
……今だ。
僕は静かに立ち上がり、まずは自然な流れでララに近づくことにした。
「やあ、ララ。」
声をかけると、ララは少し驚いたように顔を上げた。
「……アルト君?」
「うん。ちょっと話さない?」
できるだけ自然に振る舞いながら、ララの隣の席に座る。
ララは少し戸惑ったような顔をしたが、拒否することはなかった。
さて――モモアの反応は?
僕はララと話しながら、時折、チラチラとモモアの方を見る。
モモアは、最初は気にしていなかったが――僕がララと話しているのを見て、少しずつ表情が険しくなっていった。
やっぱりな。
ララは一応下級貴族の娘。
僕は平民。そして無能。
あいつは僕がララと関わるのが気に入らないみたいだ。
僕はさらにあからさまにモモアの視線を意識しながら、ララと会話を続ける。
「あんなやつ、気にすることないって。」
わざとモモアに聞こえるように言った。
――そして、狙い通り。
「せっかく警告してあげたのに、無能と話してるみたいだね。」
低く冷たい声が、すぐそばで響いた。
モモアが、腕を組んでこちらを睨んでいる。
―――かかった。
「別に、無能だっていいだろ。」
僕はあえて軽い調子で言う。
「僕がそうしたいから、ララと話してるんだ。」
「……じゃあ、君が身の程をわきまえる必要がありそうだね。」
モモアの指先がピクリと動いた。
――その瞬間を、僕は待っていた。
ゴウッ!!
彼女の周囲の空気が一気に熱を帯びる。
指を軽く弾くと、小さな炎が浮かび上がろうとした――その時。
――今だ!
僕は意識を集中させた。
指先に、あの時と同じ感覚が走る。
視界が一瞬、白く光に包まれる。
――奪った!
「……アレ?」
モモアが急に動きを止めた。
指を弾いても、何も起こらない。
もう一度、何度も、何度も試す。
だけど――炎は、もう出ない。
「どうしたの?」
僕は何でもないように言う。
モモアは焦ったように手を握ったり開いたりしているが、何度試しても炎は出ない。
「……今日は見逃してあげる。」
モモアはそう言い残し、席を立って離れていった。
「どうしたのかな? モモアさん。」
僕は笑いながら、ララに視線を向ける。
ララは少し戸惑ったように僕とモモアの背中を交互に見ていたが、結局、小さく頷いた。
「言ったでしょ、ララ。あんなやつ気にすることないって。まだ時間あるし、もうちょっと話そうよ。」
「……う、うん。」
ララは少し緊張した様子だったが、それでも頷いた。
やっと……やっと、楽しい学園生活を送れそうだ。
僕はこの瞬間、確信した。
この力があれば、僕はこの学園の"最底辺"から抜け出せる。
いや、それどころか……頂点にだって、立てる。
そうだ、7人の剣姫全員を僕に従わせてやろう。