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第21話



「え……ここ、なの?」



モモアが目の前の店を見上げて、驚き混じりの声を漏らした。



そこは、豪華なレストランでも、おしゃれなカフェでもない。


むしろ、小さな路地裏にひっそりと佇む、ちょっと古びたお店だった。



ここは異世界だけど、もんじゃ焼きもやっている駄菓子屋のような雰囲気がある。



木製の看板には手書きで「チャビーメルト専門店・強欲なクマさん」と書かれている。


入り口の横には、食欲をそそるホットサンドの写真と、"今日のおすすめ"がチョークで書かれていた。



「ええと……ここって、本当に人気店なの?」



モモアが疑いの目で僕を見てくる。


無理もない。



王族の彼女にとっては、格式高い建物こそが一流の証だろう。



でも――



「外見で判断しちゃダメだよ。ここのチャビーメルト、昼時は行列ができるほどの人気なんだから。」


「……本当に?」


「まあ、入ってみれば分かるさ。」



少し不安そうなモモアの手を引いて、店のドアを開けると――



「いらっしゃいませー!」



元気な声が店内に響く。


中に入ると、カウンター席といくつかのテーブル席。


カウンターの中にはクマみたいな大男がいる。彼が店主だろう。


飾り気のない、素朴で温かみのある空間。


昼時を避けて来たからか、店内には僕ら以外に数組しかいなかった。



「どうぞ、こちらのお席へ!」



女性の店員さんに案内され、僕とモモアは窓際のテーブルに座った。



「……本当にこんな場所で……」



まだ半信半疑のモモア。


でも、厨房から漂ってくる香ばしいチーズの匂いに、彼女の鼻がわずかにひくっと反応している。


ふふ……もう少しだな。



「メニューは決めてるから、ここは僕に任せてよ。」


「え? ちょっと……!」



モモアが何か言いかけたけれど、僕はすかさず手を挙げて注文する。



「チャビーメルト・スペシャルを二つください!」


「スペシャル……?」


「うん。この店で一番人気のやつ。普通のチャビーメルトよりさらに具材が増えてて、ボリュームも満点なんだ。」


「そ、そんなに食べられるかしら……?」


「大丈夫、食べきれなかったら僕が食べてあげるよ。」


「そ、そういう問題じゃなくて……!」



ぷいっと顔を背けるモモア。


でも、その耳はほんのり赤く染まっている。


可愛い。



そんなことを思っていると――


「お待たせしましたー! チャビーメルト・スペシャルです!」


店員さんが運んできた"それ"を見て、モモアの目が大きく見開かれた。


――圧倒的な存在感。


厚切りのトーストの間には、これでもかというほど詰め込まれた具材。


ジューシーなハムとパリッと焼かれたソーセージ、さらにミディアムレアに焼かれた牛ステーキが重なり合っている。


そして、そのすべてを覆い隠すように、たっぷりとろけたチーズが滝のように溢れ出している。


しかも、スペシャルは半熟状態の目玉焼きが2つものっている。


仕上げのピリ辛ソースが食欲を刺激し、湯気とともに立ち上る香りが鼻腔をくすぐる。



「こ、これが……?」



モモアが絶句するのも無理はない。


彼女が知っているサンドイッチともホットサンドとも別物。


上品なティータイムに出される、小さなサンドイッチとは正反対の――ガッツリ系B級グルメの王様だった。



「チャビーメルト……想像の倍くらい大きいわね」



目の前に置かれた巨大なホットサンドを見つめ、モモアは半信半疑といった表情を浮かべていた。


だが、その瞳にはわずかな興味と期待が見え隠れしている。



「さあ、食べてみなよ。きっと驚くから。」


「べ、別に……そこまで期待してるわけじゃないし……。」



そう言いながらも、彼女はナイフとフォークを手に取り、慎重にチャビーメルトを切り分けようとした。


――が、



「な、なによこれ……!」



ぶ厚いパンとぎっしり詰まった具材に、ナイフが思うように入らない。

肉汁とチーズが絡んで、滑る。



「……切りにくい。」



ぷくっと頬を膨らませ、モモアは少し不機嫌そうにナイフを見つめた。



「仕方ないなぁ。貸してみ?」


「え? だ、大丈夫よ! 自分で――」


「いいから、貸してって。」



半ば強引にモモアの皿を受け取り、僕は慣れた手つきでチャビーメルトを切り分けた。


トロトロのチーズと半熟の卵の黄身がとろりと垂れ、ジューシーな肉とソースが断面から溢れ出す。



「ほら、きれいに切れたよ。」


「……あ、ありがと。」



恥ずかしそうに礼を言うモモア。


そして――



「じゃあ、あーん。」


「……は?」



モモアがきょとんと僕を見つめる。



「せっかくきれいに切ったんだからさ、はい、あーん。」


「い、いいってば! 自分で食べるし!」



慌てて手を振るモモア。



「でもさ、モモアが切ったらぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ? せっかくの美味しそうな断面が台無しになったらもったいないじゃん?はい、あーん。」


「……っ!」



モモアは顔を赤くする。


僕はニコニコしながら、フォークに刺したチャビーメルトを差し出した。


モモアはしばらく葛藤していたけれど――



「……い、一回だけだからね?」



小さな声でそう呟くと、観念したように口を開けた。



「……あ、あーん……。」


「はい、よくできました。」



モモアが一口食べた瞬間――



「――っっっ!!」



目を見開き、全身を小さく震わせる。


衝撃が走ったかのような反応だ。



「な、なにこれ……!?」



パンの香ばしさと、ハムとソーセージの旨み。


肉汁が溢れるステーキの柔らかさ。


そして、チーズの濃厚さと、ピリ辛ソースの刺激。



そのすべてが口の中でとろけ、絡み合い、モモアの味覚を瞬時に支配した。



「お、美味しい……っ!!」



思わず感想が口から漏れた瞬間――



「……ぷっ。」


「はっ……!」



自分があまりに感激してしまっていたことに気づき、慌てて表情を引き締めるモモア。



「べ、別に……思っていたよりマシって程度だし……!」



必死に取り繕うものの、震える指先は正直だ。


次の一口を早く食べたくて仕方がないのが、丸わかり。



「はいはい、分かった分かった。じゃあ、自分で食べる?」


「……いや、その……。」



先ほどの苦戦を思い出したのか、モモアは目を逸らす。



「ふふ、仕方ないな。ほら、次もあーん。」


「……うぅ……。」



顔を赤くしながらも、モモアはまた口を開ける。



「ん……!」



一口、そしてまた一口。


次々と口に運ばれるチャビーメルトに、モモアは夢中になっていた。



「モモア、そんなに食べたら太っちゃうかもよ?」


「……っ!」



一瞬、動きが止まるが――



「……今日は特別……なんだから。」



小声で呟き、結局また口を開ける。


ツンデレかよ……。


心の中で笑いながら、僕は次々とモモアにチャビーメルトを食べさせていった。



――さすがに全部は食べきれなかったようで、途中でモモアは音を上げた。



「お腹……いっぱい……。」



そう言いながらも、まだテーブルに残っているチャビーメルトを名残惜しそうに見つめている。



「残り、もらっていい?」


「……え?」


「もったいないし、残すのはお店に失礼だしね。」


「べ、別に……いいけど……。」



そう言いながらも、どこかほっとしたような表情のモモア。


僕は残りのチャビーメルトを食べきった。



「……ふぅ、さすがにお腹いっぱい……。」


「……全部、食べたのね……。」



モモアがじっと僕を見つめる。



「……何?」


「……いや、その……。」



少しだけ視線を逸らしながら――



「……なんか……すごいわね。」



小さな声でそう呟いた。


あれ……?


今の、もしかして……。


モモアの瞳に宿るのは、いつもの冷たい視線ではなく――


どこか、尊敬したような眼差しだった。



「……なに、そんなにジロジロ見て。」


「べ、別に……!」



顔を赤くしてぷいっと顔を背けるモモア。


……可愛いな、ほんと。



――王女を驚かせる作戦、大成功。



……でも、こんな風に笑い合える日が来るなんて、思わなかったな。



彼女は王族で、僕はただの平凡な庶民。


スキルを巡る駆け引きで始まった関係だったけれど――


こうして二人で過ごす時間は、思っていたよりずっと楽しくて、心地よくて――



「……なに、ニヤニヤしてるのよ。」


「え? いや、別に?」


「……ホント、ムカつく。」



そう言いながらも、モモアの口元には、微かに笑みが浮かんでいた。


僕のツンデレ王女とのデートは、こうして幕を閉じた。





『チャビーメルト』は造語ですわ。

元ネタはポルトガルの料理『フランセジーニャ』。

一度、画像検索してみてくださいませ。


少しでもフランセジーニャのことが気になったら……


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