第13話
雷魔法を使おうとする――が、何も起きない。
「え……?」
戸惑いがリアの顔に浮かぶ。
「そんなはずは……!」
今度はさらに力を込める。
指先に意識を集中し、雷のエネルギーを練り上げようとする。
だが――
何も起きない。
教室の中は、ただの静寂に包まれていた。
「ど……どうして?」
リアの声が震える。
彼女が誇りにしていた雷の力は、完全に消え去っていた。
「やっぱりね。残念だなぁ……学園最強の一角が、無能になってしまうなんて。やっぱり、無能をバカにしたせいかな~。……気を付けてね。それじゃあ」
リアの身体がピクリと震える。
スキルがない――それがどれほど恐ろしいことか、彼女がようやく理解したのだろう。
馬鹿にされる。それだけならいい。
もし、スキルがない状態で変な奴に襲われたら?
得意の雷で追い払うこともできない。
「行こうかモモア。」
「え……あ、うん……」
モモアは小さく頷き、僕の隣に寄る。
僕たちは踵を返す。
扉に向かって歩き出す。
その瞬間……
「待ってください!」
焦りに満ちたリアの声が教室に響き渡った。
僕たちを引き止めるかのように、リアは一歩踏み出す。
「……アルト!」
リアは苦しげな表情を浮かべ、唇を噛んだ。
「モモアと一緒に……アルトのことをバカにしてごめんなさい。こんなことになるとは思わなくて……」
「へぇ? つまり後悔してるんだ?」
「……そうです。謝罪します。だから、スキルが元に戻る方法を知っているんですよね? 教えてください!」
リアの言葉は真剣だった。
だが、僕はただ首を傾げる。
「謝罪だけでは足りないかな……?」
リアの顔が引きつる。
「……じゃあ、どうすればいいんですか?」
僕は満面の笑みを浮かべ、言った。
「僕の恋人になるんだ。」
「……え?」
リアの動きが完全に止まる。
「この症状は、無能を馬鹿にすることによって発症している。つまり、僕のことを敬い、どんなことでも従うと心から誓うなら……もしかすると元に戻るかもね?」
「そ、そんなこと……できるはずが……!」
リアは僕を睨みつけた。
だが、その視線には先ほどまでの余裕はない。
「モモアはやったよ?」
「……っ!」
リアの視線がモモアへと向かう。
モモアは沈黙したままだった。
「僕のことを愛してるって、どんなことでも従うって誓った。僕の恋人になった。そうしてスキルを取り戻したんだ。」
「モモアが……?」
リアの表情が揺れる。
「まさか……モモア、本当に……?」
モモアは震える声で答えた。
「……そう、よ。」
リアの顔から、血の気が引いていく。
「本当に……そんなことを……?」
「……」
僕は、ゆっくりとリアへと近づき、優しく囁いた。
「どうする? 君も、スキルを取り戻したいよね?」
リアは、唇を噛み締める。
「……」
彼女の目が揺れ動く。
学園最強の一角としての誇り。
雷の皇女としての威厳。
けれど――スキルを失ったら、それらは何の意味も持たない。
僕は続けた。
「スキルを失った君が、どれほどの価値を持つと思う? このまま無能のまま過ごして、みんなから哀れまれるのがいいか、それとも僕の恋人として、再び雷の皇女としての力を取り戻すか。」
僕はリアの目をじっと見つめた。
「選んで。」
「…………わ、分かりました」
ついに、リアは静かにそう言った。
その声には、かつての誇りも、気高さもなかった。
代わりにあるのは、屈辱と、絶対に逆らえないという敗北感。
「なるほど、分かったんだね」
僕は微笑みながら、リアの目を覗き込んだ。
「じゃあ、僕に跪いてキスをするんだ。」
「…………」
リアの顔が、驚くほど赤くなっていく。
「そんなこと……!」
「できないなら、リアは一生無能のままだね」
リアの唇が震える。
そして、ゆっくりと……彼女は膝をついた。
教室の床に両膝をついたまま、悔しそうに僕を見上げる。
雷の皇女とまで呼ばれた彼女が、跪いて僕に忠誠を誓おうとしているのだ。
「じゃあ、ちゃんと言って?」
リアの拳が震える。
――誇り高きヴォルデンベルク家の令嬢である彼女にとって、跪くという行為はあまりにも屈辱的だったのだろう。
「……っ……アルトの恋人にしてください……愛してます……」
まるで苦しみを絞り出すような声。
それでも、確かに彼女は言った。
恭しく……ただ僕に触れたくないからそのよう見えただけかもしれないが……僕の手を取った。
リアが、僕の手の甲にキスをした。
雷の皇女が、僕に屈服した瞬間だった。
「モモア、先に教室に戻っておいて」
「え?……分かったわ」
それじゃあ
ゆっくりと
じっくりと
ねっとりと……
二人きりの教室で、リアにスキルを返してあげることにしようかな。(返すとは言っていない)




