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第10話


翌朝のこと。


朝の通学路には、いつもと変わらず、白い制服を身にまとった女子生徒たちがあふれていた。



クラウディア魔剣士学園の制服は、白を基調とした軍服風のデザイン。


女子はウエストが絞られた白いジャケットに、白のミニ丈プリーツスカート。


男子は同じく白のジャケットに、白のスラックス。


深紅のネクタイがアクセントになっていて、女子はそれをリボンに変えることができる。


男女ともに凛々しさと気品を兼ね備えた雰囲気を生み出している。



登校の時間帯になると、制服姿のかわいい女子たちが道を埋め尽くす。


もちろん男子もいるのだが、そんなものはどうでもいい。


僕の目に映るのは、白い制服を着た女子生徒たちだけだ。



昨日までは……僕にとって、この時間は孤独でありながら、密かな楽しみの時間だった。



スキル判定で無能の烙印を押された僕は、当然のようにぼっち生活を送ることになった。


誰かと登校することもなく、友人と語らうこともなく、ただ一人で学園へ向かう毎日。



でも……ただ一人で歩くだけではつまらない。


だから僕は、目の前の美少女たちを観察するという新たな楽しみを見つけたのだ。



例えば、前を歩いているのは長身の美少女。二年生だろうか。

背が高く、スラリとしたスタイルが特徴的だ。

ミニスカートの裾から伸びる長い脚は、まるでモデルのよう。

金色に近い茶色のショートカットが活発な印象を与える。

彼女と一緒に冒険すれば、抜群の機動力で敵を翻弄してくれるだろう。



次に視線を移せば、落ち着いた雰囲気の美少女が歩いている。多分僕と同じ学年。

ミニスカートの下にストッキングを履いているのがポイントだ。

長い黒髪には、うっすら青みがかっているように見える。

静かな眼差しで前を見つめながら歩く彼女は、どこか神秘的だ。

デートをするなら、図書館かカフェがいいだろう。

知的な話題にもついてきてくれそうだし、黙って一緒に本を読むだけでも心地よさそう。



他にも、小柄で元気そうなボブカットの子、気品のある銀髪の令嬢風の子——僕の頭の中では、通学路を歩く女子たちをカテゴライズし、理想のヒロイン像を妄想していた。



そして、ふと視線を前方に向けた瞬間。



……これは、驚いた。



ここまで多くの美少女がいたというのに、全てが霞んでしまうような存在がいた。



通学路の先に佇む彼女は、まるで朝日に照らされた女神のようだった。


赤く長い髪が輝きを帯びて流れている。


大きな瞳は澄み切っていて、まるで宝石のような輝きを放っている。


白い制服がこれほどまでに似合う少女が、この学園に存在するとは思えないほどの美しさだった。



彼女の姿に気づいたのは、僕だけではない。


通りすがる男子生徒たちも、ちらりちらりと彼女を横目で見ている。



―――あんな美少女と付き合えたら……



おそらく、彼女を見たほとんどの男子がそう思ったに違いない。



それも無理はない。


彼女は、この学園のトップの一角を担う少女……。


七剣姫の一人、炎の王女 モモア・フレイム・アルトドルフ。


学園屈指の実力者であり、同時に誰もが認める美貌の持ち主。


まさに、学園の至宝とも言うべき存在だった。




―――いつか、あんな女の子と付き合えたらいいな




昨日までの僕なら、そんな淡い夢を抱くだけで、ただ遠くから眺めることしかできなかった。




でも……


今日からは違う。



モモアは、僕のそばを歩く。



僕に付き従うに存在になっているのだ。






――――――――――





朝の澄んだ空気の中、モモアは待ち合わせ場所で僕を待っていた。



「……おはよう。」



少し不機嫌そうな顔ではあるが、一応挨拶をしてくれる。



「おはよう、モモア。いい朝だね」


「……。」



しかし、次の言葉は返事もせずに無視された。


彼女は僕から視線を逸らす。


「最悪の朝だわ!」なんて思ってそうだ。


どうにも昨日のことをまだ引きずっているらしい。


だけど、僕はそんな彼女のことなど気にせずに、にっこりと微笑んで、手を差し出した。



「さあ、手をつないで行こうか。」


「……は?」



モモアの目が大きく見開かれる。


予想外の一言だったのかもしれない。



「……な、何を言ってるの?」


「恋人なんだから、手をつなぐのは当たり前でしょ?」


「……っ!」



モモアの顔が一瞬で赤く染まる。



「い、いや、ちょっと待って! さすがにそれは……!」


「何が『さすがに』なの?」


「そ、それは……だって!」



モモアは必死に言い訳を探しているようだった。


そして、思いついた言い訳を次々と並べ始める。



「わ、私、まだ心の準備ができてなくて!」


「昨日もそれ言ってたよね?」


「き、昨日は昨日! 今日は今日!」


「そういうのを言い訳って言うんだよ。」


「~~っ!! だ、だって、あのね!」



モモアは髪をかきあげながら、さらに理由を探す。



「えっと、その……! 手をつなぐと、私……魔力のバランスが崩れるの!」


「へえ。炎の王女様が、手をつないだくらいで魔力が崩れるんだ?」


「そ、そうよ! …………いや、そうじゃないけど!」



自分で否定してしまって、さらに顔を赤くしている。



「じゃあ、他に理由は?」


「えっと……! ほら、貴族は婚前にそういう触れ合いをするのは……その……! はしたないの!」


「でも、昨日は手の甲にキスしてたよね?」


「……あれは、仕方なく!」


「仕方なくなら、手をつなぐのも仕方なくでいいよね?」


「いやいやいやいや!! 違うの! そういう問題じゃなくて!」



モモアは両手をバタバタさせながら、後ずさる。



「朝から人目が多いし、恥ずかしいし……!」


「へえ、恥ずかしいんだ?」


「そ、そりゃ恥ずかしいでしょ!!無能と一緒にいるなんてところ見られたら……あ、違う違う!もちろんアルトの言うことには従う!でも恥ずかしいものは恥ずかしくて」


「でも、恋人なんだから、堂々としてればいいんじゃない?」


「堂々となんてできるわけないでしょ!!」



モモアは焦りながら、さらに新たな言い訳を捻り出した。



「そ、それに! 私、炎の王女でしょ!? 私の魔力、すごく熱いのよ!? もし手をつないだら、アルトの手、やけどしちゃうかもしれないわ!」


「昨日、普通に僕の手にキスしてたけど?」


「そ、それは……あの時は魔力を抑えてたの!」


「じゃあ今も抑えればいいよね?」


「……っ!」



反論できず、モモアは顔をそむける。


だが、それでも抵抗を諦めたわけではないらしい。



「それに、手をつなぐと……その……魔力が共鳴して、とんでもないことになるかもしれないのよ!」


「とんでもないことって、具体的に何?」


「えっと……あの……その……」



モモアはしどろもどろになりながら、無理やり何か考え出した。



「ほら、私の魔力が強すぎるから、アルトの魔力と干渉して、周囲に爆発が起こるとか……!」


「そんな話、聞いたことないけど?」


「今、初めて気づいたの!」


「すごいね、モモア。新たな魔法理論を編み出したんだ。」


「ぐぬぬ……!」



モモアは悔しそうに唇を噛んだが、すぐにまた別の言い訳を考え始める。



「……あっ! そ、そういえば、昨日、占い師が言ってたのよ!」


「占い師?」


「そう! “明日の朝、手をつないではいけない。さもなくば、凶運が訪れる”って!」


「へえ、その占い師って誰?」


「えっ……えっと……知らないおばあちゃん!」


「名前は?」


「知らない!」


「どこで会ったの?」


「……夢の中。」


「それ、ただの夢じゃない?」


「ち、違うの! すっごくリアルな夢だったのよ! ほら、夢で見たことが現実になることってあるでしょ!? だからきっと本物の予知夢なの!」


「そんなに予知能力があるなら、なんで昨日のことは予知できなかったの?」


「……そ、それは、その……!」



モモアは苦しそうに言葉を詰まらせた。


そして、焦りに焦った末、ついにこんなことまで言い出した。



「……実は! 私、手をつなぐと変身しちゃうの!」


「変身?」


「そ、そうよ! ほら、手をつないだら、私の中のもう一人の人格が目覚めて、暴走しちゃうのよ! だから危険なの!!」


「もう一人の人格?」


「え、ええ! “漆黒の堕天使・ブラックモモア”っていうのがいるのよ!」


「漆黒の堕天使・ブラックモモア?」


「そう!! その人格が目覚めると、もう手がつけられないくらい強くなって……! それに、普段の私とは違って、すごく甘えん坊になるの!」


「それ、別に悪くなくない?」


「……っ!!!」



モモアは完全に詰んだ。



「その……!」



小さな声で、何かを呟く。



「何?」


「……手が汗ばんでるから、気持ち悪いかも……。」


「それも言い訳だね。」


「~~~~っ!! も、もう!!」



ついにモモアは観念したのか、大きなため息をついて、顔を伏せた。



「……ホント、最悪。」



小さく呟いてから、そっと僕の手を掴む。



「これでいいでしょ?」


「うん、最初からそうしてくれれば良かったのに。」



彼女の手は少しだけ震えていて、指先が熱かった。


顔は赤く、唇は不機嫌そうに尖らせていたけれど、その横顔はとても可愛いかった。



確かにモモアの手のひらは汗ばんでいた。


実は僕も緊張していたので、僕の手も汗ばんでいるように思う。


なので、おあいこだ。




こうして、"恋人"としての僕たちの登校は始まったのだった。



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