第1話
―――王立クラウディア魔剣士学園
それはクラウディア王国における最高峰の戦士養成機関。
魔剣士を目指す者なら誰もが憧れる名門校であり、その門をくぐること自体が栄誉とされる。
僕の名前はアルト・ラーベバウア。
気が付いた時には、僕はこの世界に転生していた。
前世では日本という国でごく普通に暮らしていた。ゲームやアニメ、マンガが好きだった。
ゲームで特に夢中になっていたのはジャンルはRPG。アニメやマンガだと異世界転生モノ。
もし異世界に行くなら、あんなことやこんなことがしてみたいと何度も夢想したものだ。
まさか本当に転生するなんて。
赤ちゃんからやり直すタイプではなくて、いわゆる憑依型転生というやつだな。
この肉体本来の持ち主・アルトの記憶もあるし、前世の記憶もはっきりしている。
転生したと言うのか……前世の記憶がよみがえったのは、この学園に入学する少し前のことだった。
当初は非常に興奮を覚えていた。
異世界学園モノ。
滾る。
熱い展開が待っているに違いない。
そう思っていた時期もありました。
この世界は魔物で溢れている。
一歩街の外、つまり城壁の外側に出てしまえば、多種多様な脅威が存在している。
ゴブリンやコボルトなどの小型の魔物、オーガやウェアウルフなど中型の魔物、サイクロプスやドラゴンといった巨大な魔物まで。
それらの魔物が毎日、都市部に向けて襲い掛かってきている。
まるで誘蛾灯に群がる虫のごとく。
魔物討伐は生易しい任務ではない。
だから駆り出されるのは優秀な生徒。
7つある属性のそれぞれ最強の7人の生徒が中心になって、魔物討伐を行っている。
七剣姫と呼ばれ、全員が女の子。
魔物の襲撃には属性の種類に傾向があり、学園では魔物の襲撃予測が日々行われている。
高い精度の観測魔術を駆使しており、各地にセンサーを配置し、信号をキャッチすることによって魔物たちの移動を予測することが可能になっている。
それによって、どんな属性の魔物が襲い掛かかってくるか見当をつけることができる。
火属性の魔物が襲来する際は、それに有利な水属性の剣姫が対応する……みたいな感じ。
剣姫は強くて、カッコよくて、みんなの憧れで、まるでアイドルみたいなもの。
その姿に魅了され、彼女らを応援する人は非常に多い。
魔物と戦う中で多くの戦果を挙げ、その勇姿はクラウディア王国の全土に伝えられていた。
ふふん、なるほどな。
彼女たちがヒロインだな。
僕と一緒に魔物と戦ったり、冒険とかすることになるんだよな。
メインヒロインは誰かな。
僕が好きな女の子を選ぶことができるのかな……なんてね。
……それで、だ。
入学式の当日に行われた適性検査ではスキル判定が行われた。
水晶玉を触ってどんな能力を持っているか確認するやつ。
アニメとかで何度も見たことがあるやつ!
それを実際に体験できるなんて嬉しすぎる。
転生者がチートを持っているのは当たり前だし、問題はどんな能力を持っているかだよな。
剣か?
魔法か?
レベルカンストか?
僕はワクワクしながら水晶玉に触れた。
―――結果
才能無し。
告げられたのは残酷な現実。
魔法も一切使えない。
剣術の伸びしろもない。
特殊能力が開眼する予兆も無い。
ちょ……待てよ。
才能無しの人間の入学を許可すんなよ。
入学が認められれば学費は無料。
制服を始めとして、必要なものは全て学校側が支給してくれるそうだ。
タダで寮に住めて、タダで学食も利用できる。
それだけ聞くと非常に素晴らしい学校のように思える。
しかし裏を返せば、それだけここ生徒には期待されているということだ。
剣も魔法も使えず、それ以外の才能もなければ、周りからの風当たりが非常に強いであろうことは容易に想像がつく。
……つまり僕に、前世と合わせて二度目の暗黒時代を経験しろと?
結局あれでしょ?
日本の高校でもスポーツが出来るやつとかがモテるみたいに?
この学校でも剣術が強いとか魔法が得意とか、そーゆーやつがモテるんでしょ?
これからの学園生活、一体何に期待をして生きていけばいいんだ。
スキル判定が行われた会場で、僕を担当してくれた先生も動揺していたよ。
しばしの沈黙の後、彼は困惑した表情を浮かべながら口を開いた。
「……スキル無し」
その瞬間、空気が凍り付いた。
「え?」
「スキル……無し?」
「うそ……そんなの、ありえるのか?」
ざわざわと周囲が騒がしくなる。
まさかと思ったんだろう。
先生は慌てながら再び水晶玉を覗き込む。
何かの見落としではないか、魔力の流れを探るようにじっくりと観察する。
「ま、待て……本当に……? いや、まさか……」
自分の目を疑っているのが明白だった。
教師は何度か水晶玉に魔力を送り込み、もう一度判定を試みる。
しかし――
「……やはり、スキル無しだ!」
その言葉が聞こえた瞬間、会場全体にざわめきが広がった。
「マジで?!」
「やば……スキル無しとかあるの?」
「え、でも……それってつまり……」
「可哀想……」
「無能じゃん……」
生徒たちの囁きは止まらない。
「え、じゃあこいつ、何のために入学したの?」
「無能のくせに、なんで魔剣士学園に?」
「いや、ほら……途中で覚醒するタイプかもしれないだろ?」
「それだったらいいけど……でも、普通なら最初から何かしらのスキルはあるもんだよな」
僕の周囲に漂うのは、明らかな好奇の視線、あるいは憐れむような目線。
「あーあ……こいつ、大変そう」
誰かが小さく呟くのが聞こえた。
僕は俯き、そっと手を水晶玉から離した。
僕は、魔剣士学園の門をくぐりながら、魔剣士になる資格すら持っていない存在だった。
それだけでは終わらなかった。
例の七剣姫まで僕のことを見に来た。