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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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98/141

98・聖女の師匠は暗黒騎士

 当事者ながら悪い冗談みたいな話です。

 しかし現実に変わりなし。


 結局、あの子を弟子にすることに決めました。

 はるばる大陸の南からやって来たのに「悪いけどこっちもスローライフで忙しいんですよ」で追い返すというのも、慈悲深い私にはとても気の毒に思えたからです。

 これもまた何かの縁なのでしょう。

 既に私の自宅には、暗殺者みたいな盗賊や、双子剣士や、針使い兼薬師や、魔神や、よくわからない生き物が暮らしています。世の中に出してはいけない者たちの保管所みたいですね。

 ここに聖女(見習い)が一人増えたとて、今更というものです。

 クラスチェンジしてもなお、私の優しさと懐の広さは、海より深く山より高いのでしょうか。己の寛容さが恨めしい。


 懸念があるとするなら、あの子の身の上語りが何もかも出鱈目で、ろくでもないことを企んでいるかもしれないのですが……あえて受け入れることにしました。

 罠だとしても面白半分に踏み潰せそうな面子が何人もいますから。特にサロメ。


 そうと決まれば相談会です。


 まず、オレンティナさんは帰らせました。


「今日のところは帰りなさい。明日、正式に弟子にしますから」


 と言うと彼女は、つぼみが一瞬で花開いたかのように、それまでの穏やかな顔を一変させて、ぱあっと微笑みました。

 満面の笑みです。

 願いが叶った喜びを、これでもかと顔に出していました。

 その様はとても演技に見えず、これマジで裏表ないんじゃないのかなと思いましたが、まあ一応帰らせました。

 立ち去る後ろ姿まで嬉しそうでしたね。


「そういう訳なんですが……ピオ、ミオ、その名に聞き覚えあります?」


「あるよね、ミオ」


「あったね、ピオ」


 あるみたいです。


「詳しいことは知らないし、全然興味ないんだけどさ~」


「エターニアを見習って、聖女パワーで国を守ろう、みたいな~?」


「そういう事ですか。よくある話ですね。かの聖教国でも、エターニアに負けじと、長年試行錯誤してるみたいですから」


「ま、どこの国も考えることは同じってことか」


 リューヤの言う通りです。

 災いから国を守る手段があるなら、どこの国でもこぞって真似しますよね。しない方がどうかしてます。


「満足のいく成果は、どこもまだ出ていませんけどね。出たら関係者一同有頂天になって大々的に公表しますもの。それがないんですから、つまり、ことごとく失敗に終わってるのです」


 どうしてなのかわかりませんが、上手くいかず頓挫するみたいなんですよ。

 そのため、エターニアは『天に祝福された地』だという説があるくらいです。

 土地からして、よそと違うと。

 守護の魔法か、もしくは結界との相性が抜群にいいのか。あるいは大陸の地下を流れる大地の力が集まる要所なのか。

 たまたま優れた聖女が定期的にポコポコ生まれてるだけかもしれませんがね。

 それはそれで祝福されてる気もしますけど……私の代で絶えそうです。


「スパーリアってのは、でっかい神殿がある地域でね~」


「ニンゴルドルって名前の、大地の女神様を奉る地域なんだよね~」


 なるほど、地名を姓にしているのですね。

 平民や、家を捨てて帰依した者が、神殿から地名を名乗ることを許される。

 そうしたことが、たまにですが、あるのです。

 誰でも許されるわけではありません。神殿からのお墨付きみたいなものですから。


 それが許されているのなら、彼女の素性は保証されたに等しいでしょう。

 もし嘘だとして、そんな嘘を堂々とつく意味がないからです。

 わざわざボロが出るかもしれない嘘をつくくらいなら、ハナから姓など名乗らなければいいだけの話なので。


「でも、オレンティナって名前には、聞き覚えないね~」


「まあ、僕らはそこの神殿の事情に詳しくないしね~」


「そこに限った話じゃないけどさ」


「だね。信心深くないもん僕ら」


「「アハハハッ」」


 今のやり取りで笑うところありましたかね。


「いえ、それだけわかれば充分ですよ」


 双子の笑いのポイントはともかく、どうやら彼女の言っていた内容に怪しげな点はないみたいです。


「それでも違和感はあるわな」


「どういう意味です、リューヤ?」


「いくら噂を聞き付けたからといって、んな遠くから来てまで何を学ぶってんだ? 神殿で修行なり学習なりしたらいいだろ」


「それもそうですね」


「他の候補を出し抜きたい……とか?」


 それはあり得ますね。

 聖女候補が彼女たった一人だけとは考えにくいです。他にも数人いて然るべきでしょう。

 ギルハのその意見、一理あります。


「あー、そういう腹積もりか。結界魔法を極めて他を引き離したいから、有能なら、呪い師だろうと暗黒騎士だろうと構わないと。どうなんだクリス。そのオレンティナって子に、そんな野心見えたか?」


「それなんですけど、必死さや、真剣さは感じられなかったんですよね。自分で言うのも何ですが……凄い術者に師事されたいだけというか……」


 こう、野心溢れるぎらぎらした光が、目にありませんでしたからね。

 率直な感想としては、穏やかで素直な瞳でした。


「お前がそう感じたんなら、それが正しいんじゃないか? 聖女の勘ってやつを信じてみたらいいさ」


「それを言うなら暗黒騎士の勘ですね」


 私がそう訂正するとリューヤは黙りました。納得したのでしょう。


 ……弟子、ねぇ。


 どうやって何を教えたらいいのかしら。

 人を育成するとか、そんなガラじゃないんですけどね……。


「弟子はいいけど、ほら、例の件はどうするの?」


「例の件?」


 何のことをサロメは言っているのでしょうか……………………あ!


「そうでした、ポーション運びの護衛!」


「あなたにとって、とても大事なことでしょ? 夢のスローライフの元手になる、大切な品物なんじゃなくて?」


「困りましたね」


「別に困らんだろ。師弟でエターニアまで行けばいいんじゃないか? 魔物や盗賊相手に神聖魔法の実技やりながらさ」


「それはまあ、一石二鳥かもしれませんけどね。でもねリューヤ、あまり目立ちたくないんですよ私」


「なら暗黒騎士なんか名乗るなよ。あと衣装も控え目にしろや」


 正論です。

 何も言い返せませんでした。





 で、翌日。



「……ルミティス、どうして君がここに」


「それはこちらの台詞よ。まさか先を越されていたとはね……油断してたわ。貴方の内向的な性格からして、神殿から一歩も出ないとばかり思ってた」


「偏見だね。別に僕は引きこもりじゃない。必要がないから神殿の外に出ようとしなかっただけ、それだけだよ」


「どっちでもいいわそんなの。貴方のこだわりとか興味ないもの」


 我が家に来た弟子入り志願者は、先日の栗毛ショート美少女オレンティナ。


 そして、もう一人。


 薄めの色合いの金髪をツインテールにした、青いツリ目の美少女。

 衣服はオレンティナとほぼ同じ装いです。違いがあるとするなら、護身用の得物でしょうか。

 オレンティナはいかにも固そうな木の杖を持ってて、この子はというと腰に帯剣しています。鞘の細さからいって、レイピアですね。

 二人の会話から察するに、ルミティスというのが、この金髪の子の名前なのでしょう。



 ……う~ん、どうしましょうかね。

 いきなり二人も指導とか無理ですよ。しかも護衛旅しながらなんて。

 知恵熱出そう。

 でも本当に出たら出たで、この子達にすぐさま癒されるんでしょうね。

 なんなのこれ。

 スローライフってこんなに艱難辛苦(かんなんしんく)乗り越えないと味わえないものなの?

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