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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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97・聖女見習い現る

 大量に作った素敵なポーション。

 私の安楽生活の礎となる大事なポーション。

 たくさんの金貨袋と交換できる夢一杯なポーション。

 あちこち駆けずり回って集めた薬草を、心と聖なる力を込めて煮詰めた、最高の成果。

 癒しに満ちた聖女の雫。


 それをチンケな悪党に奪われたり雑魚魔物に襲われてゴミにされてはたまりません。

 ドブに捨てるために作ったんじゃありませんからね。

 なので護衛のお仕事を引き受けることにしました。

 ポーションの売り込み先である祖国エターニアでは、魔物被害に苦しむ民がじわじわ増加の一途をたどっています。

 そんな方々に私の正体を知られたら逆恨みで焼き討ちされそうですがバレなきゃ平気です。バレてもコロッセイア側に逃げれば余裕です。逃げ切れなくても暴力に頼れば楽勝です。


 首尾よく売り込みが上手くいけばこちらのもの。

 行かずとも、あちらの方から喜んでこっちに買い出しに来るでしょう。

 そうなれば隊商を出さなくてもよくなるので、当然ですが護衛をする必要もなくなり、私の事がバレる可能性もほぼ消えます。

 早くそうなればいいですね。



 あと、これはどうでもいい話なのですが……

 話し合いを終えて屋敷を出てから、こっそり、ご当主さんの様子をリューヤに窺いに行かせてみました。

 すると、彼女は私達が先ほどまでいた応接室のソファーをベッド代わりにして、息子さんにまたがっていたそうです。


「私は息子さんが上だとばかり」


「タガの外れた熟女の性欲、恐るべしだ」


「私達が帰ったそばからやり始めるとか、そんなことで、この家の先行き大丈夫なんですかね」


「真面目な人間ほどいったん傾くと激しくなるからなぁ」


 どうかウィレードラさんの商才が色ボケで衰えたりしませんように。

 そんな私の祈りが天に届くといいのですが、そこは期待薄ですね。

 あんまり交わりに夢中になるようなら、それとなくほのめかして、釘を刺した方がいいのかも。


 空を仰ぐと、コロッセイアの太陽は、富豪母子の情熱のように今日も燃え上がっていました。



「お客さん来てるよー」


「若い女の子だよー」


 帰宅するなり双子から来客について聞かされました。


「あら、もしかしてまた解呪の依頼ですか?」


 忙しない日ですね。

 お昼ごはんはその人を救ってからにしましょうか。


「それなんだけど、なんか違うみたい」


「そこについては、本人から聞いてよ」


 それもそうですね。そのほうが早いです。

 待合室代わりにしている部屋へ向かいましょう。



「お待たせ致しました」


「……どうも、はじめまして」


 少女が椅子から立ち上がり、被っていたフードを脱ぐと、頭を下げてこちらに挨拶してきました。


 耳が隠れる程度の栗色ショートヘア。

 青い瞳は、若い見た目に見合わない、穏やかな光を宿しています。

 背丈は、あの双子より頭ひとつ低いくらい。

 大人びた感じの、落ち着いた美少女です。

 白と青を基調にしたローブは、よく旅の僧侶が身に付けているものです。安くて丈夫なうえに色合いも清らかで、人気なんですよね。

 そうなるとこの子は僧侶見習いなのでしょうか。

 

 他に人の姿はありません。この子だけです。

 ふむ…………一人ですか。

 冒険者では、ないのですかね。それとも仲間はどこかで待機しているとか?

 いや、そんな意味ないですよね。

 弱ってる仲間に付き添わず一人で治療に行かせる薄情な人間は、そもそも他人と組んだりしません。そういったしがらみや付き合いが嫌だからピンで動くのです。

 それとも、この子がまさにその手のタイプで、馴れ合わず一人で活動してたら呪われたりしたのでしょうか。

 ……にしては、顔色もいいし、よどんだ空気も漂わせてはいませんね。


「ここに来たわりには、お元気そうですが」


 顔や気配に出てないだけかもしれませんし、まあ聞いてみましょう。


「解毒や解呪の依頼ではありません」


「でしたら、いかなる用件で?」


「率直に言いますと、弟子入り志願です」


「弟子入り」


 これは予想外ですね。

 私まだ後継を育てるような歳でもないんですが。

 二十一ですよ、二十一。ぴちぴちの二十代なんですよ。


「この国で数年に一度開かれる武術大会──その試合中に高度な防御魔法が披露されたと、噂に聞きました」


「試合中ではないんですけどね」


 人間に化けていた魔物が暴れたのをやっつけただけなので。

 事実は微妙に違うのですが、そういう形でまとまりました。それが誰も損しない結論でしたから。


「話を詳しく聞くに、恐らくそれは最高峰の守護魔法『不落不抜(ふらくふばつ)』に違いないと、僕は確信しました」


「よくわかりましたね」


「神聖魔法については一通り頭に入っています。使いこなせるのは、その中の三分の一ほどですけど」


 あら、もしかしてこの僕っ子ちゃん、エリートなのかしら。


「……そうでした、まだ名乗っていませんでしたね。僕としたことが。申し訳ありません」


「別にそのくらいのことで謝らなくてもいいですよ。それよりお名前を教えて下さいな」


「はい。僕の名は、オレンティナ。オレンティナ・スパーリアと申します」


 年相応の成長な胸に手を当て、少女が名乗りをあげました。

 姓持ちですか。いいとこのお嬢様ですね。

 聖女なんてしんどい職業やらずに、玉の輿に乗ることを優先したらいいものを。


「おいくつ?」


「先月、十四になったばかりです」


「その若さでそこまで使えるのは驚きですね。そこらの町にいる並の神官僧侶を凌ぎますよ」


 ちなみに私はそのくらいの歳だと、防御系や結界系はほとんど会得していました。自慢するつもりはありませんが、我ながら凄いことではあると思います。

 他の系統は、まあ、ちょっと嗜むくらいでしたが……。


「一応、これでも聖女候補ですので、僕」


「そうですか。それはそれは」


 聖女候補ときましたか。嫌な予感がしてきましたね。

 もう転職したんですから関り合いたくないのに。


「……もしや、エターニアの方ですか?」


 回りくどい聞き方は苦手なので直で尋ねます。

 後ろめたい事があれば少しくらい顔に出るでしょう。もし出たら刺客かもしれないからリューヤ達を呼んで本格的に尋問します。


「違います」


 反応なし。


「では、どちらから?」


「ウィルパトからです」


「えっ」


 そこって双子の出身地ですよね。

 確かあの二人は、ウィルパトから、このコロッセイアまで旅して来たと言っていたはずです。腕試しで武闘祭に出るために。


 しかし双子は普段通りで、特におかしな様子はありませんでした。同郷ならではの雰囲気や言葉遣いなどを、この子から感じ取れなかったんですかね。

 ……ん、まあ、それも難しい話ですか。

 みんな顔見知りの村や小さな町ならともかく、国ですからね。

 範囲があまりにも広すぎます。

 エターニアでも、東の端と西の端では、暮らしや口調がほとんど別物だったりしていましたから。


「……どうかしましたか?」


 それでも怪しいものがあります。

 後で、双子からできる限りの裏取りをしましょう。

 聖女候補ともなれば、それなりに有名人なはずです。あの二人がオレンティナという名を知っていてもおかしくはありません。

 この子を見ても双子が何の反応も示さなかったのは、名前は知ってたが本人を見たことはなかったから……あり得ますよね。

 何もかもこの子の嘘って事もあり得ますが。


「いえ、何も。そうですか、ウィルパトね。ここに負けず劣らずの暑さでしょう」


「乾燥が強いですねここは。焼けるようです。ウィルパトの蒸すような暑苦しさとは、また違いますね」


「同じくらい日差しのつらい国でも、暑さに差違があるのですね」


 などと世間話をしながら、どうしたものかと思案する私でした。

 

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