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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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94・故郷の惨状(笑)

 エターニア。

 私の母国であり、歴代の聖女たちによってありとあらゆる災いから(ほぼ)守られていた王国です。


 大陸で最も安全な場所。

 雨の多い楽園。

 聖壁の王国。


 いくつもの幸福な別称を持つ国でした。


 しかし、慣れとは恐ろしいもの。

 いつしか民は感謝と敬いを忘れ、聖女から与えられていた掛け替えのない保護すら、あって当たり前のものだと認識する有様でした。

 それだけでなく、結界の綻びから魔物が侵入してくることへ不満を抱き、人目をはばかることなく悪態をついていたのです。神ならぬ人の行いに完璧などあり得ないのに。

 いまだにムカつきます。


 その厚かましさは民だけに留まりません。

 神殿のお偉い方々は派閥争いに夢中で、私のことなど結界を張る道具としてしか見ておらず、口を開けば、やれ清貧だのやれ献身だのと、しらじらしい言葉ばかり。

 一方、位の高くない神官達は私を、


「守護防壁を張る以外ろくなことができない、がさつな聖女」


 略して壁聖女と揶揄して、陰で馬鹿にしていました。この失礼極まりない呼び名は民衆にも次第に伝わり、やがて、腹立たしいことにエターニアで知らぬ者がいないほど広まりました。


 神に仕える者ですら、これなのです。

 果たして、信心浅い老若男女の性根は、どれだけ歪んで甘ったれていたのでしょうか。


 そして、満を持して現れた、あの馬鹿王子と馬鹿令嬢。

 この図抜けたマヌケ二名が決定打となり、エターニアは取り返しのつかないものを失ったのです。

 そう、盤石の平和、その礎を。



 早い話が私を冷遇した挙げ句に追い出したら国がひっくり返ったという事です。どうなったんでしょうね一体。もしかして国名とか変わるのかしら。

 国の名前がどうなろうと誰が実権を握ろうと、戻る気ないですけどね。



「冒険者がこぞって向かってるらしい」


 皆で居間に集まり、軽い昼食を摂っている時。

 リューヤが、我らの祖国について、そう話し始めました。


「なんで~?」


「どして~?」


 それを疑問に思ったのは、リューヤの左右の席にそれぞれ陣取る双子です。

 ゴールドの髪とグレーの瞳。

 南の国・ウィルパトからはるばるここまでやってきた、兄のピオと弟のミオです。


「よく考えたらわかるでしょ」


「クリスの言う通りだ。お前らも冒険者やってたんだろ? なら、お仲間どもが群がる理由くらい、予想つかないか?」


 双子はちょっと停止しました。頭をひねることに集中しているようです。

 いや、あのね、そこまで悩むことじゃないんですが。


「「…………あー!」」


 閃いたようですね。

 美しく可憐な少女にしか見えぬ二人の少年は、一糸乱れず同時に声を上げました。


「お仕事いっぱいなんだね!」


「食いっぱぐれないんだね!」


「そういうことさ。不可侵の要たるクリスに逃げられたことで魔物をさえぎるものは無くなった。しかも今あの国は割れている。好き勝手に入りたい放題の暴れたい放題だよ」


 おかしなことを言いますね。


「リューヤ、割れているとはどういうことです? 国王陛下が()()()に引きずり下ろされて、第二王子がトップに立ったんじゃないんですか?」


「いや、まだだそうだ」


「まだって……」


「内乱を引き起こして実権を握った第二王子派と、第一王子率いるかつての主流派がバチバチやり合ってるみたいだからな。どっちに転ぶかわからない。魔物討伐に兵を差し向ける余裕も暇もあったもんじゃない」


 骨肉の争いですね。

 まあ、わかっていましたが、そこに第三王子の入り込む余地はないようです。きっと、誰からも価値無しとみなされ、幽閉され続けているのでしょうね。

 単に忘れられてるだけな気もしますけど。


「だから、権力者どもとしては、自分らのケリがつくまで冒険者にその間のカバーをしてほしいのさ」


 麦粥をすすりながらリューヤが言いました。

 粥好きですよねこの子。パンのほうが美味しいと思うんですが。


「冒険者ギルドとしても、貸しを作って国への影響力を高める、またとない好機だ。駆け出しの冒険者なんぞ次々といくらでも湧いて出てくる。田舎の食いつめ者、一攫千金狙いの輩、名声欲しさの身の程知らず……」


「どれだけ使い潰しても何の不都合も罪悪感もない……ってことで合ってる?」


 浅黒い肌の少年も話に加わりました。


 ギルハ。

 大陸の東のそのまた東、リーリポッカ連合国の出身です。

 最初は敵でしたが、いろいろあって、今はサロメの下僕として私達の仲間になっています。


「その通りさ、ギルハ。ま、多少は気の毒ではあるが、それもまた自分で選んだ道だからな」


「よくそんな道選ぶよね。未来ないじゃん」


「ないこともないが、狭き門だよ。先に進めるのは一部だけ。大半は夢破れ絶望する」


 それでもなりたがる者が後を絶たないのですから、若者の目には、冒険者という職業は魅力的にまばゆく映るのでしょうね。

 先行きのあやふやな、死と隣り合わせの生き方だというのに。


 私やリューヤみたいな実力者になれば、呑気と殺伐が半々くらいの生活に落ち着くのですが、大半はそうなる前に死ぬか引退かのどちらかになります。

 引退といっても、荒稼ぎしてスパッとやめて第二の人生歩むのは一握り。現役としてやっていけなくなる大怪我を負ったか、金回りが滞って破綻するのがほとんどです。マジで甘くないんですよこの業界。

 それでも命が残っただけマシですがね。

 最近すっかり顔を見なくなった知り合いがダンジョンの中で屍をさらしていたとか、珍しい話でもないので。


 弔ってあげようと近づいたら、アンデッド化してて襲いかかってきたからぶっ潰したことありましたね……ふふ、懐かしい。


「いずれにしても、エターニアの混乱は、まだまだ続くだろうな。静観している神殿も、どう動くことやら」


「私の後任の後任はまだ見つかってないのかしら」


「そう簡単に見つかるかよ。だからこんなことになってるんだしな」


「各地の聖なる柱ももう機能してないようですし、こんな時にスタンピードが来たら、ひとたまりもありませんね」


「まあそうだな」


「そんな追い討ちみたいなこと、そうそう起きませんか」





 その数日後。


 ──追い討ちが起きました。


 こちら(コロッセイア)でも、エターニアとの国境沿いの街でスタンピードが発生したのですが、大した数ではなかったらしく、死者を出すことなく見事撃退したそうです。

 その時活躍したのが、兎頭の兜をつけた女性と鷲頭の被り物をした男性だったとか。はい、あの二人ですね。

 二人とも、とっくにこの国を離れているんじゃないかと思っていましたが。

 もしかしたら、エターニアに行くかどうか迷っていたのかもしれません。



 散々な目にあってるエターニア王国。

 今回のスタンピードでどん底にまで落ちそうですが、それもこれも、私を粗末に扱った事への罰なのかもしれませんね。

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