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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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88/141

88・驚きました。奇しくも同じスキルです

 鷲頭を被る槍使いゲドックさん。


 鋼の右腕を持つ剣士ロスさん。


 まさか、どちらも手数を増やす系のスキルの持ち主だとは、誰一人として考えもつかなかったのではないでしょうか。

 そうそうお目にかかれるものではない珍しいスキル。

 その使い手が二人も現れ、こうして一戦交えるとは。


 さっきまで「いつまでお見合いしてんだ!」なんて野次っていた観客も「うおおおお!」とテンション激上げで歓声をあげています。手のひら返し早っ。

 このカラッとした切り替わりの潔さが国民の気風なのはわかりますが、思い切りの良いほうな私でも若干引きますね。穏やかで辛気臭いエターニア人とは真逆の性質です。


「鷲頭の兄さんのほうが有利だな」


 そんな気風などどうでもいいとばかりに、リューヤは二人の戦いから目を離しません。


「でしょうね。剣と槍ですもの」


「スキルの性能がほぼ同じ。技量も似たり寄ったり。なら、リーチの長い方が有利になって当然だ。こちらの手は届くがあちらの手は届かないってのは、闘争において重要なファクターだからな」


 リューヤの発言には私も同感です。

 素手より剣、剣より槍、槍より弓のほうが強いのは戦争の歴史が証明していますからね。射程の長さは強さ。子供の頃の喧嘩で石ぶつけた人やぶつけられた人ならわかると思います。


「フッ、そーでもないさ。近づいて乱打戦になれば得物のリーチなんざふっ飛んじまうよ」


 リューヤの主張に、ユーロペラ王女が指をポキポキ鳴らしながら異議を申し立てました。

 拳が自慢な彼女らしい意見ですね。

 しかしです。


「おっしゃってることはわかりますが、どうやって近寄るのですか?」


 よっぽと油断でもしてくれないと無理ではありません?

 長い得物の使い手は接近されたら死活問題なんですから、みすみす懐に入らせなんかしないでしょう?


「そこはまあ、多少痛くても我慢してさ」


「我慢」


「そ。ガ・マ・ン♪」


 あきれた。

 忍耐とタフさでゴリ押しするだけじゃないですか。


「急所を刺されたり、思いっきり斬りつけられたりしたら、耐えられないのでは?」


「ンなら頃合い見計らって飛び込めばいいんだよ。そう難しくないって。私もちょくちょくやるもん。こう、見切ってシュッと。スイッと」


 こんな役に立たないアドバイス初めて聞きました。

 『戦いに勝つ方法は敵を無力化することだ。頑張れ』くらい過程が吹っ飛んで結果だけを語っています。


「あー……わかるわかる、わかりますよ。スッと、かするかどうかくらいで避けて、金的なり顎なり打ったり、足ひっかけて転ばせたりとかね」


「そうそう、こうかわして、こう! とかね」


「あるいはこんな感じですね。ここからの、こう、とか」


「うんうん、それいいじゃないの!」


「……………………」


 私にはわかりませんがリューヤと王女様はわかり合えたようです。

 殴る者と刺す者という違いはあれど、近寄って一発かます点では同類なのでしょう。観戦そっちのけで、語彙(ごい)の失われた、感性頼みな会話に花を咲かせています。


「おや」


 二人とも前傾の構えです。

 手数の競い合いに移るようですね。どちらも様子見はもうやめたのでしょう。

 舞台上の戦況は、新たな局面へと突入していきました。



「ちぇいっ!」


「しゃああっ!」



 気合いの掛け声を挟みながら続く、一進一退の攻防。

 決定打はいまだ無く、一見して派手なやり取りとは裏腹に、実質は細やかな削り合いが続く試合展開になっています。


「む!」


 何発か幻の槍を受けながらも、強引に寄ってきたロスさん。

 これが鋭い穂先の残像相手ならそこまで強引にはいけませんでしたが、今回ゲドックさんが用いているのは、先っぽが丸い練習用の品です。それなら、ユーロペラ王女が言うように我慢で凌ぐ事も可能でしょう。

 牽制しようと胴体を突きにいったゲドックさんでしたが、その一撃を刃の腹で下から叩き上げられ、体勢が崩れました。

 来るのがわかっていたような──いや、来ると読んでいたのでしょうね。


「もらったぁ!!」


 反撃もままならない状態のゲドックさんへ、痛烈な剣撃が繰り出される。誰しもそう予想したでしょう。



 しかし──違いました。



 ロスさんが放つ会心のひと振りは──鋼の右拳だったのです。

 ダスティア嬢と違い、一瞬で螺旋の光を義手にまとわせると、その拳をゲドックさんに叩きつけました。


 いや、叩きつけようとした、が正しいですね。



「──やはり、そちらが本命だったか!」



「ッ!? な、なんだと!??」


 『バゴォオオオン!!』という轟音が、闘技場にいる者達の鼓膜を打ち震わせました。

 残像の槍が収束し、より集まった太く大きな槍と化して、鋼の拳に激突したのです。

 まさかの事態です。

 私もリューヤもユーロペラ王女も思わず目を見張りました。

 そんな馬鹿な。


 ロスさんの義手は破壊こそされませんでしたが、その光はわずかな輝きすら残さず失われています。それほどの威力だったのです。


「馬鹿な、槍を振るわずっごぶぁあっ!?」


 ゲドックさんの槍先が、驚きのあまり反応に迷いと鈍さが生じたロスさんの胸部に、突き刺さるように命中しました。これがもし本物の槍だったら心臓を貫かれて勝負も生命もおしまいだったでしょう。


 本来なら、避けるなり防ぐなりできたはずの一撃。

 しかし当たりました。

 なぜなのか。

 なぜロスさんが、そのような隙が生まれるほどに困惑したのか。我々も驚いたのか。


「……誰が、得物を動かさねば残像も動かせない、等と言った?」


 そうなのです。

 彼らの使う残像は、武器の挙動に合わせて動く、そういうものだと我々は認識していました。

 当のロスさんでさえそう思っていたはずです。だからあれほど動揺したのでしょう。


「『無双剣』か。どうやら、そちらの流派はそこまでで止まったらしいな。『虚空槍』は、既に先に進んだというのに」


「な、なんだと貴様、まさか」


 よろめき、胸元を押さえ、剣を杖代わりにして倒れ込むのを堪えるロスさん。


「そのまさかだ。我が流派とそちらの流派は、同一の流派から分かれて誕生した、いわば分家なのだ」


 思いがけない事実が明かされました。


「同門対決かよ。奇遇なこった」


 ユーロペラ様が頭をポリポリかきながらそう言いました。


 なんで二人の会話がこちらまで届いているのかと言うと、舞台にかけられた『聞き耳』の魔法の効果です。

 その儀式魔法の効果で、我々出場者や、審判役も務める司会者、大会係員などのいるエリアにまで聞こえているのです。

 こうでもしないと歓声に遮られて降参の声が審判に届きませんからね。といって舞台上にいたら巻き添え喰らって大怪我する恐れもあります。それを解決するのがこの魔法というわけです。

 便利な魔法ですね。私も覚えてみましょうか。


「し、知らんぞ。俺はそんな話は、親父から聞いてない」


「なに?」


 ゲドックさんの声に、不可解な響きが感じられました。


「お前、何を言っているのだ? 知らぬわけがあるまい。無双剣を名乗っているのだろう? 伝承者なら、先代から必ず内情を教わるはず。まだ伝承してない俺でも前倒しで教えられたのだ。名乗りを許されたのなら絶対に知って……いや、知っていなければならない」


「だから聞いてないんだよ。あれこれ詳しく聞く前に、つい、殺っちまったからな…………ハハ、ハハハッ」


 え、ちょっと。


「おいおい、師匠殺しで親殺しかよ。どうしようもないぞアイツ」


「言ってるだけですからね……それだけでは捕らえようがありませんよ、リューヤ。しかも他国の人間ときてます」


 でも自白ですよねこれ。

 彼は、この会話がこちらの耳に入っていると知らないんでしょうね。

 あ、司会者や係員さん達も難しい顔してる。

 舞台挟んで向こう側で観戦してる兎兜のシファーレさんやあの出場者カップルも、きっと似たような顔つきになってんじゃないでしょうか。

 そりゃしますよね。大会の出場者が試合中に殺人の告白したら困りますよ。

 私なら聞かなかったことにしますが彼らはどうでしょうか。


 司会者さんがこっち来ましたね。

 これはユーロペラ様に判断をあおぐ方針に決めたとみていいでしょう。悪い判断ではありませんが……ユーロペラ様かぁ……。


 ──で、どうなったかと言いますと。

 「まだ色々と吐きそうだから、捕まえるか見逃すかはそれ次第」となりました。

 なんか他にもヤバイことしてそうですものね。それでいいんじゃないでしょうか。

 いやー、それにしても……いろんな意味で、どう転ぶかわかりませんね、この試合。

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