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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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72・本命と思いがけない強敵

 予選が終わり、勝つべき者が順当に勝ち残りました。


 こちら側の本戦出場者が、私、ルーハ、シファーレさん、赤覆面のお兄さんとなっています。

 一人格落ちがいる気もしますが運も実力のうちなので問題なし。

 反対側の広場で行われていた予選も、既に四名の出場者が決まっているでしょう。


「熊頭と王女様は確定として、後は誰かしら」


「兎の姉ちゃんの相棒が一枠埋めそうじゃないか? あの姉ちゃんとどっこいどっこいの腕前なら、それくらいやるだろ」


「あの鷲の被り物してた方ですね」


「ああ」


「なら、あと一枠は……王女様のお付きさんで決まりでしょうか。手合わせしてないから正確な力量はわかりませんが、なかなかやりそうな雰囲気はありましたよ?」


「どうかな? 無名の強豪があちらに参加してるかもしれないぜ?」


「無いこともないですね。そもそも私達がそれですから」


 暇ですし向こうに行ってみましょうか。私やルーハがぶつかるかもしれない相手を下見するのも悪くありません。


「あら、二人ともあっちの広場に行くの? なら私もご同行しようかな。向こうに相棒がいるのよ。多分勝ち残ってると思うんだけど……」


「負けてるかもしれませんよ?」


「その時は指差して大笑いしてやるわ」


 ひどい。





 どこの生まれだの、どこのレストランの何が美味しいだの、どこの魔物が手強かったのだの、会話を弾ませながら私達は西側の予選広場に到着しました。


「お探しの人物はどこでしょうね」


「……あ、いたいた。おーい、ゲドックちゃーん」


 シファーレさんの視線の方向に鷲頭の男性が一人たたずんでいました。


 初めて見た時と同様に、不自然なほど柄の長い剣を背中にしょっています。

 名前を呼びながら手を振るシファーレさんに、予選で使ったらしき木の槍をやんわり振って返していました。

 ゲドックですか。そんな名前で呼ばれてた気もしますが、気がする程度ですね。今度は一応覚えておきましょう。

 私が忘れてもルーハが覚えてくれるでしょうから、そこまで本気で記憶の倉庫に残すこともないですが。


「普段は悪目立ちするけど、こういう時はわかりやすくて助かるわ」


「あれならそうでしょうね。無理もない」


 もっとこう、蛮族風の衣装だったら逆に統一感もあるのに、首から下は軽装なのがまた不気味なんですよ。


「一応聞いとくけど、あんたの相棒ってやっぱ獣人なのかい?」


「いやいや、違うわよ。あれはただの誓いみたいなものらしくてね。人前で素顔を晒すのを禁じてるらしいわ。なんでも、彼の師匠の教えだとか」


「けったいな師匠さんもいたもんだな」


「ホントですね」


「でも、素顔は渋いハンサムなのよ? 普段はアレだけど」


「なんで鷲なんでしょうか」


「そこは彼個人のこだわりらしいのよね。一回聞いたことあるんだけど、急に早口でまくし立ててきてびっくりしたわ。怖くなって途中で説明にストップかけてから、この件に触れるのやめたのよ」


「鷲オタクかよ」


「なにその、オタクって」


「ああ、気にしなくていいですよ。この子って突然意味不明な言葉をほざくんで。意味を聞いても頑なにはぐらかされて胸がモヤモヤするだけなので、相手にしないのが無難です」


 まともに答えてくれたことなんか一度足りとてありませんからね。


「ひでえ言い草だなおい」


「なら説明してみなさいよ。やれるものならね。ほらほら、どうしたのかなボクー?」


「このアマ……」


「まあまあ、痴話喧嘩はその辺にしなさいな。人の目がある時にやるものじゃないわよ」


「痴話喧嘩じゃありません」


「その通りだ」


「あなた達がどう言おうが結構だけど、周りにはそうにしか見えないの。初々しいカップルにね」


 それが本当なら世間の人々って目が腐ってんじゃないですかね。

 こんな険悪なやり取りになんか恋愛要素の欠片もないでしょ。


「私とルーハはそんな色っぽい間柄じゃないんですよ。だいたい彼は男色家なんですから」


 あの水浴び時に私のむっちりボディと対面しても、ルーハのルーハはぴくりとも反応しませんでしたからね。


「そうなの!?」


「ンなわけあるか!」


「でもあの双子に言い寄られて、満更でもなかったじゃないですか」


「双子って、あの、もしやどっちも男の子だったりとかするの!?」


 シファーレさんがえらい食いついてきますね。琴線に触れたんでしょうか。


「はい。見た感じはどこに出しても恥ずかしくない美少女です」


「そ、そんな子達がこのボクちゃんに絡んでるの!? それは尊いにも程があるわ! うわ見たかったわねー!」


 さっきまでの大人の余裕はどこへやら。

 鼻息荒く興奮しています。


「急にいきり立ってきたぞ」


「何だか気持ち悪くなってきたから離れましょう」


「ちょ、ちょっと、もっと詳しく……!」



 おかしくなったエロウサギをその場に残し、私とルーハは早足でユーロペラ様を探すことにしましたがすぐ見つかりました。そりゃそうです。広大な場所じゃないもの。


「そっちはどうだった?」


「問題なく私も彼も勝ち残りました。本戦行き決定です」


「そうかい。こっちは私だけだね。リマは脱落しちまった」


 親指でクイッと後ろに控えるお付きさんを指すと、彼女は申し訳なさそうにうつむきました。


「すいません……」


「気にすることもないさ。絶対負けられない勝負でもないだろ。まあ、主だけ残して護衛が消えるってのも、本末転倒ではあるけどさ……」


「……しゅみましぇん……」


 リマさんのうつむき度合いがさらに増しました。


「ちょっと庇ってからの追撃やめなさいルーハ」


 リマさんがだんだん小さく見えてきます。

 これはスキルとか関係なく、単なる気の持ち様の問題ですね。穴があったら入りたいという心境が態度に出てるからなのでしょう。

 

「それで、出場が決まった残りのお三方は?」


 話を変えましょう。いや、戻すというべきですかね。


「それなんだがよ……」


 どうしたのかしら。豪気な性格に似合わぬ歯切れの悪さです。



「熊頭野郎、負けたぜ」



 ……………………は?


「負けたって……どこのどなたにですか?」


 私の問いに、ユーロペラ様は頭を左右に振り、こう言いました。


「フードを深く被って、顔の鼻から下に布巻いた男でよ。右腕に付けたいかつい鉄の籠手と、切れ味の死んでる長剣を得物にしてたぞ。な、リマ」


「はい。実力もさることながら、厄介なスキルの持ち主でした」


「熊頭も死にはしなかったがボコボコにされてな。血も吐いたし気絶もしたから治療院送りになったぜ」


「それはまた番狂わせですね」


「ああ。できれば私がやりたかったがな。まあ済んじまったものは仕方ない」


 ユーロペラ様は悔しげなご様子です。

 スィラシーシア様の敵討ちをやるつもりが全く無関係な者に横からかっさらわれたわけですからね。


「らしいぜ、クリス。なら俺達も治療院に向かうか。弱ってるなら脅しもやりやすい」


「その必要はないぜ」


「え、そりゃまた、何故っすか?」


「シア達がもう向かってる。こっそり使い魔でこちらの様子を伺ってたからな。あの熊頭ももう終わりだよ」


「なるほどね。なら俺達も、お役御免かな」


「そうですけど、一応最後まで出場しておきましょう。二人も本戦辞退するってのもなんか野暮ですからね」


 この方のサポートして恩着せる方向にいきましょうか。スィラシーシア様からの報酬が期待できなくなりましたからね。

 なんなら私かルーハが優勝してもよし。


「──ところで、熊頭さんを倒したのは誰でしたの? 良ければ教えて下さらない?」


「ああ、そうだな。教えてやるよ。そいつはな、剣で攻撃すると刃の幻影がいくつも現れて連携攻撃する、そんなスキルの使い手だった。熊頭は実際にダメージを受けてたから、ただの目眩ましじゃないぜ」


「…………ん?」


 類似したスキルに聞き覚え、いや、見覚えがありますね。


「あれですかね」


「あり得るな」


 ルーハも心当たりがあるのか、私と顔を見合わせました。


「でも、分身系は、この世に唯一無二のスキルというわけでもありませんし……」


「それはそうだが、その右腕の籠手ってのが引っかかる」


 もしかしたらその籠手は、使い物にならなくなった腕の代わりになってる義手かもしれません。だとしたら。


「……スキルも厄介だが、ホントにヤバかったのはそれじゃなかったんだよ。そいつの籠手が光ったかと思うと、光がうねり出してよ。その籠手で腹殴り付けたら、熊頭野郎が血ヘド吐いて後ろにぶっ飛びやがった」


「あらまあ」


 もうこれ確定ですね。


 ロザルクに利き腕落とされた弟さんが、ダスティア様をそそのかした、あの喪服の女性の援助を受けてるに違いありません。

 大会に集まってきた強者相手にどこまでやれるか、実験としてはこれ以上ない好条件のはずです。



 おかしな因果が巡ってきましたね……偶然なのか、それとも必然なのか。

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