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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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71・田舎育ちの鉄肌

 順調に参加者が沈んでいく中、やっと私に相応しい相手が現れました。


 でもこの勝負、やる意味ないんですよね。

 こちらが一戦交えている間に、ルーハやシファーレさんが暴れまくって他の生き残り全滅させそうなんですもの。

 それに時間もね。

 あのバカでかい砂時計の減り具合見た感じ、あと三分もないんじゃないでしょうか。

 残り人数と残り時間の両面から猶予がありません。


「まごまごしとったら終わっちまいそうだ。もっと早よう出会っときゃよかっただなや」


「あら、口説き文句ですか?」


「冗談やめてくんな。あんたみてぇなクソ縁起でもねえ姿の姉ちゃん、お断りだんべや」


「ならこれでもいかが?」


 和やかに会話しながら、前に倒れ込むくらいの踏み込みから、胴を引き裂くくらいの意気でいきなり頑丈な棒を振るってみました。

 これで倒せるとは思っていません。どう対応してくるか見極めるための撒き餌です。


「ふん!」


 避けるか防ぐかの二択しかないと思われましたが、斧使いのおじさんが選んだのは、そのまま耐える道でした。


ピシャッ!


 私の一撃は容易く受け止められ、棒はしなって弾かれました。


(危ない危ない。折れるところだったわ。練気で強化してるのにね)


 動きがないのを怪訝に思い、とっさに胴への一撃を緩めましたが正解でした。

 防御強化、あるいは硬化のスキルとみて間違いないでしょう。動かなかったのは、()()()()()()のかもしれませんね。動くと解けるか、あるいは静止しないと使えないか。

 どちらにしても攻めながら使えないのでしたら、やりようはいくらでもあります。


「とんでもない固さですこと」


「そだろ? オラの自慢のスキルだ」


 革袋越しに鼻の下を指で擦り、斧使いのおじさんが自慢げに語りました。

 やはりスキルでしたか。


「あんたの棒もてぇしたもんだが、オラの『鉄肌』には通じねえだよ」


 よく観察すると、腕や首などの露出してる部分が青緑っぽい色に変わっています。


「確かにあなたの言うとおり、私の練気の熟練度では、この固さは突破できそうにありませんね」


「そだろそだろ。がっはっは!」


 おじさんは上機嫌のご様子です。

 得物が壊れないようにと加減したのがわからないようですね。鉄肌とか言ってるくらいですから、その辺の感覚が鈍いのかも。


 さて。

 スキル持ちが相手なら、こちらも神聖魔法を使わざるを得ませんね。

 予選ごとき使うまでもないと思っていましたが、思いがけない強敵が現れました。


「ほら、頑張りなさいよー! もうちょいなんだから!」


「言われなくてもわかってるよ……! おりゃあぁ!」


 仮面覆面カップルのやり取りから察するに、あちらも佳境らしいですね。

 もう予選も終わりかねません。今やってしまうなら手早くやらないと間に合わないです。


「ならばこちらも、魔法を使わせてもらいますよ、斧おじさん。この大会はスキルも魔法も使用可ですからね」


「誰が斧おじさんだんべや!」


「えっ!?」


「オラはまだ二十六だ! それにボンザックって名前もあるだ! 変なあだ名つけんな!」


 まだ三十路前なのも驚きましたが立派な名前まであってさらに驚きです。


「そ、そうですか。それは失礼しました」


「わかればええだよ」


「それはそうと、打開策を考案したので、やっつけさせていただきますね」


 策も何もハエ叩きでぶん殴るだけですけどね。普通に叩いて倒せないならそれしかないです。


「がはは、そりゃ面白ぇ。やれるもんなら……やってみぃや!!」


 今度はこちらの番とばかりに、ボンザックさん──なんか違和感ありますから斧兄さんと呼びましょう──が突っ込んできました。


「でりゃあぁ!」


 本当にただの突進です。

 さっき倒した二名よりは速いですが、それでも余裕を持って対処できる速度ですし、何よりその二名に比べて隙だらけです。

 カウンターする絶好の機会なんだけど……スキル名からして、ずっと発動させておける類いのスキルなんじゃないですかね、これ。

 そうでなければこんな、さあ叩いてくれと言わんばかりの突進しませんよ。猪じゃあるまいし。

 それだけ己の固さを信頼してるのでしょう。


「よっと」


 なのでここは避けておきます。まだ円盾を使ってませんから。


「なんだぁ!? 重そうな見た目の割にゃ素早いもんだなぁ!」


「余計なお世話です!」


 男ってのはどうしてどいつもこいつも私を外見から鈍重だと判断するの! なんなの!


「まだやってんのかー?」


 呆れ混じりのルーハの声。いよいよ時間がなくなってきたようです。決着付かずも気持ち悪いからここで決めます。


 避けながら棒の先に円盾をいつものように重ねていきます。十秒もかかりません。


「んな平べったい飾りがいくらあろうが、オラに効くわきゃねえべや!」


「なら受けてみなさい!」


 下から斜め上に斬り上げる木斧をかわし、カウンターで横薙ぎの一撃!


「だから無駄……おげぇっ!!? ば、馬鹿なっげぼぇぇえ!」


 今度は無事に効きました。

 ゲロ吐きそうな叫びを上げて膝をついています。

 びっくりしながらオエオエ言ってますが、びっくりしたのはこっちもです。


「あら!? こんなに固いなんて嘘でしょ!? 二枚割れちゃったわ!」


 これは史上初です。

 まさかの頑丈さ。

 これなら自慢するはずです。ダスティア様のあの腕でさえ一枚しか割れなかったのに、まだオエオエ言ってるこの方は二枚いきましたよ。

 ……まあ、ダスティア様には五枚重ねで、この斧兄さんには三枚重ねでしたから、破壊力では劣ってるのですが……それでも二枚割ったことには変わりありません。


「いっ、いでっ、おえっ」


「ん?」


 (くろがね)色をしていた肌が、温かみのある人肌に戻っています。

 今の一撃で相殺されたのかしら。


 まあ、なんにせよ、もう鉄じゃなくなったのなら私の敵じゃないです。


パコーン!


「んげへっ!」


 円盾を解除した棒の一撃を脳天に落とされ、斧兄さんは前のめりに倒れました。

 お尻をちょっと高くあげたようなポーズのまま、微動だにしません。

 もう一発殴ろうとした時、その姿が消えていきました。脱落とみなされて転移されたのでしょう。


「ふう…………世の中、広いですね」


 私の防御魔法の破壊力もまだまだのようです。精進しないといけませんね。立派な暗黒騎士として。



『──ただ今を持ちまして、予選終了とさせていただきます! 予選終了です!』



 司会の男性が、高らかに終わりを告げました。

 ということで、私とルーハ、シファーレさん、そして赤覆面を被った彼氏さんが無事に本戦出場となったのですが。



 ──反対側の広場では、ある番狂わせが起きていたのです。

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