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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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68・親切な荒くれ者

「ここが武術大会の受付場所なんですね」


「ギルドの受付嬢みたいなのいるから、多分そうだろ」


「あの忙しそうな女性ですね」


「外にもでかい建物あったろ。やっぱここで決まりだよ。そもそも王女様が嘘つくはずもない」


「勘違いならしそうですけどね。あの、王族とはとても思えない雑な性格なら」


「そこはまあ、否定できないな」


「でしょ?」



 王都の東区域。


 とてつもなく大きな石造りの建築物(たぶん試合会場でしょう)の前にある建物に入ると、机にかじりついて書類らしきものの数々とにらめっこしている女性が目に止まりました。

 リューヤが言うように、あの女性が大会のエントリー受付係なのでしょう。


 顔を隠すのがエントリー条件なので、リューヤは黒い布で頭と顔を隠し、目だけ露出させています。暗殺者みたい。


 私はいつもの角兜となっております。



 私とリューヤがまごまごしていると、横から声をかけられました。


「げっ、お前らはあの時の!」


 聞き覚えのある下品な声。


「うわ」


 聞きたくもない声のした方向を向くと、私がこないだ円盾ビンタで失神させたろくでなし貴族がいました。

 趣味の悪い仮面で顔の上半分を隠した、毛深いヒゲもじゃハゲ親父です。


「オゲボーンさんでしたっけ」


「オゲリッツだ! オゲリッツ・マヌー! こう見えて男爵家の血筋の者だ!」


 こう見えて……ってことは、世間からどう見られてるか、自覚はあるんですね。


 声を張り上げ大きく開けた口から、何本か歯が無くなっているのが見えました。


「ん? なんで俺の名を? お前らに自己紹介なんかしたか?」


「してはいないね。だが、そこらで聞いたらすぐに教えてもらったよ。おたくの評判をさ」


 悪評を察したのか、オゲリッツ氏が露骨に顔をしかめました。


「ケッ、その様子じゃロクな話を聞いてないようだな……まあいい。世間のつまらん雑魚どもに何と思われようが知ったこっちゃないからな。──ところでだ」


「何です?」


「聞くまでもないだろうが……ここに来たってことは、お前も大会に出るのか?」


「その通りですよ。我々二人とも出場します」


「その小僧もか?」


「はい」


 その途端、オゲリッツ氏の口元から笑いが消えました。


「やめとけ」


 先程までの粗暴な喋りから一変、どこか深刻さを帯びた声色へと変わりました。


「別にお前みたいな乱暴女なんぞがどうなろうと構わんが……そこの小僧まで巻き込まれるのは、気の毒ではあるからな。どうしてもというなら、好きにしたらいいがよ。だが命は一つだぜ?」


「何をおっしゃりたいのか今一つ掴めませんね」


「──ヤバいのが今回出場してる」


「へえ」


「俺もどこまでやれるか試したかったがな……アレとぶつかったら棄権するつもりだ。……ありゃ普通じゃねえ。数日前にここで乱闘騒ぎがあったが、腕に覚えのある武術家や戦士どもが、どいつもこいつも赤子の手をひねるみてえにやられちまった」


 それをやった当の本人は、自分から喧嘩を売ったわけではなかったので、注意こそされたものの特におとがめも無かったそうです。


「お聞きしたいのですが」


「なんだ」


「その、ヤバい方というのは、ハウリングタイガーの毛皮を羽織った大男ではありません?」


「! なんだ、知ってやがったのか!?」


「知ってるも何も、こっちはそいつの首が目当てなんでね」


 といってもこの大会、殺しは御法度なのでそこまではやれませんが。

 なので瀕死くらいにまで痛め付けようかなと。


「何だと……………………ま、まさか、本気……しょ、正気か?」


 そこまで言うとオゲリッツ氏は絶句してしまいました。



 やめといたほうが身のためだとオゲリッツ氏はリューヤに何度か言いましたが、無駄だと理解すると「なら好きにすんだな」と言い残し、どこかに行ってしまいました。


「変なところで親切なおっさんだったな」


「私のことは一切止めなかったけどね」


「ビンタ一発で人前で失神敗北させられた、その張本人だからなお前は。しかも歯抜け顔にまでされちまったときてる。完膚なきまでに大男にやられちまえとでも思ってんじゃないの」


「そのくらいでヘソ曲げなくてもいいのに」


「十分恨まれてもおかしくないぞ」


「でも殺さなかったじゃないですか」


「聖女の言うことかそれが」


「暗黒騎士だもん」



「……はい、クレアさんとルーハさんですね。では三日後に予選を行いますので、忘れずにここにお越し下さい」


 忙しすぎるのか顔にクマのできてる受付さん相手に、偽名で大会への登録を済ませました。

 もうやることないので、とりあえず私達は帰ることにします。三日後ですね。忘れないようにしないと。


「予定通りに事が進んでますね。言うことなしです」


「なんなら予選でやっちまえばもうトーナメント出なくて済むな」


「それはその時考えましょう」


 何なら優勝しても構いませんし、当初の予定通りにユーロペラ様が優勝できるようお膳立てしても良し。

 とにかく熊頭の大男さえボコボコにしてしまえば、後はその時の気分とノリで決めてしまって問題ありません。


 ただ、メデューサと名乗る女がどう動くのか。これが読みづらいというか、ぶっちゃけわからないですね。

 ただ、仲間の仇討ちにスィラシーシア様を狙った辺り、私達が熊頭を仕留めようものなら、こちらにも矛先が向くのは自明です。

 なので殺しません。

 大会も失格になりますからね。最悪、なってもいいんですけど。

 重傷を負わせられてズタボロになった熊頭の元に蛇女が姿を見せた時、二人まとめて無き者にしたいなと、そんな行き当たりばったりで進めていきます。市民や警備兵などを巻き込んで大事になった場合はユーロペラ様に揉み消してもらいましょう。


「不安しかないが代替案もない。これでいくしかないか」


「私達の機転がかなり重要になってきますね。いかに状況に応じた最善手を打てるかが全てですよ」


「どっしりとしたお前にそれができんのか?」


「誰がどっしりですか誰が。しばきますよ?」


「やめろ。俺まで歯抜けにする気か」



 さて、三日後までのんびり観光しながら待つとしますか。その間にまた王女様達が襲われなければ……ですがね。

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