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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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67・復讐は大会にて

「何があったと聞かれても……難解な経緯など、ほとんどないわ。唐突に襲われただけなのだから」


「怨恨か? お前のことだ、無意識に感情を逆撫でするようなことを、あちこちでサラリと抜かしたりしてるんじゃないか?」


「……失礼なことを仰らないで下さい。姫様は、そんな鈍感な方ではございません。意図的に正論を述べて、嫌がられてるだけです……」


「リサ、あなた弁護したいのか苦言を呈したいのかどっちなの?」



「和気あいあいですね」


「どこがだ」


 まだまだじゃれあいの範疇じゃないですか。



「……夜道を気ままにお散歩してたら、声をかけられて、振り向いたら呪いの塊みたいなのが飛んできたってことか」


「今思うと、あれは確かに蛇のようでしたわね。あの時は気にもしてなかったけれど」


「ケッ、私のお膝元でやってくれるねぇ」


 ただじゃ済まさないよと、ユーロペラ様は指をポキポキと鳴らします。

 お姫様のやる仕草とはとても思えません。

 それやると指が太くなるからやめたほうがいいらしいですけどね。リューヤ情報なのでどこまで正しいかは微妙。


「呪い使いの女がメデューサ、熊頭のやかましい大男がベルセルクだね。よし憶えた。見つけ次第ボコボコにして何もかも吐かせよう」


(……思考が荒くれ者のそれすぎる……)


 リューヤがぼそりと小声で私に言ってきました。


(でも一番確実で後腐れもないですよ)


(………………おかしいな、王女とか聖女ってもっとこう清楚な女性のはずでは……)


(清楚でしょ。どこからどう見ても聞いても)


(今年一番のきついジョークだな)


 無意識に両手が伸びてリューヤの顔を鷲掴みにしてしまいました。

 両の親指を口に突っ込み、いつでも左右に引き裂ける構えです。


「迂闊な真似は慎むべきよ。その大男のほうも、どんなスキルを隠し持ってるかわかったものではないわ。慎重に慎重を重ねるべきね」


「ンな悠長なことしてたら逃がしちまうぜ。チャチャっと捕まえねえと」


「……あの、そのことなのですが」


 王女ペアが議論し、双子やギルハが私を止める中、リマさんが挙手しました。


「そのやかましい大男というのは、もしかして、魔物の皮のマントとか肩からかけてませんでした?」


「魔物の皮のマント……それっぽいものは羽織ってた気もするけれど……よく覚えてないわね。呪いを飛ばしてきた方に気を取られていたから」


「……それなら、覚えてます」


「本当なの、リサ?」


「はい。あの赤と黄色の毛皮は……ハウリングタイガーのものと見て間違いないかと」


 ハウリングタイガーね。

 確かにそんな色合いでしたねあの魔物。

 岩でも砕くくらいの吠え声を武器にする、危険な虎型の魔物です。牙や爪も鋭く動きも機敏なので、中堅どころの冒険者パーティが総掛かりでやっと仕留めたりします。


 リューヤがこの魔物を仕留めた時は、吠え声を『隠匿』してびっくりさせたところを、もう一つのスキルで即死させていました。

 「あまり手間をかけると思わぬ怪我をするかもしれないしな」というのが理由です。

 武器が大したことないのもあるでしょうけどね。オリハルコン製の短剣がある今なら、適当にあしらいつつ切り刻んで倒すと思います。


「だとしたら間違いありません」


「どこで見たんですか?」


 私の問いに、リマさんはこう答えました。


「仮面武闘祭の参加希望者の中に、そんな大男がいたのです。布の袋を頭から被っていた、とにかくうるさい男でした」


「そんな奴いたのかよ」


「御自分の婚約解消がかかってるのに、どうして敵前視察しないんですか。いや、それは私がやればいいとして……何故視察の結果を聞いてくれないのか。不思議ですよ」


「いやー、どんな連中が集まったかなんて、やっぱ当日に知るべきだろ。その方がワクワクすっしよ。それに視察したって、わかるのなんて外見だけじゃん。なら聞かねーよ」


「それはそうですが……でも……」


 言ってることもわかりますが、それを抜きにしても楽天家ですね……普段からこれならリマさんも大変でしょう。


 あと、やっぱり婚約うんぬんの話はガチだったんですね。


「──リマさん。とてもいい話を聞かせてくれてありがとう。貴重な情報でしたわ」


「そうですか、夜の国の姫君にそう言っていただけて光栄です。視察した甲斐がありました」


「……それ、私へのイヤミかよ」


「そう取るということは、多少は彼女に対して引け目があるのね。あなたにしては意外だわ。もっと無神経だとばかり」


「なんだとコラ」


 荒れてきた荒れてきた。荒れてきましたぞ。



「……ユーラのがさつさはともかくとして、このまま黙っているのも、リュルドガルの王女としての沽券に関わります」


「では、どうなさるのですか、姫様」


「私も大会に出ます」


「えっ!!?」


「というのは冗談です」


 思わず立ち上がろうとしたナーゼリサさんが椅子からずっこけました。


「日の当たる中、闘技場で何試合もやるのもわずらわしいですし、万一、仮面なり覆面なりが取れたら面倒なことになりますからね」


「だったらどーすんだよ、シア」


「代理を立てます。わたくしとリサの二人分ね」


 スィラシーシア様の真紅の瞳が、私と、その次にリューヤを見つめると、この場にいる他の者達もそれに倣いました。


「あらら」


「そうきたか」


 私とリューヤは、お互い苦笑して顔を見合わせたのでした。

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