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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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61・そういえばそんな催しありましたね

「おお軽い軽い!」


 炎獣の杖の先端。

 いつものように『防壁』の魔法を重ねがけした『竜叩き』を作ると、あの不安定さが嘘のようにしっかりしたものになりました。

 以前は重いものを無理やり掲げているに等しい使いづらさでしたが、その苦労から私の両腕は解き放たれています。


 そうなると、安定した姿勢から腰の入った打撃も放てるわけで。



パァン!!!



 心地よい快音が我が家の裏庭に響きました。


 オリハルコン武器の試し斬りに使われた岩に、サロメが魔法をかけて造り出した石人形──ストーンゴーレム。

 身長三メートルほどのそれが鈍重な動きで殴りかかってきたのを蝶のようにかわし、胴体にバーゲストの顔(にかけられた多重防壁)を叩き込むと、爽快な音を立てて粉々に飛散しました。

 後に残るのは、肘から先の両腕と膝から下の両足のみ。

 ただ振り回してぶつけるのではなく、グッと力を込めて一撃入れるのとでここまでの違いが出るとは思いませんでしたね。これまでなら胴が弾けるくらいで済んでいたでしょう。


「即死に近い一撃が即死の一撃になっただけだろ。過剰すぎるぞクリス」


「これで即死しない敵と今後相見(あいまみ)えるかもしれないでしょ。破壊力は上げておくに越したことはないわ」


「上がったのは防御力のはずなんだがな」


「グチグチ細かいことはいいっこなし。あなたの悪い癖ですよ、リューヤ」


 無垢なる黄金の恩恵。実に素晴らしいものです。

 私の防御魔法にこの金属による増強が合わされば、この世のあらゆる固いものを苦もなく壊せるかもしれませんね。


「ところでクリスちゃん」


「どうしました?」


「杖の性能向上でウキウキしてるのもいいけど、剣の腕はどうなったの? 仮にも、その……あなたがそう言い張るからそういうことにしといてあげるけど……あなた、暗黒騎士なんでしょう?」


 サロメが痛いところを突いてきました。

 途中、妙に歯切れが悪かったですが、そこは気にすることもありますまい。


「如何せん、どうも筋が悪いみたいで」





 私とて何もしてない訳でもないのです。

 暇な時に(我々は基本暇です)双子に何度か指南していただいたのですが、やはり上手くいきません。

 どうしても動作がバランスを欠いた不恰好なものになるのです。


「こうかな?」


 あっという間にコツを掴んだギルハがレイピアを華麗に扱っています。

 瞬時に間合いを詰める踏み込みからの必殺の突き。剣の道において素人以下な私でさえ、それが実に堂に入ったものだとわかります。

 まあ、私は杖の扱いも実戦もそれなりにこなしてるので、武器の扱いにおいて完全な素人ではないんですけど。


「いいね!」


「やるじゃん!」


 お気楽のんびりな双子も、ギルハの思いがけない優秀さに、興奮を抑えられないようです。

 私にあれこれ教えていたときの悲痛な様子などドブに放り投げたような晴れやかさで熱心に身ごなし等を伝授しています。私のほうなど見向きもしません。

 芽吹かない種に与える水はないと言わんばかりのその対応にカチンときましたが、さんざん水を無駄にしている身の上で怒っても逆にお説教されそうなのでダンマリするしかない悲しさ。


 おっかしーなー。

 暗黒騎士なのにな私ー。


 めげずに素振りを繰り返すしかできない私でした。

 その素振りも「クワで畑耕してるみたい」と酷い言われっぷりでもうやめたやめたこんなもん元々やりたくなかったんですもの。



「双子から聞いたぞ。わざとかってくらい褒める点がないってな」


「わざとだったらどれだけ良かったかしらね」


 思いっきりスネて木剣を放り投げ、地面に転がりながら干し肉を齧りだした私のところにリューヤがきました。


「ギルハはかなり筋がいいみたいだな。砂が水を吸うようにみるみる学んで上達したって言ってたよ」


「知ってますよ。間近でこれでもかというほど見せつけられましたから」


「ンな言い方すんなよ。あいつだって、別にお前に嫌がらせしたかったわけでもないさ。だろ?」


「…………」


 答える気にもならなくて干し肉カジカジしました。

 そりゃ私も馬鹿じゃないからそれくらい百も承知ですよ。でも感情が納得できるかというとそれはまた別問題なの。

 四苦八苦しながら成果が微塵もない横で才能の開花を見せつけられたら、私みたいな奥ゆかしい美人でも憤りのあまり奇声のひとつふたつ上げるってもんですよ。


「木剣ぶん投げて、仰け反りながら鶏みたいに叫んだって? こっちにも聞こえたよ。魔物の遠吠えにしてはやけに近いなと思ったが、まさかこんな近場に犯人がいたとはな」


「これまで積もった細かなイライラがついに爆発しちゃいましてね」


「村の連中が怖がるからやめとけ。ただでさえ怪しげな呪い師だと思われてるんだからさ。わめきたいなら森の奥にでも行ってやれよ」


「以後、そうします」



「お前の腕前や奇声の話はそのくらいにしてだ。あの件はやはり関わらないのか?」


「あの件?」


 何のことでしょうか。


「ほら、この国の、顔隠して出る大会」


「……そういえば、そんなものもありましたね。仮面武闘祭でしたか。まだ始まってないんですか?」


「予定外のトラブルがあったらしくてな。来週始まるはずが、さらに一週ほど伸びたらしい」


「責任者は牢獄行きかしら」


「そこまでの重い罪に問われたりはしないさ。多少肩身は狭くなるとは思うがね。……で、どうする?」


「目的はほぼ達成してますからね。あのガサツなお姫様の機嫌取りすることもないですよ。やはり出場は遠慮します」


「それならそれでさ、見に行かないか?」


「…………全員の意見を聞いてからですね」


 どうせ満場一致で見物することに決まりそうですが、一応ね。

 独断はよろしくないもの。どこぞの馬鹿王子じゃないんですから。総意を大事にしないとね。

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