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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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52・幻の金属の欠片

「…………なにこれ」


 サロメが、その飛び抜けた美貌に怪訝さをあらわにしました。


「オリハルコンですが、何か」


「それはわかるわ。この力強く輝く赤銅色はまさにオリハルコンだもの。私の記憶に狂いがなければだけど」


「では何が気に入らないのです?」


「なんで砕けてるの」


 ロロ村の自宅にて。


 テーブルの上に広げられた、残骸のような金属の破片。

 コロッセイアとリュルドガル。

 二国の王族から受けた依頼、その報酬です。

 その中でも大きめの破片を手に取ったサロメが、胡乱な瞳を、私とそれに交互に向けています。

 他の者には目もくれません。

 何やったお前。そんな目付きです。

 サロメは完全に私が何かしたのだと確信しています。でなければそんな目はしませんからね。

 そしてその確信は事実そのものです。


「うっかり叩いて砕きました」


「オリハルコンを?」


「オリハルコンを」


「本当に?」


「本当に」


 ……沈黙。


 奇妙な静けさが、居間を支配しました。



 サロメが困惑するのも無理はないです。


 もっとまとまった塊で持ち帰ってくると思っていたのでしょう。

 私達もそのつもりでしたし、雇い主の方々もきっとそうだったはずです。


 しかしこうなりました。

 私のミスで。


 それで、いざ分け前を分配することになった時、やはりというかそうすべきというか、私から自発的に申し出たのです。

 「大きいものをそちらで優先的に頂いてください。こちらは残りで結構です」と。


 ユーロペラさんとリマさんは「そこまで気に病まなくてもいい」と言ってましたが、吸血鬼のお二人は「そんなの当然でしょう」と口にはしませんでしたが、目が雄弁に語っていました。

 でも、そこそこ大きい破片も貰えたのでラッキーでした。

 うっかり全身全霊の力を込めて粉微塵にしなくてよかった。本当に、本っっっ当によかったです。

 やはり何事も加減は大事なのだと学びました。

 学びに遅いなんてことはありません。また一つ私は賢くなったのです。



「その結果がこの余り物なわけね」


「使い物になりませんか?」


 やっぱり金にすべきだったでしょうか。


「一度溶かして塊にすれば、まあどうにかなる……とは思うけど、実際にやってみないことには……」


「溶かせるんですか? 伝説の金属を?」


「こんなバラバラに打ち砕いておいてよく言うわね。そのほうが信じがたいわよ」


 叩けば大抵の物は壊れる定めなんですよ。


「加工できるのなら、よろしければ、私のこの髑髏の魔剣を超える、真なる髑髏の魔剣を製作していただきたいのですが」


「ただの安物の数打ち品よねそれ」


「髑髏の魔剣です」


 サロメが感情の消え失せた顔をリューヤに向けました。

 表情の抜け落ちた顔のリューヤが、目を伏せ、首を左右に振ります。

 双子の少年と針使いの少年は、静かに、ただ優しい目をして微笑んでいました。


「……うん、ならそれでいいわ。それの本物を作ればいいのね」


「これも本物ですよ」


「他に誰か、何かリクエストはあるかしら」


 私のほうを見ようともしません。

 私の魔剣をけなしたことを心中で恥じているのでしょう。だからこちらをまともに見れないのです。

 魔神にも後ろめたさというものがあるんですね。意外でした。


「あ、んじゃ俺短剣欲しいね」


「ねえミオ、僕らも新調してもらおっか」


「そうだねピオ、新品の剣をもらおっか」


「リューヤくんと双子くんはそれでいいとして、ギルハちゃんはどうするの?」


 彼だけちゃん付けなんですね。お気に入りのようです。

 飼い主が飼い犬を可愛がるのに近いのかも。

 でも、こんな強い魔神に気に入られるって、頼りになるけど同時に怖いものもありますよね。痛し痒しです。


「消耗品をそんな貴重なもので作ってもらうのもね。今回はパスしとくよ。次回あるかわかんないけど」


「遠慮しなくていいのよ?」


「それあなたじゃなくて私が言う台詞じゃありません?」


「あははっ、クリスったら、聖女様がそんな細かいこと気にしちゃ駄目よ」


「……まあ別にいいですけどね。あと聖女じゃなくて元聖女です」



 ──結局、ギルハは護身用にとレイピアを一本頼みました。



 それからさらに二日後。


 いよいよ武器製作にサロメ主導の元、着手します。

 彼女だけに全てを委ねてダラダラするのも怠け癖ついちゃいそうなので、全員参加しました。面白そうだからという理由もありますがね。


「それでどうやるんですか?」


 頭に手拭いを巻いて革の前掛けをつけ、私もそれなりにやる気をひねり出しています。


「鍛冶なんて初めての経験なので右も左もわかりませんよ。ぜひご教授願います」


「私もそうよ」


「へ?」


 サロメのそのさらりとした発言に、困惑が我々の間に走りました。


「武具を司る魔神じゃあるまいし、鍛冶なんてやったことあるわけないでしょ。私も手探りよ」


「え、でも、できそうな(むね)の発言をしてましたよね」


「要は形を整えたらいいだけだから、そのくらい、やればできるかなって」


 急に肩がずっしり重くなりました。


「……金貨の山を貰うべきだったな」


 リューヤが弱音を吐きましたが聞こえません。聞きたくありません。ただでさえ肩が重いのに泣き言なんか聞いてられません。


 まだです。

 まだ始まってもいません。

 始める方法すら誰も知らないのですから。


「そうね……わからない者同士で顔を突き合わせていても埒が明かないわ。論より証拠よ。やってみましょ」


「具体的な見通しはあるのですか?」


「んー、やり方としては、熱して溶かして型に流して」


「ふんふん、わかるよ」


「うんうん、妥当だね」


「冷えて固まったら、また熱して叩いて伸ばして冷やして……でいいんじゃない?」


「おお、それっぽくはありますね」


「でしょう? ぬふふ、長生きしてればこれくらいの知識はあるのよ」



「……ただのぶっつけ本番だこれ…………短剣、諦めたほうがいいな」


「リューヤさん、後で武具屋に行くなら一声かけて下さいね。僕もレイピア買いますから」



 さあ、既に白旗上げてる者もいますが、果たしてどうなるのか。

 次回、『魔神の魔力は万能です』、どうぞお楽しみに!

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