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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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50/140

50・オリハルコンは星屑みたいにキラキラしてました

「わあ……」


 グラ第二坑道の底。


 獣魔神の信者たちによって広々と掘り抜かれた空間の奥。

 そこに鎮座したオリハルコンの塊。

 幻の金属と呼ばれたそれが、私の目の前に実物として存在しています。


「綺麗ですね。もっと武骨な色合いかと」


 大人が両手で抱えることのできる(そのまま持ち上げるのは無理でしょうが)大きさの金属塊は、私が作り出した光球に照らされ、赤銅色に輝いています。


「見惚れてるのも結構だが、そろそろ呪いを解いたらどうだ?」


 助手呪い師のルーハがそばに来ていました。

 周りにギリ聞こえない程度に抑えた小声で急かしてきます。


「言われなくてもわかってますって」


「どうだか」


「なんだと」


 思い出したように時々嫌味なことを抜かしやがりますでございますねこの野郎。

 やること終わってから『円盾』をかけた両手で顔でも挟み込んでくれようかしら。



◆◆◆



 ところで、なぜいきなりここに私達がいるのか。なぜ急に過程が飛んだのか。

 身も蓋もない事を言うなら、『何も起きなかった』からです。


 何日も寝食を共にして、それなりに打ち解けて会話が弾んだり。

 目的地に着く前日にゴブリンの群れに襲われたので適当に全滅させて。

 坑道入口に双子が真っ先に近づいてナーゼリサさんがかけてあった魔法の影響をもろに食らい、その場からダッシュでどっか行ったり。

 坑道の奥へと下っていったら「~なんたら様の仇がどうたら~」って怒ってる獣人達に襲われたので適当に全滅させて。


 特筆するほどのことではないので割愛した、それだけです。

 世間話や愚かな死や無駄死になんて、そこらを見渡せばいくらでも転がってるのでね。価値のない事柄をいちいち語るのも面倒だしつまらないにも程がありますから。



◆◆◆



「……それでは始めます」


 やることは変わりません。命を触媒にした呪いを解くとかできる気しないのでいつもの結界です。それしか取り柄ないもん。


「おおっ!?」


「これは……!」


 オリハルコンを半円形の結界で囲みました。

 上から透明なボウルをカポッと乗せた感じを想像してもらえればいいでしょう。私とルーハと狼使いのおじさんをワイバーンの脅威から守ったあれです。

 ただ、今回は物理防御に秀でた『不落』ではありません。外部からの悪しきものを弾き、内部を清め浄化する『聖域』にしています。この広い空間そのものを対象にすると吸血鬼の方々が大変なことになりそうですからね。このくらいでいいでしょ。

 なんか王女様たちがびっくりしてますが、呪い師が結界張れることへの驚きでしょう。多分。

 

「……なぁ、シア。あの丸っこい魔法の壁、そういうの詳しくない私の目から見ても、密度やべーように見えんだけど」


「それは慧眼ね。わたくしの見立てでは、あれほどの頑強な結界を張れる者など、大陸──いえ、この世に三人いるかどうかではないかと」


「本当に呪い師なのかよ。……ま、まあ、外見は申し分ないけどさ」


「……あの結界は、聖なる力の満たされた空間を作り出していますわね。明らかに、呪術とは真逆の効力。つまり、呪い師というのは、騙りでしょうね」


「でもよ、なんでそんな嘘を。意味ねえだろ。誰が得するんだよそれ」


「そうですわね…………素性を知られたくない、のではなくて?」


「なんでだよ」


「恐らく、止むに止まれぬ事情でもあるのでしょう」


 なんかボソボソ言ってますがこっちはこれからどうしていいか模索まっしぐらなので気にしてる場合ではないです。


「……勘づかれたか?」


「うん、あり得るね……」


「うん、あり得そう……」


 助手と見習い達もブツクサ言ってますがこっちは(略)



「なんかイマイチですね」


 結界で覆ってはみましたが、よほど呪いが強いのか、浄化が遅々として進みません。

 本気で祈れば余裕でしょうが、それをやると私が呪い師なんかじゃないとバレて困ったことになります。理由はともかく、王族に対する虚偽になりますからね。かなりの大罪です。


 かといって聖女だと知られるのも教えるのも、後々ややこしいことになりそうで……。


 ただ利用されるだけでもわずらわしいのに、政争の具や外交の材料にされるなんて嫌すぎます。やることやるから報酬だけください。

(注・クリスティラはまだバレていないだろうと踏んでいますが王女二人はほぼ察しています)


「いつになったら終わるのかしら」


 ほっとけばそのうち呪いも尽き果てるでしょうけど、このダラダラ模様では早くても数ヶ月はかかる見込みです。

 それを後方にいらっしゃる方々に伝えたら「なにっ」「待ってられるかよあーっ」とキレられかねないので言えません。一国の姫君二人がそんな暇なわけがないのです。

 なら今は帰って数ヶ月後にまた来たらいいかと言うと、それも無理でしょう。

 私が嘘をついてる可能性があるのだから。

 素直に信じて待っていたら丸ごと持ち去って行方をくらました──およそ考えられる最悪のケースです。


 だから今この場で何とかしないといけないけど名案が浮かばない。困った。これは困りました。

 力や結界で解決できない事は苦手なんですよ、私って。

 どうしたらいいの。



 …………いっそ力ずくで…………。



 いや、しかし……でもこのままだとただ観賞しただけ……だからといってそれは無茶…………なら他に何が……でも……やるしかない、やるしかないんだ……もっとよく考え……無理……無理とか簡単に言うな……でも無理……また言ったな……………………



 よし。

 叩こう。


 私は結界の中に入り、呪いや魔法などを弾く防御魔法でも強力な部類にあたる『聖門』を何枚も杖の先端に重ねがけして、


「おっとと」


 ふらふらしながらも、何とかオリハルコンをぶん殴りました。





 砕けました。


 オリハルコンが。


 大きないくつもの破片と、小さないくつもの破片。

 それと無数の細かい欠片となって。



 砕けた細かいオリハルコンは、星屑みたいにキラキラしてました。

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