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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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49/140

49・納得は全てに優先するのですわ

「……………………」


「……………………」


 沈黙。

 ユーロペラ様とお付きのリマさんは、何も語らずに、じっと私を見ています。

 この完全武装した姿に威圧されてるのでしょうか?


「……差し支えなければ、一つお聞きしていいかしら」


 奈落の御子たる私の脅威に物怖じせず、紫の日傘を差したスィラシーシア様が問いかけてきました。


 やはり吸血鬼だけあって動じないんだなと感心してましたが、背後に控えるナーゼリサさん(こちらは黒い日傘)は口開けてぽかんとしてたので、どうも個人差があるだけのようです。

 ナーゼリサさんが吸血鬼にしては感情の揺れ幅が大きいだけかもしれませんがね。こればかりは他に比較対象を知らないので何とも。吸血鬼の知人なんていませんもの。


 あと日傘くらいでいいんですね日光対策。


「なんでしょう?」


「その被り物のことです」


「これですか。お目が高い。実はこの角兜はかの魔神の角をへし折りそのままくっ付けてある一品なのですよ」


「なるほど、素晴らしいですわね。その割には、魔力どころか魔力の残滓も感じられませんが」


 痛いところを突いてきますね。


「そこは目をつぶっていただきたい」


「いいでしょう。それについては本題ではありませんので。わたくしが訊ねたいのは、なぜそのような奇怪な姿をしてるのかということです」


「正装です」


 キッパリ言いました。


 炎獣の杖。

 漆黒のマント。

 髑髏の魔剣。

 そして魔神の角兜。


 全く隙のないコーディネートです。天魔国の貴族が開いている夜会に出られそうな完璧さに、我ながら惚れ惚れしますね。

 とても安物ばかりとは思えません。


 この姿を暗黒騎士ではなく呪い師だと偽らねばならないのが唯一の欠点であり、そこが何とも歯がゆいですが、そのくらいはやむを得ないでしょう。

 どうあっても天才呪い師ティアラとして、この件が終わるまで過ごさねばならないのです。

 信頼が置けるかどうかも怪しい相手に何もかもさらけ出すのは悪手ですからね。


 他の面子にも、いつものように必要最低限の変装と偽名を使わせます。

 相棒のリューヤは、フードを深くかぶった助手呪い師のルーハ。

 双子は仮面つけた見習いで、兄のピオがアルファで弟のミオがベータという偽名になっています。この一回こっきりと思われていた死に設定がまた脚光を浴びるとは。


 さて、青銅色の王女様の返答はいかに。


「そうですか。わかりました」


 わかってもらえました。言ってみるものです。


 お付きのナーゼリサさんは「わ……わかったのですか……!?」と驚愕していましたが当の本人がそうおっしゃってるからヨシ!


「疑問も解決しましたし、では出発しましょう。目的の廃坑はここから徒歩で三日ほどの場所にあります」


「案外近いんですね。んじゃ行きますか」


 胸のつかえも取れたし出発進行です。


「……そんな軽く済ませていいのかよ、アレ」


「止めときましょうユーラ様。あまり触れないほうがいい予感がします。私の勘は当たるとご存知でしょう?」


「それくらいお前の勘に頼るまでもなくわかるって」


 こちらの姫君はまだ腑に落ちないのか、お付きとゴチャゴチャ言ってますがもういいです。

 後は時間が解決してくれると信じて。





 グラ第二坑道跡。

 かつての有名な金鉱の亡骸。


 それが我々の目的地です。



 第一はあらかたユーロペラ様が平らげた後で、ねぐらにしていた魔物もほぼ全滅させたとのこと。

 今行ってもお化けコウモリが数匹いるくらいが関の山だろうと言われました。


「どいつもこいつも手当たり次第にぶちのめして肉片に変えてやったからな。あれならゾンビ化したくてもできないだろうぜ」


 ユーロペラ様は歩きながら楽しげに腕を振っています。

 正面への突き、突き上げるような拳、威力より速さを優先した連打、振り下ろすような拳……

 噂通り、殴るのがやはり得意で大好きなようですね。腕の動かし方に、よどみや迷いがありません。


「ガサツですわね」


「勇敢と言いやがれ」


 また始まりそうなので、口喧嘩を火種のうちに無理やり消しましょうか。


「そうですか。それはまた豪快なことですね。やはり魔物だと手加減しなくていいから、嬉しくてついはしゃいでしまう気持ちは私もわかりますよ」


「わかるかい? ははっ、そうかそうか、そりゃいいね。もしかしてアンタ、意外と荒事がイケる口だったりするとか?」


 ちょっぴり同意しただけで、もう機嫌が良くなりました。

 恐るべきチョロさです。比較的乗せられやすい私にそう思わせるのですから不安すら感じます。悪い男に引っ掛からなければいいのですが。


「ええ、こう、杖でバシッバシッと」


「はぁ……驚きだね。呪い師っていうから、薄っ気味悪い呪文唱えるくらいしかできないかと思ったけどさ、なかなか見た目によら…………いや、よるわ思いっきり」


「んふふ、そう褒められると照れますね」


「褒めたっけ?」


「え?」


「え?」


「なんだこの噛み合ったり合わなかったりの会話は」


 我慢しきれなかったのか、リューヤがついに表向きの立場を忘れて参戦してきました。

 悪かったですねやり取りがおかしくて。



 ……さて、話を戻しましょう。


 第二は言うまでもなくこれから向かう場所であり、そこそこの数の魔物と、さらに奥に怪しい一団がはびこっていましたが、この方々に排除されました。

 誰も入らないとは思いますが、念のため入口付近に困惑の霧という魔法をかけてあるそうです。かけた本人であるナーゼリサさんいわく、近づいたら頭がぼんやりしてきて、ついその場を離れたくなるのだとか。



 第三は崩落しており、中に足を踏み入れるには瓦礫の撤去作業だけでなく坑道の補強もせねばならず、かなりの時間を有するらしいので論外です。

 そこまでして探索する意味も得もありませんからね。やっと入れたけど金が少しだけ含まれた鉱石数個拾って終わりでは割が合いません。


「ところで、その一団ってどんな奴らか覚えてらっしゃいます?」


「なんでそんなこと知りたがるんだ?」


「いえ、ただなんとなく」


 知ってる連中かもしれないので。


「そうですわね……」





「……という者達でしたね」


「はぁ、なるほど。そのような怪しげな一団がいたとは。初耳です」


 全然知らない連中でした。なんなの獣魔神の使徒って。


「なんでもよ、魔獣の王だか神みたいな存在を崇めてるらしくてよ。だからあの坑道、獣系の魔物ばかりいたんだな。きっとあいつらが番人代わりにしてたんだろうさ」


「北の獣人国でちょっとした問題になっていると聞き及んでいますわ。あの国は、大地の女神テレセイトを信奉しているのですが、過激な思想にのめり込んでいる一部の人々が、その獣魔神とやらの信者になってきているとか。まだ内乱には程遠いようですけど……」


「あの、過激な思想とはどういったものなのでしょうか」


「他種族を排除や支配しようというものです。多岐に渡るように思われますが、この場合、対象にされてるのは主にあなた方人間ですわね。理由はおわかりでしょう?」


「あー、あれかぁ……」


 ユーロペラ様が頭をポリポリかいて顔をしかめました。


「獣人狩りですね」


「昔はあっちこっちの国で行われていたそうだからなぁ。今はそんなこと無くなったけどよ。……裏じゃどうだかわからないが」


「その恨みを過去の出来事としてしまうのではなく、恨みのまま根深く現代まで引き継いでるのが、その思想に染まってる方々なのです」


 いわゆる負の遺産ですね。


「オリハルコンに呪いかけやがった野郎も、頭が虎そのものだったぜ。その話が確かなら、こっちで信者増やそうとでも思ったのかね」


「人間嫌いなのに人間の信者を増やすのですか」


「そこが問題でよ。あの野郎、信じられないことに、私らが侵入したまさにその時、人間を獣人化させてやがったんだ。たぶん神の力でも借りたんだろうさ。ああ、もしかしたら、アイツ本人も元人間だったのかもしれねえ」


「偶然潰せたのは幸いでしたわね。夜の国にまで変な悪影響が及んでほしくありませんもの。我が祖国にも、人間を嫌ったり見下したりする者が少なからずいますから……まあ、獣になるのはもっと嫌でしょうけどね」



 何気なく聞いた話が、思いの外、危ないものを含んでいました。

 どうもこの大陸がきな臭いことになっているようです。

 あのヌァカタ神といい獣魔神といい、突如そのような神がどこから現れたのか。


 ──それ言ったらうちのサロメもそうなんですけどね。何で宝箱に頭だけで入ってたんでしょう彼女。

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