48・信じるか否か
「──で、引き受けたんだ」
「引き受けました」
だいたいの日程や依頼額などを話し合い、王女と王女が納得して帰った後、リューヤ達に依頼内容について一通り語りました。
そっちの方は、今回の賭けは無効としてお金も払い戻しとなったようです。
ただ、全額とはいかず、少しは胴元の手元に残ったみたいですね。手数料くらいは寄越せという彼の要求が通った形です。
こうしてルールというのは整備されていくのですね。まさに社会の縮図。
「今に始まったことじゃねーけどよ……また後先考えないことしたもんだなクリス。王族相手だと口約束でも反古にするのは厳しいぞ。そんな意味だと思わなかった、知らなかった、が通る世界の住人じゃねえからな奴らは」
「それは重々わかってます。ですが、聞いたらもう手を引くことのできない内容でしたからね。乗り気じゃないそぶりを見せても危なかったかも」
ユーロペラ様はあのカラっとした気性からして、そこまで非情に徹するつもりはないかもしれませんが、スィラシーシア様はね……。
ついさっきまで和やかに談笑していた相手ですら、都合が変わると、顔色一つ変えず普通に、何の感情もなく切り捨てそうな方に思えます。
……我ながら、吸血鬼という種に対する偏見が過分に含まれてる気もしますが……それを抜きにしても冷淡な判断を下しそうで、距離置きたいですね。
「あー、情報漏れを防ぐために口を塞がれるってことかぁ。そこまで…………まあ、お宝がお宝だしな。やっても、おかしくはないか……」
腕を組み、リューヤが困ったような顔で天を仰ぎました。
「難しいとこだな」
「一介の怪しげな呪い師ごとき、消してもさして問題にならない……。ねえリューヤ、そう思われていても不思議ではないのではなくて?」
「難色示したり、断るようなら殺せばよし。本当に解呪を成し遂げてくれたなら、それでよし、か」
「ただ、話が話だけに信憑性がないから、そこまで情報漏れの対策を徹底する気なのかは、わからなかったわ」
廃坑の奥に凄い貴重な金属が一抱えあったなんて、どこの誰ともわからない呪い師が言ったところでね。
良くて詐欺と思われるのがオチです。
「むしろ、お前が依頼を断っておきながら、オリハルコンをお先にこっそり拝借する可能性を潰したいって線のほうが、有り得そうではある」
「詳しい場所までは聞いてませんけど、そんなの、しらみ潰しに探せばいいだけですからね。廃坑なんて無数にあるものじゃないですから」
「……引き受けたお前が正しいわ、こりゃ。断ってたらバトル開始してたかもしれん」
その場合こちらも死人が出たかもしれませんが、あちらは誰も助からなかったでしょうね。
そして王族殺害という特大級の犯罪やらかした私達は生死を問わず賞金がかけられると。ひどい。
──つまりこの依頼、受けるしかなかったのです。
こんな拒否権ない頼み事を断りづらいやり方で押しつけてくるなんて、偉い人ってこれだから困りますよね。
あんまり追い詰められるとエターニア飛び出した時みたいに、また何かもどうでもよくなっちゃいそう。うおおお鎮まれ私の怒りと無責任さ。
「あら、でもそれを言ったら、快く依頼を受けて油断させたところを、速攻で廃坑にレッツゴーするって線もあるんじゃなくて?」
サロメも話に加わってきました。
「そりゃそうさ。だからそうならないよう、見張りくらいつけてるだろうね。と俺は思う」
「ふーん……………………あ、いるわ」
サロメが斜め上の方向に目をやって、何かを感じ取っているようです。猫みたいですね。
「何がいるんです?」
「カラス。それと、別の場所に小さな人形も。なるほど、こいつらが監視というわけかしら」
「使い魔と魔道具か。やはり王族だな。抜け目がないぜ」
「潰しちゃおっか?」
「待って待って」
さらりと言ってきたので慌てて止めました。
サロメの性格からしてこちらの返答聞く前にやりそうだったので。
「駄目ですよ。そんなことしたら一瞬で関係が最悪化しちゃいます。見張られてることさえわかれば、それで結構。あの方々を出し抜くつもりは毛頭ありませんからね」
「ならいいけど。潰したくなったらいつでも言ってよ」
「わかりました。その時は遠慮なく頼みますね」
監視の目があるのはあまり気分的にはよろしくないですが、そこは目をつぶりましょう。
着替えやトイレまで覗かれたら石くらいぶつけてしまいそうですが。
依頼人である王女様とそのお付きさん達はベーンウェルの宿(お高いやつ)に宿泊するとのことでした。
いちいち王宮まで戻ってられませんものね。
ましてや吸血鬼の姫君はお忍びでここまで来ているのです。
他国の王族が秘密裏に来訪して、その国の王族と廃坑探検してたら、オリハルコンとかいう金属見つけて二人で着服しようと目論む。
問題のある話です。
かなり問題のある話です。
とんでもなく問題のある話です。
(逃れようがない成り行きとはいえ、相当まずい件に一枚噛んでしまいましたわね)
もし何もかも白日に晒されたら私が全ての責任を被らされるかも。
──もしかして、それすら込みで私に白羽の矢が立ったのかも知れません。
後腐れのないように、いなくなろうが誰も困らない者として、万が一の場合の生贄に。
「廃坑かぁ」
「廃坑ねぇ」
「別に興味はないけど~~、オリハルコンってのは見てみたいね、ピオ」
「別にどうでもいいけど~~、オリハルコンってのは触ってみたいね、ミオ」
双子もワクワクしてるようです。
「あなたはどうするの、ギルハ。私は穴ぐらに潜るのヤだから、ここに残るけどー?」
「僕はパスかな。珍しい金属とか金鉱跡とか、どうにも気が乗らないね」
囚われの針使いは行きたくないようですね。サロメも乗り気ではないみたいなので、二人で仲良く私達の帰りを待っててもらいましょう。
これでメンバーが決まりました。
私が解呪役。リューヤと双子が私の護衛役。サロメとギルハがお留守番。
サロメに至っては、私が口封じされた際の報復役も担ってもらう予定です。
そして翌日。
昨日唐突に来た四人が今日予定通り来て、計八人で件の廃坑──グラ第二坑道跡へと向かうことになったのです。
高貴な方々に雇われた呪い師ティアラと、その助手達として。
なので久しぶりに角兜も被りました。これがないとしっくりきませんからね。周りはいい顔しませんが知ったこっちゃありません。




