表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/141

46・ゆったりのんびり無理でした

 私。

 相棒。

 居候兄弟。

 居候魔神。

 居候魔神の奴隷。


 明らかにおかしいものが混じってはいますが、ようやく、念願のスローライフが始まろうとしています。

 長かった。



 駄目な親から放逐されて孤児院生活。

 独り立ちして冒険者を初めてリューヤと出会い。

 名前が売れ始めた辺りで聖女就任。

 冒険者時代のほうがマシだった窮屈な生活。

 聖女の地位剥奪からの国外逃亡。


 そして紆余曲折の末に、隣国に家を構えることができました。

 ついに静かな暮らしが今ここに。



「いつまで続くかな……さぁ、張った張った」


「んーとね……一ヶ月!」


「そーだね……二ヶ月!」


「ウフフ、まだまだ青いわね二人とも。そんなに長持ちするわけないでしょ。三週間よ三週間」


「じゃあ僕は二週間で」


 私以外の全員が、平穏がいつ壊れるかという不快極まりない賭け(リューヤ胴元)をしているのが気に入りませんがね。


 マジで気に入りません。


 私がそんな不幸な巡り合わせの元に生まれているとでもと言われたら否定できないのがまた腹立たしい。おのれ。


 私だって好きでトラブルに遭遇してるんじゃないんですよ。

 なんか私の運命だけ壊れてるんじゃないですかね。引きがおかしいでしょ。





 三日後。


 面倒なことになりました。

 ……人間ごときが天の定めた運命に文句つけるなってことでしょうか。それにしたって一週間持たず厄介事とか、少しは加減したらどうですかね。


「じゃあ全員かすりもせず外したから親の総取りで」


「「「「オイ」」」」


 あちらも一触即発のようです。

 リューヤでもあの面子を相手取るのは厳しい気もしますがどうなるか。


 それより、まずはこちらの問題を片付けねばなりません。



「どうぞ。大したものではありませんが、お口に合えば幸いです」


 私の目の前にはこの国の王女がいます。



 ユーロペラ・サファ・コロッセイア。


 乱雑に伸ばした金髪と大きくぎょろりとしたブルーの瞳が猛獣めいた迫力を放っている、やんごとなきお方です。

 コロッセイア王国第一王女にして、王位継承権二位。

 こんな村の外れのお家にお邪魔するような身分ではありません。



 では何故いるのか。


 何故私の出した──リューヤが隠匿していた──菓子とお茶を味わっているのか。

 せいぜい良くて一口くらいしか食べないだろうと思っていたらバクバク食ってゴクゴク飲んでいます。

 毒殺とか気にしないんですかね。

 しかも熱い紅茶をあんな一気に飲むとか喉が大変なことになるのでは。

 でも、お付きらしい女性騎士の方は全く止めません。止めるそぶりすらないです。


 どうなってるのここの王族とその関係者。


「ユーロペラ様の消化器官は特別製ですので、問題ありません」


 顔に出ていたのか、お付きの方にそう言われました。


「……もっしゃもっしゃ……どこの店の物かわからないけど、悪くないねぇ」


 王女らしからぬ砕けた口調ですね。野性的な見た目に合ってて違和感がありません。


「そうですか。お気に召して何よりです」


「クスクス、何であろうと悪くない味なのではなくて? 『悪食の王女』様にとっては」


「お、何だ、挑発してんのか? 『不燃の王女』ともあろうものがよ」


「そう聞こえたのならそうかもしれませんわね。わたくし、あなたが苦手ですので」


「苦手ぇ? 虫酸が走るの間違いだろ?」


「それはわたくしではなく、あなたの本音ではないかしら?」


「だったらどうする?」


「さて、どうしましょうか」



「…………………………………………」


 黙り込んでる私をそっちのけで猛獣王女と舌戦繰り広げているのは、もう青白いなんてもんじゃない肌の色をした女性でした。



 スィラシーシア・ル・リュルドガル。


 『夜の国』と呼ばれる、実在すら疑わしい、謎に包まれた吸血鬼の王国・リュルドガル。

 銀細工のような長くしなやかな髪に、紅玉をはめ込んであるような瞳、青銅色の肌を持つこの女性こそ、次期女王としてリュルドガルの頂点に君臨することが約束された存在なのだそうです。

 つまりこちらもやんごとなきお方となります。


 そんなことよりお肌が凄い。


 吸血鬼ってこんな色なんですね。初めて知りました。

 でも、この方のお付きさんは普通に青白い死人の色合いなので、きっと王族だから特別なのでしょう。

 あまりじろじろ見ると怒られそうなのでやめますか。


「……ふふふ、この高貴な血色こそ、始祖の血を受け継いだ何よりの証、なのですよ……」


 たどたどしい喋りで、吸血王女のお付きの方が説明してくれました。

 ここまで違うとほとんど別種族なんじゃないですかという疑問は呑み込み、その説明に納得しましたと、静かに頷いておきます。



 本題に入りましょう。


 なぜ反りの合わない王女さまが仲良く(さっきのやり取りを見るに、これを言うと確実に荒れるので言いません)私のところに来訪したのか。

 それは私が暗黒騎士だからではなく、もはや副業に近いことになってしまってる呪い師としての腕を見込んで来たのです。

 実際はただの聖女なのに。


 誰々に呪いをかけてくれとか言われても無理ですよ。やり方なんて知らないもの。

 解いてくれって頼みなら、解呪の魔法で何とでもしますけど……。


 それとお二人が揃ってやって来たのはたまたまらしいです。


 このロロ村の入口辺りで鉢合わせして険悪になったらしく、喧嘩別れに近い形で二手に別れたのち、我が家の前でまた鉢合わせしてまた険悪になったそうです。


 それを聞いた私が「深い縁がおありなんですね」と迂闊に言ってしまい、双方から、うっすら殺意すら感じられるほどのガンつけられました。失言でした。


 次から気をつけます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ