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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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45・これから

みんなの応援(ブクマと★)、待ってるぜ!

 ついに因縁の相手は死にました。


 私がこの地に根をおろす切っ掛けにして、聖女をやめる原因となった方。聖女にして伯爵令嬢、ダスティア。

 誰にも看取ってもらえず気にもかけてもらえず、柔らかいベッドの上ではなく固い地べたの上で、息を引き取っていました。

 令嬢の地位で満足していれば、それに相応しい生涯を送れたはずなのにね。

 過ぎた欲は身を滅ぼす。

 そんな目に合わぬよう、あなたの末路を反面教師にさせてもらいましょう。


 ──でも、私は強いし、馬鹿じゃないから、少しは欲張っても大丈夫ですよね。


 ということで反面教師はクビになりました。


 それと、因縁がある方は、もう一人いることはいますが……


 あれはもういいか。

 そちらはほっといても構わないですね。

 私がなにもしなくても、あの馬鹿王子は沈んでいくに違いありません。

 ただ、無為な日々を過ごしながら。



「どういう心境だったのでしょうね」


 悲惨な姿となった聖女ダスティアの屍を見て、ついそんな疑問がわきました。

 指の無くなった左手を伸ばし、怨み骨髄の敵に救いを求める。

 どれだけの屈辱だったのか。


 いや、そんな屈辱なんか今さえ切り抜けられればどうでもいい。生き残るのが先決だ。後で仇で返してやる。


 ──とでも思っていたのかもしれません。あのひん曲がった性格ですからね。


「助けなくて正解だよ」


 リューヤが言いました。


「一度でも、俺に頭をさげさせた、奴はみんな死んでしまえと、ただ祈るばかり」


「なんですそれ」


「俺の祖国の詩人が作った、まあ、詩……かな?」


「ひっどい詩もあったものね」


「それはそうだが……そんな奴も珍しくないってことさ。そういう連中にとって、他人に借りを作ることは負けたこととイコールになるんだな、これが」


「理解に苦しみますね」


「だろ? でも、そいつらにはそうなんだよ。だから腹を立てる。いつか機会を見て、蹴落としてやろうと目論む。自分を助けたくらいで調子に乗りやがって覚えてろ……ってな」


「ひどいね」


「ゲスいね」


「……エターニアにいた頃、私を非難していた人々も、そんな輩ばかりだったのでしょうかね」


「みんながみんなそうとは言えないが、少なくない数はいたんじゃないか? なんせ『壁聖女』なんて呼ばれ方してたくらいだ。国を守ってる()()()()偉そうに、なんて思ってた馬鹿どもがかなりいたと睨んでるよ俺は。ま、それがなきゃ、あんたがエターニアを飛び出ることもなかったかもしれないのにな。ツケが回ってきたわけだ、ハハッ」


 民衆が私を慕って後押ししてくれたら馬鹿王子と馬鹿令嬢の無茶苦茶な要求も撥ね飛ばせた、それは確かです。

 いくら伯爵家に力と金があろうと、ものには限度がありますからね。

 しかし実際は、リューヤの言うように、私に反感を抱く者が数多くいました。神殿の内部にすらいたのですからね。

 なら外にはどれだけいたことか。


 だから私も愛想尽かして遠慮なく聖女の立場をぶん投げ、この国に移住したのです。

 聖女やめて暗黒騎士になってよかったよかった。


「これからあの国はどうなんだろうな」


「聖女が二回もいなくなりましたからね」


 今更どうなろうと私の預かりしらぬ事です。私はスローライフやるので忙しいからそれどころではないので。

 あの喪服女を逃したのが後々まずいことになりそうですが、逃がしたものは仕方ないですね。


「……あの、僕はどうなるのかな」


 サロメの脇に抱えられたまま、若い捕虜が不安げに私達をキョロキョロ見ていました。

 どうしますかね、この子。


「何にしても終わったんだからさ、パーッと騒ぎましょうよパーッとね。勝ったら宴にするのが人生楽しくする秘訣よ?」


「人生って、あなた魔神じゃないですか」


「いいねー」


「やろやろー」


 双子はもう乗り気のようです。現金な少年達ですね。


「そうですね。たまには羽目を外しますか。懐にも余裕がありますからね」


「そういうわけだからあなたも混ざりなさい」


「いいの? 僕、敵なんだけど」


 自分の顔を指差して、人を操る力を持つ少年が、困惑しながら聞いてきました。


「いいわよね? もう、この子は私に降伏したし、つまり敵じゃなくなったんだから。それにほら、首輪もあるから大丈夫よ」


 そう言われて少年を見ると。


「首輪とはそれですか」


「そ♡」


 なるほど確かに。

 墨を引いたような真っ黒い線が、ぐるりと首を一回り。


「隷属の呪いってやつか」


「そーいうこと。そう簡単には解けないし、逆らうと絞まるから抵抗もできないわ。まあ、したいならやらせてあげてもいいけど~~」


 それを聞いた少年は「やんないよ。死ぬもん。まだ兄さんのところに行きたくないし」と、戦意の無さをアピールしました。


 この浅黒い少年の名前はギルハ。

 呪いの針を刺すことで人を操るスキル『傀儡(かいらい)』の持ち主だとか。

 魔法や呪いの耐性がない者相手ならほぼ必殺に近い、恐るべき能力といえます。

 相手が魔神だったのが不幸でしたね。


 出身は大陸の東のそのまた東、リーリポッカ。

 いくつもの小国が集まり、連合国という形式をとってるらしいです。珍しい国ですね。

 そんな形式だけに人や物の交流がとにかく盛んなようです。

 あれこれ細かいことは気にしない風土なのは、このコロッセイアと似てますね。



 ──どのくらい気にしないのかと言うと、後で、お兄さんがサロメに殺されたことは根に持ってないのか聞いたら、


「別にないよ。むしろ清々したかな。大した実力ないくせに無駄に兄貴風吹かせてさ。今回だって僕のオマケで付いてきただけなのに、偉そうにしてるし。正直いい機会だったよ」


 恨み言を言われるどころか溜まっていた鬱憤を吐き出されて、こっちが驚くくらいでした。



 こうして新たな仲間(しもべ?)が加わり、ついに後顧の憂いも(ほとんど)なくなり、私ののんびり生活が、やっと幕を開けたのです。


 ……でも、すぐに何か起きそうですけどね。

これにて第一章、完です

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