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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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34・物は試し

「……本当にそれで成果出ますかね?」


「いやーどうかしらね。パッと思いついただけで根拠とかないもの。残念な結果に終わっても不思議じゃないかな」


 指の代わりに伸ばした髪の毛先を顎に当て、サロメが片眉吊り上げて思案する仕草を見せています。


「ですよね」


「だけど、やらなきゃわからないし、始まらないわ。それが挑戦でしょ?」


「なら、やってみますか」


「その意気よ」


 毛先で私を指差し(髪の毛で指差しというのもおかしな話ですが)、サロメが私にウインクしました。器用なことです。



「物は試し──ですね」


 よっしゃ。

 魔神からの後押しを受け、私は懲りずに再度ポーション作りに取りかかりました。

 服装はいつもの質素な僧服です。冒険者用なので普通のものより動きやすいデザインになっています。

 角兜は脱いで素顔のまま。作業の邪魔だし、私の素性も教えたから顔を隠す意味はもうありませんので。

 あちこちパッチワークされた使い古しのエプロンをつけ、いざ実験開始。


 開始を宣言しましたが、ほとんどやることは変わりません。


 祈りを捧げながら数種の薬草をすり潰し、細かくして、そこにきれいな水を注いで薬液を作ります。ちなみに祈りはしてもしなくても構いません。気分の問題です。

 次に煮詰めます。

 ここでも祈りたければ祈りを捧げてもいいです。私はこの辺からやりませんが。

 ある程度煮詰めると水色を帯びてくるのでそれを別の容器に入れて、また薬草をすり潰し、水を注いで薬液にして、煮詰め……。

 ……こうして三つほど作った薬液をまとめて一つの大きな瓶に入れ、癒しの力を注いで混ぜ、青くなったら出来上がり。ここがポーション製作において最も重要なポイントです。


 今回、ここで新たな手法を試します。


「魔力を注ぐのではなく……浄化結界を張って、そして混ぜると……」


 ホイ結界。


 ホイ混ぜ混ぜ。


「おお……!?」


 期待を全くしてない様子だったリューヤが驚嘆の声を出しました。

 まあそうですよね。

 私も適当にのんびりかき混ぜながらびっくりしてますもの。驚くべきことに、薬液が青くなるどころか、ほのかに青白く光り出してるのですから。


「ねえピオ、これは期待できそうなんじゃないかな」


「そうだねミオ、さっきとぜんぜん違う感じだもんね」


 双子も余計な茶々を入れず素直に驚いています。


 これはもしかしてアレですかね。

 どこに出しても恥ずかしくない一級品のポーション作っちゃいましたかね、私?

 秘められた才能が、ついに長き眠りから覚めちゃった?


「ふっ、ふふふ、ぐふふふふふ」


 歓喜の笑い声がひとりでに喉から漏れていきます。


「笑い方がキモッ」


「笑い顔もキモッ」


「そこは見逃してやってくれ。何度も見ていれば薄気味悪さも次第に弱まる。要は慣れだって、慣れ」


「あら、理解力がやけに高いじゃない。もしかして、あなた……赤毛ちゃんの彼氏なのかな~?」


「そういう色っぽい間柄じゃない。昔から付き合いのある相棒だ……あの、あんまり髪の毛をまとわりつかせないでくれないかな。くすぐったい」


「ホントにぃ?」


「ああ。嘘じゃないよ。だからニヤニヤしながら絡み付くのやめてくれ」


 いかに魔神といえど、女性らしく色恋沙汰が大好きなご様子です。

 その姿では当事者になろうにも相手がいないので、甘酸っぱい話を聞いて楽しむしかないのでしょう。一頭身の殿方なんているはずありませんからね。いるとしたら処刑場でついさっきまで生きてた人くらいです。


 魔神の彼氏候補はさておき……言うに事欠いて、私とリューヤが恋人同士とはね。

 懐かしい。

 昔はたまにそんなこと言われました。目付きの悪い黒髪には寝ぼけ眼の赤毛がお似合いだと馬鹿にされたものです。

 酒の席での冗談なら笑って済ましますが、こちらを舐め腐った手合いなら許しはしません。軽くみられたら今後の依頼にも響きかねないのが冒険者というアウトローな職業ですからね。

 だからやっつけました。

 耐えられるものだと思うのでしょうね。私のお決まりの手である『円盾』かけた平手打ちを避けもしないでまともに食らい、口の悪いやつらは、吹っ飛んだり、折れたり、吹っ飛んでしかも折れたりの、救いがない三択を迫られることになりました。チンピラに救いなど必要ないですから。


 これは表沙汰にできない話ですが、そんなチンピラどもが一度ダンジョン内で待ち伏せしてたことがあります。

 「ここで死んでも魔物の仕業でカタがつく。後腐れはない」とは、チンピラパーティの頭らしき男(私にビンタされて頬骨砕けて気絶した人です。名前は忘れました)が冷たく吐き捨てた犯行予告です。

 ギルド内で恥をかかされた等と逆恨みをこじらせ、凶行に及ぼうとした末の発言なのでしょう。

 しかし皮肉なことにそれは私達のお気持ちの代弁でもありました。色々と町でも問題を起こし、ギルドも手を焼いていたこんな輩を生かして返して更正させるほど、私もリューヤも暇でもないし善人でもありません。つまりここで潰すことが決定した瞬間です。


 数分後。

 仲間が物言わぬ骸となり、一人きりとなったチンピラリーダーが「待ってくれ、冗談だったんだよ、冗談」などと怯えながら弁解しましたが、その言い訳こそ笑えない冗談です。

 「何を今更。その言葉、あの時にギルドのロビーで言えば良かったものを」とは、私が冷たく吐き捨てた死刑宣告です。


 チンピラパーティーはこうしてダンジョン内に潜む魔物の餌食となりました……という、終止符を打たれました。

 そこに疑問を持つ者はいても異論を挟む者はいません。鼻つまみ者どもが勝手に消えてくれたのならそれでいいのです。真相など調べても誰も得をしないのだから。


 

「……おい、クリス。もうそれ以上やらなくてもいいだろ。聞いてんのかコラ」


 リューヤの制止の声。

 ああ、昔を思い起こしてぼんやりしていましたね。これはうっかりさんです。


「わぁ……」


 浄化の領域と化した瓶の中で、ポーションが青く光輝いていました。綺麗……。


「うん、見た目は完璧ね。飲まなくても効能がありそうなくらい有り難そうな出来映えよ」


「けどよ、中身がまるで話にならない、見た目だけの張りぼてかもしれないぜ」


「……ないこともないですね。あまりにも話が上手く進みすぎてますもの」


「なら早速」


 髪でひしゃくを持ち、大瓶から木杯にポーションを注ぐと、サロメはそのままグイッと飲み干しました。魔神の舌による鑑定やいかに。


「んんん?」


「どうしましたの?」


「何だか、首の断面っていうの? そこがむず痒くて、あれ、熱くなってきたんだけどこれって一体…………」


ずにゅるり


「「にゃあぁ!?」」


 サロメの首から、気持ち悪い音を立てながら白い骨の連なり──背骨が一気に伸びたのを目の当たりにして、双子が絶叫してのけ反りました。

 私やリューヤも叫びこそ上げませんでしたが顔をしかめてこの異常事態を黙って見ています。


ぼごっ、めこめこっ、ごぼぢゅっ


 聞くに耐えない、濁った生々しい音。


 背骨から、沸騰する肉汁のようにボコボコと柔らかい赤いものが盛り上がり、心臓や肺を形作り──なんか心臓三つあるように見えますが魔神だしそのくらい持ってても不思議はないかな──次には肋骨がそれらの臓器を覆うように背骨から伸びてきました。


「うっ」


 流石に私もこの光景には呻かざるをえません。リューヤはさっきよりも嫌そうな顔をしていただけです。なんたる動じなさ。


 双子はもう見ることを完全に拒絶してしゃがみこんでいます。


「魔神が魔神のゾンビみたいになりましたね……うわあ……」


「見た感じはそうだが、どうなってんだこれ?」


「ポーションの効能で生えてきた……と考えるのが正しいのでは?」


 だとしたらとんでもない優れものを私は作り出したことになりますね。たったひしゃく一杯分で魔神の肉体を再生させかけるとか、神々の薬酒といわれるソーマに匹敵するのではないでしょうか。


「そのまま売るより薄めて大量にさばいたほうが儲かりそうだな」


「やはりリューヤはその手の事となると賢いですわね」


「微妙に皮肉があるように思えるぞ、その言い方」


「それより私をどうにかしてよ! こんな不恰好すぎる醜態さらしたままでいろっての!?」


 いつもの余裕さをかなぐり捨ててキーキーわめく首と背骨と臓物の魔神さんでしたが、本気で嫌がる双子を見て邪悪そうに笑うと、「待て待て待てぇぇぇ~~」と楽しげに追いかけ回し始めました。


 楽しそうなのでしばらくほっときましょうか。今の私はそんなことよりポーションの皮算用のほうが大事ですからね。

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