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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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32・うるさいメインディッシュ

 特に苦戦することもなく()()()も終わり、新居の内部を探索します。

 閉め切ったカーテンを開き、窓を開けて新鮮な空気を中へ。

 一階の部屋を巡り、二階も同様に一通り目を通します。万が一取りこぼしたレイスがいたら光の矢の的にすることも忘れません。この結界内で魔物が存在し続けるのは万が一どころか億が一もありえないでしょうが。





 その億が一がありました。びっくり。





「──いやーどうしようかと悩んでたのよ。長い眠りから覚めたと思ったら箱の中なんだもの。出るのは簡単だけどお外がお日さまカンカン照りだったら最悪でしょ? 大嫌いなのよ太陽って。無駄にまぶしいし」


「よく喋る首だな」


「ホントですね」


 私達の目の前には、濡れ羽色の長い髪を目まぐるしく動かして身振り手振りでまくし立てる首がテーブル上に置かれています。

 そのまま置くのも品がないとか言い出した双子が何故か大皿に乗せたせいでかなりの不気味さを放っており、薄暗い地下室ということも相まって、まるで人食い一家の晩餐そのものです。

 しかも主菜がペラペラ喋る喋る。

 悪夢が現実を侵食して、この世に冒涜的なはらわたをぶちまけたかのような状況が作り上げられています。頑張れ私達の正気。


「とにかくお日さまの届かないところで開けてくれてありがとねー」



 私が値段の安さにひっかかりまんまと騙されて購入した一軒家。

 内部がレイスまみれのこの建物を丸ごと聖なる領域にすることで一網打尽にしましたが、念のため隅から隅まで調べていると地下室にありましたよ不自然なほど豪華な宝箱が。

 開けるか見なかったことにするか話し合いましたが、内部から禍々しい魔の波動が感じられるので中身を確認するしかないと意見が一致。

 いつ襲われてもいいように身構えながら、その場で宝箱を開けた我々の目に飛び込んできたのがこれでした。



 私が作り出した魔法の光に照らされたその容貌は、ピオとミオの悪ふざけコンビに匹敵するどころかさらに上手の美しさです。


 艶やかに流れる黒髪。

 金色に輝く瞳。

 大理石めいた白い肌。


 そしてこめかみ辺りから伸びる二本の角。


 芸能の世界で名を馳せた者が全身全霊で彫り上げた作品のように──いや、それらさえ凌ぐほどに、あまりに整いすぎてて逆に怖さやある種のおぞましさすら感じるほどですが、この口の軽さがそれらを見事に打ち消していました。


「じゃああなたは首だけの魔神なのですか?」


「んん~、そこは断言できないかな。胴体もどっかにあるとは思うのよね。でも記憶が曖昧でさ。どこにあるかもわからないし心当たりも思い出せないから打つ手がないのよ。首だけにね。アッハハハハハ!」


 記憶ないとか都合いいこと抜かしてるわりにはこなれた感のある冗談ですね。年期を感じさせる言い回しです。

 私の中でこの首への不信感が上昇しました。怪しい。


「話するの好きなんだねー」


「会話がしたいんだねー」


「だって首しかないから。口を動かすくらいしかやることないもの。髪の毛で色々やれたりもするんだけどね」


「そうか。それでお喋りな箱入り娘さん、あんたのことは、とりあえず何て呼んだらいいんだ?」


「私? そうね、サロメって呼んで。呼び捨てでもサロメちゃんでもいいわ。あ、さん付けや様付けとかはなんか嫌かな。そーいうよそよそしいのキライだしー」


「初対面ですよ私達」


「こうやって語り合ったらもう知人よ。一方的に私がお話ししてるだけかもしれないけど、仲良くなるのに時間は関係ないもの。感覚が合うかどうかね」


「あのレイスどもはあんたが呼び出したのか? それともあんたに引き寄せられたのか?」


 ルーハがそう質問すると、サロメと名乗る凄絶な美しさの首は、唇を尖らせ眉をひそめました。


「知らない。死人や幽霊とは縁がないもの。仲良くする気もないしね。辛気臭いのはお断りよ。ま、私のオーラに釣られて集まった可能性はなきにしもあらずだけど……」


 はた迷惑な首さんですね。

 要するにさっさと起きてさっさと箱から出てくれたら良かっただけの事……いや待てよ。それやられてたらこの土地や上物が安くなることもなかったわけで……。


「まあ、そうだったんですね。勝手に群がられてさぞご迷惑だったでしょう」


「いや、そんなことは特にないけど……ずっと寝てただけだし」


「もしよろしければ、しばらくここに滞在しててもいいですよ? 他にあてがないのならですけどね」


 魔神であろうと、ここを安く購入することができるようにしてくれた恩人ですからね。

 本人にその気はなくても結果的にそうなったならこちらも少しは恩を返すべきでしょう。これまで出会ってきた悪辣な恩知らずどもと私は違うんです。


 それに箔付けにもなりますからね。

 魔神を食客にしているとか、暗黒騎士の所業としてはなかなかのものではないでしょうか。私としては自宅の大掃除したらたまたま軒下にいた野良猫を家飼いすることにしたのと同じくらいの感覚ですが。


「やけに親切だな」


「私は常に親切ですよ。でなきゃ聖女の仕事など誰が──」


「ん、今なんて?」


 あっ。

 これは失言でした。


「えっ、あ、あら、何か言いました? 気のせいですよ気のせい」


「なんか、せい何たらって聞こえた……」


「誠実な仕事ぶりをこなしていたって言ったんだろ。大嘘だろうがね」


「そう、そうなんですよ。私は真摯に仕事と向き合う……って何なんですか大嘘って」


「ぷっ」


「「あはははっ」」


 たまらず首が吹き出し、双子が笑いだしました。

 よし。どうにか話をそらして誤魔化せたようです。そらし方にトゲがありましたがこの際大目に見ましょう。



 ──とまあ、新たな仲間というか居候を加え、起動した暗黒騎士スローライフ計画。

 邪教の神官と揉めたりお金持ちの呪いを解いたり格闘大会に参加しようとしたり町中で勝負挑まれたりと、気まぐれに迷走していた私でしたが、いったん動き出したらトントン拍子に事が進み、頓挫することもなくこうして当座の目標を達成するに至りました。

 不安の種を根絶やしにしたわけでもないので安堵するにはまだ早いですが、ホッと一息つくくらいは許されるでしょう。


 さあ、次は収入源をどうするか。

 植物みたいに土と雨と陽光さえあれば生きていけるなら気楽ですけど私は人です。人とは金が無いとあらゆる状況で困ってしまう生き物なのです。


 ……やりたくないけど、ポーション作りますかね……また、雑に投げ売りされなきゃいいですけど……。

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