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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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31・ここをスローライフ地とする

 妙な仲間が二人も増え、少しにぎやかになってきた、そんな春の終わり。


 私はついに土地を買いました。


 家も納屋も畑も何もかも込み込みです。現金で即支払って自分のものにしました。なかなか安かったです。それでも普通の市民がさらりと衝動買いできる額ではありませんがね。自慢ではなく事実なので悪しからず。


 場所は、ベーンウェルの町の北にある、ロロ村です。

 どのくらい離れているかというと、たった数キロ。ほとんどお隣ですね。

 村とは言ったものの、もはやベーンウェルの付属品というか一体化してるに等しい状態なので、他の村と比べて人の出入りも多く、活気があります。広い農場や放牧地もあり、もしかしたらコロッセイアでも指折りの豊かな村かもしれません。


 余談ですが、私とルーハを燃やそうとして逆に全て焼きつくしてしまった喜劇の舞台となったのは、ゴ村という名称だったそうです。

 以上、無駄な情報でした。





「安いわけですね」


 現場に着くとその理由がはっきりとわかりました。


「相場の半値の時点でわかるだろ。だいたいなぜ一度でも見に行かなかったんだ。せめて俺にでも一言言えば…………」


 最後のほう、小声で「このバカ」とルーハが言ったのを、耳のいい私は聞き逃しませんでした。


「あー、バカって言いましたね! 付き合い長いんだからもっと遠回しに言いなさいよ!」


「なんでこういう時に限って聞いてんだろな…………はいはい、俺が悪うございました。次はもっとわかりづらく言うよ」


「わかればいいんです」


 なんか結論がおかしい気もしますが、彼も素直に謝ってますし変にゴネるのはやめておきましょう。反省したのならそれでよしとします。

 それよりこの呪われた一軒家をきれいに浄化して再利用せねば。

 人生で最大の買い物したら金をドブに捨てた結果に終わるなんて情けなくて泣くに泣けませんよ。


「ねえピオ、このお姉さん、もしかして騙されたのかな」


「そうだねミオ、このお姉さん、ころっと騙されたんだよ」


「「ウケるぅ~~」」


 角兜の内側でオーガが裸足で逃げ出しそうな憤怒顔になってるのが自分でもわかります。

 人の不幸な散財をせせら笑う小僧どもには後で重めの罰を与えるとして……散財を散財のまま終わらせるのではなく、立派な運用として反転させなければ今夜悪酔いしてしまいそう。なおその場合、酒のツマミはこのガキ二名の悲鳴です。


「見方を変えれば、これこそ暗黒騎士様に相応しい住居といえそうだけどな」


「いやダメですよ。その理屈だと炎系のスキル持ちは火事場に住むべきってことになりますよ?」


「こいつらの故郷話に出てきたマグマゴーレムはそんな感じだったろ」


「私のこと魔物と一緒の扱いしてます?」


 してないしてないと手をパタパタ振るルーハをよそに、昼間から死霊(レイス)飛び交うお家の中にお邪魔しました。

 買ったばかりの住まいなのに既に実体なきアンデッドの巣になってるのは辛いです。この不法居住霊どもめ……。


「天地にあまねく清浄なる気よ、正しき命の力よ、我が呼びかけに応じて集え。聖なる秩序の壁となり、悪しき全てを退けよ──」


 何体いるかもわからないし、いくら光の射さない屋内とはいえ太陽が見えてる時間にレイスが漂う建物が普通のはずがありません。浄化の魔法で対処していくには手間がかかりすぎるし、私の力量で無事昇天させられるかどうかも難しいときています。

 だからこの一軒家そのものを聖なる結界にしました。エターニア王国全体を覆っていたのと同じやつです。


『オゥアァァ……』


『ウォォ……』


 この世への怨みつらみに満ちていたレイス達が、苦し気ですがある種の安らかさもある呻き声を残し、清らかな光にかき消されていきます。


「熱い湯に浸かるジジイみてぇ」


 なんちゅう喩えしてんですか。もっとこう、切なくなる儚げな比喩なかったの?



「さっぱりしましたね」


 聖域と化した一軒家から危険な悪霊の群れはいなくなり、後に残るのは、生きた人間である我々四人のみ。

 外れくじみたいな物件がお得にも程がある掘り出し物となりました。やったぜ。


「わぁ、見てよピオ。あれだけいた悪いお化けが全滅したよ」


「うん、そうだねミオ。気持ち悪い空気も一掃されてるよ」


「フフン、どうです? これぞ暗黒騎士たる私だけが張り巡らせることが可能な、大いなる奈落の領域です」


「「すごーい」」


 一瞬いつもの調子でバカにされてるのかと思いましたが、表情を見るにそうでもないみたいです。素直なところもあるんですね。

 まあその素直さも普段の態度の一割くらいでしょうけど。後の九割はおふざけと皮肉です。


 なぜ鎖や翼の仮面をつけてる双子の表情がわかるのかですが、それは簡単な話で、仮面をつけてないからです。

 大会に出るのをやめたので被ってる意味がもうない、そう彼らは言っていました。

 私のように暗黒騎士としての職業上の正装ではなく、あくまで大会に出るための仮装ですから、必要なくなればやめて当然ですよね。


 そうそう、二人の職業についてですが、どちらも剣士だとか。

 力よりも速さと精密さを重視して戦うタイプですね。

 路上で勝負した時は木剣しか持ってませんでしたが、今は二人ともなかなかの長さの剣をしょっています。錬気を使えると多少身の丈に合わない重さや大きさの武器でも問題なく振るえるんですよね。

 だから「その体格でその武器はデカすぎじゃない?」って外見の人に対しては、迂闊に敵対しないことをオススメします。でも中には普通の剣でドラゴン系の首を切り落とす猛者もいますが。

 なので、よほどの達人でもない限り他人とは仲良くしときましょう。溜め息が似合うしょぼくれたおじさんが健康的で強そうな若者を一方的にシバくとか冒険者界隈ではたまにあるので。


「背中の得物がなければ、盗賊か魔術師にしか見えませんね」


 てっきり最初はルーハと同様に盗賊なのだとばかり思ってました。

 でもそうなるとパーティバランス悪すぎるから、この双子が剣士で良かったです。もし仮に僧侶盗賊盗賊盗賊だったら、端から見たらならず者三人とその慰み者として連れ回されてる女性一人という図にしかなりませんからね。なんて可哀想な私。

 ……もっとも、今は慰み者どころか、少年剣士二人と雑用役の若い男をはべらせてる麗しき暗黒騎士の図になるのですが。


「うふふふ」


「ねえピオ、お姉さんが気持ち悪い笑い方してるよ」


「そうだねミオ、きっと気持ち悪い妄想してるんだよ」


「やめとけ叩かれるぞ」


 背後で何か言い合ってるようですがどうせ下らない話題でしょう。


 さあ、新居を過ごしやすく模様替えしなくてはいけません。善は急げです。ぼさっとしてないで働きなさいよ従者達。

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