30・南から来た二人
・これまでのあらすじ
聖女を首にされた主人公クリスティラは、腹いせに元凶である第三王子フールトンと伯爵令嬢ダスティアに嫌がらせしてから、相棒のリューヤを道連れにエターニア王国から隣国コロッセイアへと逃亡。
暗黒騎士クレアとして第二の人生を謳歌しようと目論むクリスティラだったが、馬鹿令嬢の放った刺客、巨大な魔物、邪教の神官、暴徒達といった様々な悪意にさらされながらも、無事コロッセイアへとたどり着いた。
なかなかの発展ぶりを見せるベーンウェルの町に腰を据え、地元の富豪一家を蝕む難事件を解決したことで得た思わぬ大金を元手に安楽生活を送るべく思案していた矢先、血気盛んな二人組に勝負を挑まれ、これを撃退。
敗れた二人組は何故かリューヤに懐いて離れなくなるのであった。
めでたしめでたし。
「めでたくねーよ」
この状況を諦めと共に半ば受け入れ気味な様子のルーハから苦情がきました。あらすじに文句つけても仕方ないでしょうに……。
この、馴れ馴れしさの化身みたいな二人の少年(そう、彼らはれっきとした男性──オトコノコなのです)は、ピオとミオといいます。
年は十四。
双子の兄弟でピオが兄、ミオが弟です。
さっきまでは仮面をつけていましたが、この安宿の一室ではそれを外して美貌をあらわにしています。肩にかかるかかからないかくらいのゴールドの髪に、大きく魅力的なグレーの瞳、スッと通った鼻筋と、完成度の高い美しさです。
本当に男なんですかね。
怪しいことこの上ありませんが嘘をつく理由もまたないのも確か。
でもこうしてルーハに絡んで熱を上げてる様子を見てる限りちょっと信じられません……マジで生えてないの?
「ルーハ……いい名前だねぇ」
「いかにもルーハって感じだもんねぇ」
「それわかる~」
「でしょ~」
全くわかりませんが、彼らの中ではそれが直感に基づく正当な理屈として、そびえ立ってるのでしょう。彼の本名はリューヤなのにね。
「複雑な心境だ」
それは偽名を絶賛されてるせいなのか、男二名がすり寄ってきてるからなのか、どちらの理由なのでしょうかと思いましたが両方ですねこれ。
彼にそっちの趣味は無かったはずです。
じゃあ女好きかというとそれも違うようで、色恋関係に淡白なんですよね。私も人のことはあまり言えませんがその私よりあっさり味なのがこのルーハです。
…………水浴びした際に、私の裸体にもそんな興奮してなかったし。多少は嬉しそうな感じでしたが、それも多少ですからね。何なんですかね多少って。不可解ですよ。どういうつもりなのかしら本当に。うら若き乙女の生まれたままの姿を見て、なんで喜びがいまいちなんでしょうね。意味わかりませんよ。もっと浮かれるべきじゃないですか。女のすっぽんぽんなんですよすっぽんぽん。よりによって毛の生え具合とかどうでもいいでしょ。気にするところそこ? 観点おかしくない? これってルーハだけなの? それとも世の殿方って皆そうなの? 考えたくないけど、もしかして私にやらしい目を向けたら自分の負けだとか誰もが思ってらっしゃるの? ならこっちにも考えがあるぞ。暴力だ。
──ああ、いけませんね。
この世への不平不満に心が呑まれていました。落ち着かないと。
心中のムカムカをなだめて、意識を現在に引き戻します。
で、彼ですが、この少年達に媚びを売られてもデレデレしてないのは彼にとって幸いなことでした。してたら鼻の下を伸ばしたツラに私のビンタが命中していたところです。
双子は見目麗しい美少女の皮をかぶっているので、正体が男であることを差し引いても、抱きつかれててまんざらでもない気持ちなのだとは思いますがね。本気で嫌なら力で無理やり引き剥がしてるでしょうから。
「もう離れろよ」
「「やだ♪」」
「クリ……クレア、こいつらどうにかしてくれ。手に負えない」
鬱陶しくなってきたようです。
「そんなこと言わず、男同士で交流を深めてはいかが?」
「怖いこと言うなって」
「もし深まりすぎて行くところまで行ったら、その時は……まあ、祝福でもしてあげますよ」
「やめろ笑えない」
あなたは笑えなくても私は笑えますから。乾いた笑いになりそうですけどね。私よりもそこの男二人のほうが魅力があると断言されるのに等しいですから。
「……二人はウィルパトの出なのか」
「そーだよ、結構裕福な身の上なんだ」
「うんうん、結構上品な生活してたよ」
「ウィルパトですか」
エターニアやコロッセイアよりもずっと南のほうに位置する国ですね。
年がら年中気温が高く、火山まであるという徹底した暑苦しい国で有名です。どんなものなんでしょうね火山って。溶岩という、熱く真っ赤に煮えたぎった岩が吹き上がったりしてる山だというのですが……。
「あなた達は火山を見たことあるんですか?」
「そりゃあるよ」
「当たり前でしょ」
「愚問でしたね。それで、やっぱり地獄のような熱さだったりするの?」
「そこまで近づくほどアホじゃないよ、ね、ピオ」
「魔物もいたりするから危ないんだよ、ね、ミオ」
「ンなとこにも魔物いるんだな」
「マグマゴーレムって言ってね、大きな溶岩の怪物がいるらしいよ」
「僕らは見たことないけどね、でも見た人は結構いるんだよ」
どこにでもいるんですね魔物は。何食べて生きてるんでしょうか。やっぱり溶岩?
「ちょっとやそっとの魔法じゃ効かないくらい抵抗力がある上に」
「斬ったり叩いたりしたら武器が溶けて使い物にならなくなるとか」
「怖いよね、ピオ」
「そうだね、ミオ」
そんな情報があるってことは一戦交えた人がいるってことですよね。
誰なのか素性まではわかりませんが職業はわかります。間違いなく冒険者でしょう。普通の人間はそんな無茶やりません。
「コロッセイアのお祭り騒ぎの話を聞きつけて、はるばる南からご足労とはね。若さにかまけて無茶をするもんだ」
この二人より若い時に冒険者始めた人がよく言いますね。無茶どころか無謀ですよ。
「もうそのお祭りに出るのやめたけどね」
「僕らが未熟なのはさっきのでわかったし」
いい線いきそうな気もしますが、その大会は一対一のトーナメントですからね。タッグで本領発揮する人には辛いものがあります。やめて正解ですよ。
「それにとっても素敵な人見つけちゃったし♪」
「強くて凛々しくて優しいなんて最高だよね♪」
ルーハを見る双子の瞳がうっとりとしてきて、潤みを帯びた灰色になっています。これはなかなか深刻ですね。
「情けをかけたのが過ちか。馴れないことはやるもんじゃないな」
「時と場合によりますね。今回は運が悪かったということで」
便利そうな手駒が二個手中に納まったと思えば、そう悪いことではないですよ。……次第にやらしいことをしてきそうな雰囲気なのに目をつぶれば……の話ですがね。
私は高みの見物といきましょう。ルーハ、がんばれ、がんばれ。




