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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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29・おかしな縁

「おおおお!? 何だ今どうやったんだ!? どっからあの縄出したんだよあの坊主!」


「そんなのどうでもいいだろ! あの角兜と黒髪の勝ちってこった! あいつらに賭けて正解だったぜ!」


「ちっくしょー!」


「そう悔しがるなよ、今晩は俺がおごってやるからさ。なんせ急に懐が温まったからなあ」


「うるせぇ! そもそも俺の金じゃねーか!」


「ははははは!」


 わいわいがやがや……





 人の喧嘩を闘犬みたいに賭けの対象にしていた観客が各々好き勝手にほざいている中、私は地べたに変則的なうつ伏せになってる仮面小僧どもを見下ろしていました。勝利者の特権です。


「いいザマですね」


 どちらも足にボーラが絡みつき、腕はルーハが出した縄で後ろ手に縛られており、お尻を浮かせた体勢になっています。なぜそんな体勢にさせてるかは直にわかるでしょう。


「やめてよぉ」


「勘弁してよぉ」


 泣き言が聞こえますが無視します。

 私の不興を買うのを恐れたのか、さっきまでのようにおどけてハモったりはしていません。まあどのみち許しませんが。

 こうなっては速かろうと遅かろうと関係ありません。無駄と知りつつも哀れさをアピールして慈悲を乞う以外になす術なしです。


「ふっふっふ……」


「その格好でその笑い方やめろよ。本当に気持ち悪いぞ」


「おだまりなさい」


 うるさい口を黙らせ、炎獣の杖を構えます。


 さあ、お楽しみの始まりです。できるだけ情けない悲鳴をあげなさい。それが心ない言葉で侮辱されたバーゲストへの何よりの弔いとなるのですから。


「おいさぁ!」


 鎖の仮面のお尻に一発!



バシィン!



「ひぎぃいっ!」


「よいさぁ!」


 翼の仮面のお尻に一撃!



ビシィッ!



「ぎぃいいっ!」


 んん~~、いい悲鳴です。


 心なしか杖の先っぽにいるこの子も喜んでいるように思えます。

 うんうん、わかりますよ。あなたもこの時を待ちわびていたんですよね? 暗黒騎士に相応しい威容と魔力を兼ね備えた杖である自分を軽んじるこいつらに、ムカついていたんですよね? 許せなかったんですよね?

 安心なさい。私もです。まだまだ足りません。


「さあ、もっと悲痛な音色を奏でましょうか。でなければ、私と、我が杖に宿る魔獣の無念を晴らせませんから」


 不当な平手打ちに、不当な侮辱。なかなかの重罪ですからね。


「無念って……サイコかお前は」


「? 何か言いました?」


「たまたま遭遇しただけでブッ殺されて、首千切られて、杖の先端に括りつけられて、人や物や魔物に叩きつけられて……そっちのほうがよほど無念だろ」


「終わったことを今更言われても」


「ええっ」


「第一、それは済んだことですけど、これはまだ済んでいません。あれもこれも一緒くたにしてはいけませんよ?」


 駄々をこねる幼児を諭すときのように、優しく微笑みながらルーハに説明します。

 残念ながらこの格好だと私の女神のごとき慈愛に満ちた表情が見えませんけどね。このカッコいい角兜の数少ない欠点です。


「ホンマもんだ……精神面が狂気に染まっとる……」


 何に戦慄してるのかわかりませんが気にしないことにしましょう。どうせ大したことではないですから。


「さあ、まだまだ行きますよ~」


 まだ一セットですからね。準備体操にもなってませんよ。


「助けてよぉ」


「苦しいよぉ」


「……もうそこまでにしとけよ」


「あら、ずいぶんとお優しいことを仰るのね、ルーハ様ともあろうお方が。どのような風の吹き回しでございましょうか?」


「へりくだった言い方すんな。もう勝敗は決したんだからいーだろ?」


「そーだよぉ、お兄さんって優しいね」


「僕たち、お兄さんに惚れちゃいそぉ」


 都合のいいことをのたまう、赤と黒を基調にしたお揃い衣服の少年達。

 その口の軽さにルーハが「やれやれ……」と呆れて苦笑しました。


「いえいえ。一回ずつしかしてませんからね。これだけでは足りません」


「オニー」


「アクマー」


 なんだ、まだ余裕あるじゃないですか。

 なら遠慮なく(ハナからそんなものありませんが)続行といきましょう。本番はここからですよ。





 ──で、そこからどうなったのかですが。


 私とルーハは逃げていました。


 あの少年達を哀れんだのか、それとももう賭けの対象にしていた一戦が終わったからなのか、警備兵をがっつり呼ばれたので本気で走っているのです。


「……追ってきませんね」


 仮面少年たちを置き去りにして走ること数分。

 人通りの少なそうな路地裏とかを選んで走り続けましたが、どうやら逃げきったようです。


「本腰入れて捕まえる気もなかったんだろうさ。所詮若造同士の喧嘩だしな。お互い刃物も出さなきゃ怪我人や巻き添えもいない。仮に捕まってもちょっとした注意と、まあ罰金くらいで済んでたはずだよ」


 途中で何度か振り返りましたが、追いかけてくる人影を一回も見ませんでしたからね。

 この国ではよくあることなのかもしれません。路上の喧嘩でいちいち目くじら立てて追跡することもないと。

 怠慢のようにも思えますが、そういうお国柄だと言われたらそれまでですね。


「それでも、恐らくお尋ね者になってる身の上ですからね。この国では大丈夫だと思いますが……」


 なら揉め事起こすなと言われたらそれまでなのですがついカッとなってやっちゃいました。てへ。


「それはいいとして……まあ良くはないが……何処よここ」


「さあ? ひたすら駆けてただけだから、さっぱり」


「ガラの悪そうなのに絡まれても面倒臭いだけだ。さっさと表通りに出ようぜ。もう兵士達も詰所に戻ったろ」


「そうしましょうか──」


 元来た道を戻ろうとしたとき、見覚えのある二人が左右の脇道から現れました。

 しつこいですね。

 もう決着ついたでしょうに……まだ叩かれ足りないのかしら?





「んふふっ」


「ふふんっ」


 安宿に戻る帰り道。

 両手に花といわんばかりに、ルーハの左右の腕を、それぞれが一本ずつ抱えています。

 右の腕に鎖の仮面。

 左の腕に翼の仮面。

 まあ、その花々は、雌しべではなく雄しべなのですが。


「変なのに懐かれちゃったな……」


 もし彼の両手が塞がっていなければ、今のセリフを口にしながら間違いなく肩をすくめていたでしょうね。


「お兄さん、カッコよくて強いんだね」


「しかも優しさもあるんだね」


「フフッ、モテモテじゃないですか、ルーハ。どうやら女運の悪さが好転してきたようですね」


「好転というかもはや裏返ってないか?」


 傍目には色男ですからいいでしょ。



 ──この後、とりあえずなすがままにされていたルーハが「なあ、お前らってどんなツラしてんの?」と何気なく聞くと、二人とも素顔をさらしてくれました。


 ……肩辺りまである金髪に、灰色の大きな瞳と、とびきり整った容貌。

 仮面の裏に潜んでいたのは、無邪気さに溢れた、魔性めいた美でした。男のくせに。おのれ。

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