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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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27・危険な双子

「ねえピオ、あの人味方を容赦なく叩いてるよ。もしかして危ない人かな?」


「そうだねミオ、きっと人を痛めつけるのが好きなんだよ。もしかしなくても危ない人だね」


「やばいね」


「やばいよ」



 まるでおとぎ話に出てくる二人一組の妖精みたいに、芝居がかったおしゃべりをする仮面の少女たち。


 実際の妖精は純朴なものばかりで、ミルクや菓子をあげれば素直に喜んで家事の手伝いをしたり森から果物を取ってきてくれたりします。

 中には人を騙したり物を盗むものもいますが、それは別に妖精に限った話ではありません。嫌な事実ですが、どの種族だろうと鼻つまみ者や悪党は存在するのです。私を危険人物呼ばわりしたこの二人のようにね。許すまじ。


「……何の用だ? おかしな神の教えでも広めてるのか? だったらお断りだぜ。こないだ丁重にもてなしたばかりだ」


 魔物を引き連れ脅しで改宗を迫るなんて最低なことをしていた黒の申し子のことですね。

 袋叩きからの火あぶりで丁重に地獄に送ったのはまだ記憶に新しいです。やったのは我々ではなくあそこの村人さんたちなんですが。勢い余って自分たちまで火葬したのは笑いましたね。非道が過ぎて精霊に見放された恩知らずどものあわれな末路でした。


「それはないかな」


「それはないよね」


「ねえピオ、おかしなことを言うねえ、あの目つきの怖いお兄さんは」


「そうだねミオ、僕たちが神官に見えるのかな、あの鋭い目をしたお兄さんは」


「似たり寄ったりの中身しかさえずらないなら、どっちかだけにしろよ。時間の無駄だっつーの」


「やーだ」


「やーよ」


「ねえピオ、あのお兄さんは短気だね。もっと会話を楽しんだらいいのに」


「そうだねミオ、あのお兄さんは気難しいね。もっと僕たちと語らえばいいのに」


「……めんどくせぇ……」


 喉に詰まったものを吐き出すように、ルーハが嫌気混じりに一言漏らしました。

 私も同感です。

 今のやり取り聞いてるだけで手が出ちゃいそうでしたからね。頭の中では二人へ交互にビンタしてる妄想が繰り返されています。この二人の対応によってはそれが現実になるかもしれません。なお私の見立てでは八割方そうなる気がします。


「喪服じみた縁起の悪さより可愛らしさが勝ってる衣服の割に、男の子みたいな口調なんですね」


 首の真っ赤な大きいリボンがよく似合っています。


「「??」」


 何が不思議なのか仮面の少女たちは二人で左右に首をかしげました。頭がぶつからないようにと配慮してるみたいで、片割れのいないほうに頭部を動かしています。


「ねえピオ、男の子()()()だってさ、僕たち」


「そうだねミオ、面白いことを言うよね、あの角兜のお姉さん」


「?」


 どこが面白いのか意味がわかりませんね。

 でも、この年頃の女の子はどうでもいいことでも頻繁に笑うくらい感情がブレブレですので、きっとそれなのでしょう。


 私はお淑やかな性格なので控えめでしたけどね。野良猫が横切ったり雲がフォークみたいな形してただけで路上で笑い合ってる、頭も尻も軽そうな子たちを冷ややかに見ながら孤児院での用事をこなしていました。

 たまに矛先がこちらに向いて「アハハ、なにあのボサボサの赤毛。きったないなぁ」「こら、駄目よ指差したら……ぷぷぷっ……」「で、でも、確かに汚な……くっ、くくく」とか言われたりもしましたが、聖なるパフォーマンス込みで注意してあげると(この頃には私の神聖魔法の才能は開花していました)以後はやらなくなりました。

 宙に投げた煉瓦を防御魔法かけた張り手で粉々にしたくらいで腰抜かして大人しくなったんだから、根は素直だったんじゃないかと思います。

 ……それから私を見る度にゲロ吐きそうになるのは困りものでしたけどね。人の顔見てオエエはないでしょオエエは。貧しい孤児院暮らしの汚い服装でも一応女の子やぞ。


「ねえピオ、このお姉さんも僕たちが女の子に見えるんだね」


「そうだねミオ、きっとそっちのお兄さんもそんな風に見てるんじゃないかな」


 え。

 それってつまり。


「カワイイからね、僕らって」


「カワイイもんね、いつだって」


 いや仮面つけてるから可愛いかどうかはわかんないですよ。ただ、声とか態度とか服装で、そう思っていただけでね?


「もしかして…………()()()()()()()


「「せーかい♪」」 


 ルーハの問いに、互いの身体を抱き締めながら二人の少女──ではなく少年は、待ってましたと言わんばかりに楽しげに答えました。


「お嬢さん達ではなくお坊ちゃん達とはね。それってあれか、獲物を油断させるための擬態ってやつか?」


「違う違う。これはさ、好きで着てるだけだよー」


「油断させたいならね、もっと露骨なの着るよー」


「「ねー」」


 確かにそうです。相手の警戒心を解こうとしても仮面が余計すぎますか。

 それはそうと定期的に声を重ねるのが少しイラッときますね。でも最近怒りすぎな気もしないでもないです。感情任せで動いてもろくなことにならないし平常心平常心。


「……性別や服の趣味はいいとして、いい加減、ご用件を聞きたいのですけど」


「腕試しだよ、安っぽい角兜のお姉さん」


「力試しかな、ブサイクな杖のお姉さん」


「へえ」


 イラつきが一瞬にして収まりました。聞き捨てならないことを言われて怒りのあまり頭が冷え込んだのです。

 私のこの素晴らしき炎獣の杖に対して『カッコいい』『なんて魔力だ』『怖いよママー!』『威圧感すごいですね』とかではなく……言うに事欠いてブサイクとはね。


 ……フフフ、アッハハハ……なかなか面白い挑発してくれるじゃないですか。許さねえ。

 ピコだかミコだか知りませんがこの小僧どもどうしてくれよう。


「この国で行われる大会……その物々しい格好なら、知ってるよね?」


「知らずにそんないかつい格好してるわけないもんね、この時期に」


「僕らね、今年初めて出ようと思ったんだけど」


「経験ないし、どこまでやれるか自信もないんだ」


「だから自分達の実力がどれほどのものか、私達で試したい──そういうことですね」


「「そーでーす♪」」


「よしわかった」


 杖の先端に鎮座するカッコいい顔に円盾の魔法をかけながら、私は先制攻撃すべく駆け出しました。

 まとめて泣かせてやるから覚悟しなさい。

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