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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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25・まあ本人達が満足ならそれでいいことです

 こうして、ベーンウェル屈指の歴史ある富豪の家で起きた事件は、あまり大っぴらにできない真相を残して解決しました。呪いを解くのにしくじったどっかの町の高名な神官さんも、今頃は寝たきりから回復してるのではないでしょうか。


 とりあえず息子さんと話の辻褄を合わせます。これをやらないことには先に進めません。というよりやらなきゃアホです。


「──打ち合わせは以上となります。あなたが才能に溺れて調子に乗りすぎた結果の出来事だった、そんな感じで手打ちにしましょう」


「母を、騙すことになりますね」


「やむを得ませんよ。真実を伝えるのが常に正しいとは言えません。時には嘘をつくのも物事を円滑にするためには必要です」


 血縁でもない義理の息子さんの復活に泣いて喜んでた人に、


「あなたがエロすぎるため毎日悶々としていた息子さんがその欲求を抑えるため呪術に手を出したら下手こいてこうなった」


 なんて正直に言おうものならショックで倒れるかもしれませんからね。


「……親不孝者ですね、僕は。よからぬ感情に振り回され、挙げ句の果てに自らかけた呪いすら制御できない……ろくでなしと言われても、仕方のないことです。情けない。本当に情けない」


「これから孝行したらいいんですよ。お亡くなりになったお父さんの分まで、あの人を支えてあげればね」


 我ながら言ってて白々しさに笑ってしまいそうになりましたが、今はそんな状況ではないのでムッと堪えて我慢しました。

 角兜つけててよかったです。でなきゃ半笑い気味の顔を見られてましたから。暗黒騎士スタイルの思わぬ利点ですね。

 ほとんどポイ捨てに近い形で親においてけぼり喰らったうえにその親がどっかで沈んだ私が孝行とかよく言えたものです。孝行しようにももうできないし、そもそもあんな両親になんか頼まれてもしたくねえ。今度もしポセイダムや海を隔てた西大陸に行くことあったら海辺で雑に祈りを捧げるくらいならしてやってもまあいいですがね。でもそのためだけに行くのは遠慮します。


「これから、ですか」


「ええ。これからです。半年もの間、心配かけた分までね」


「そうですね。母に嘘をつくのは気が引けますが、でも、この申し訳なさを飲み込んだまま生きるのが、僕が背負うべき罰なんでしょうね」


 単に余計なこと言われたらややこしいことになりそうだから黙ってろってだけですけどね。まあ反省してるのはいいことです。


 嘘でも何でもそれで円満解決するならそれに越したことはないのです。不都合な真実より都合のいい偽りで結構。

 本当のことを全部教えたとしていいほうに話が転がる可能性なんかないし、今度はそのせいで精神ダメージ受けた当主さんの心のケアしないといけなくなるかもしれないのでね。そればかりは叩いたり結界張ったりで治せませんからマジめんどい。



「……どうしてそんな愚かなことを!」


「その通りです。思慮の足りない真似をしました。どう責められても仕方ありません」


 できる限り無難な感じにまとめあげたでっち上げの真相を私と息子さんが語ると、当然ですが当主さんはカンカンになりました。

 息子さんの襟を両手で掴み、怒りと悲しみが半々くらいの顔で睨む当主さん。一方、息子さんはその顔を直視できないのか、顔を斜め下に向け、抑揚のない謝罪の言葉を述べています。

 母を悲しませ、しかも嘘までついてるという二重の罪悪感と、薄っぺらい演技のために見事な棒読みになっているのが、逆にこの場の雰囲気にマッチしていました。


 私としては、これは好ましい展開でした。

 怒っているということは、つまり彼女は我々の嘘を真に受け、信じていることに他なりません。見抜かれたら面倒なんですけど、一体どうなるか……という心配は杞憂に終わってくれてよかったです。


「お怒りもごもっともですが、彼も十分に反省している様子です。若気の至りと笑って許す……とまではいかなくとも、その辺でお静まりになられたほうが……」


「………………そう、ですね。客人の前でやることでもありませんものね。……シュレア、仕事にかまけてあなたの方をろくに見ていなかった私にも、少しは非はあります。なので、一度は許しましょう。けれど、二度は許しませんよ」


「はい……肝に銘じておきます。決して、二度とこのようなことは無いと誓います。骨董や呪術にまつわる事柄にも、今後関わることは致しません」


「よろしい。そこまで聞ければ、母はもう何も言いません。それと、骨董については不問にします。今回の件とそれはまた別の話ですから」


「……わかりました」


 何とか落ち着きそうですね。


「あの、か、母さん」


「どうしました? まだ何か?」


「…………い、いえ、何でもありません。なにも……」


 ……耐えきれず全部ゲロっちゃうのかと冷や冷やしましたが、思いとどまったようです。

 どうしてもやりたいっていうなら、せめて私達が報酬受け取ってからにして下さいよ、全くもう。





 ──とまあ、最後まで気の抜けない一件でしたが、ようやく終わりを迎えられるようです。


 当主さんからまた感謝の言葉をいただき、老執事さんが台車を押して持ってきた金貨のたっぷり詰まった袋を抱え、私達は笑顔で屋敷を後にしました。


「何枚くらいありますかね」


「このずっしり加減からして、三百枚はくだらないとみたな。それがあの兄さんを救った代価として高いのか安いのか、どうなのかね」


「そんなの状況や立場でいくらでも変動するんだから、考えるだけ無駄ですね。たった一人助けて貰える額としては破格だった、それだけです。いつも通り『隠匿』でしまっといて下さいな。分け前は半々にしましょう」


「今回は俺もわりと働いたからな。そのくらい貰えてもいいか」


 そうですね。同じくらいの仕事内容だったと私も思います。



 安宿に帰りがてら、ルーハから、ウィレードラさんについての話を聞きました。私とシュレアさんが相談してる間にそれとなく世間話から切り出したのでしょう。


「白い結婚……ですか?」


「ああ。そーらしい。あの息子さんの父親──シュゴル・ガルダンっておっさんは、新しい販路を広げるために、あの当主さんの家の人脈が欲しかったみたいでな。それで偽装結婚を持ちかけたらしい」


「それであの人には子供がいなかったんですか。でも、よくあんな魅力的極まりない女性に八年間も手をつけずにいれましたね」


「ほら、心臓の病で亡くなったって話だったろ? それを抑える類いの薬を以前から飲んでたそうなんだが、どうもアッチが元気にならなくなる副作用があったみたいでさ」


「それじゃ手を出したくても出せませんね」


「お触りくらいはたまにしてたらしいがな。胸とか尻とか」


 不能に近い状態でも多少はやりたいんですね。やはり男はどこまでいこうとどんな状態になろうとも男なのでしょう。



 次の日。

 思わぬあぶく銭が飛び込んできたせいで急に一杯やりたくなった私達は、たまたま見つけた酒場でほどほどに酔ってから安宿に戻り朝まで寝ました。


 起きた時には昼近く。

 酒に強いほうなので二日酔いもなく、部屋に置いてある水差しの中身を木のグラスに注ぎ、一気に飲み干します。うまし。

 飲んだ翌日の水って温くてもなんでこんなにおいしいのかしら。


 二杯目を飲みながら、この国の王都クラウダイスへ行くのは明日か明後日にしようかと迷っていると、突然部屋の扉が開き、なんだか焦り気味のルーハが入って来ました。


「あら、いないと思ったらどこに行って……」


「お前、本当にちゃんと解呪したのか?」


「どうしたんですか。したに決まってるでしょう。呪いの元となっていた骨も見せたじゃないですか?」


「本当に本当か?」


 やけにしつこいですね。何をそんなに動揺してるのかわけがわかりませんよ。


「……実はな、お前が寝てる内にあの金持ちの屋敷にこっそり忍び込んだんだ。なんだか、あの時の、兄さんの態度が妙だったからな」


 シュレアさんがつい真実を吐き出したくなったあの時ですね。


「まだ何か隠し事があるんじゃないか、ふと、そう思っちまってさ。酔いざましがてら行ってみたのさ」


「そう気安くやらないで下さいよ。犯罪ですからね一応」


 訪問と侵入が同じ意味だと思ってませんかねあなた。


「それはそうだが、俺も心配性なところがあってさ。まあとにかく落ち着いて聞いてくれ」


「あなたが落ち着きなさいな。ほらお水」


「ああ、ありがとな」


 ルーハは水差しから直に中身をあおると、一息ついてから、こう口にしました。


「あの色気凄い美人の当主さんと気弱そうな兄さんがさ」


「あの二人が?」





「昨日俺達がお邪魔してた兄さんの寝室で、ヤってた」





「ヤってた、とは?」


「ンなもんヤってたはヤってただよ。一つしかないだろ。まさかいい年して何の意味だかわからないとかカワイコぶらないよな?」


「あらー」


 やはり秘密の重さに耐えきれず暴露してしまったのか……いや、それだけではないでしょう。

 ウィレードラさんはカンの鈍い人物ではありません。それは言動の端々からもわかります。他界した夫の代わりに商売の世界で生き延びて家を守りきった方ですからね。

 恐らく、いつかはわかりませんが、私達がいなくなってから、何らかのぎこちなさを見抜いて追及したのではないかと思います。あとはまあ、勢いというか、その場の流れで()()()()()()()()()()()

 男女の間柄とはそんなものだと聖女やってた頃にリズから聞いたことがあります。

 ほんと、彼女はその手の話に詳しかったですね。下世話大好き神官でした。


「重ねて聞くが、違うんだな?」


「はい、呪いは関係ありませんよ。あなたが見たそれは当人たちの問題です。今回の件で関係に火がついたのは否定しませんが、あの二人が選んだ選択ですからね。余計な茶々は入れるべきではないですね」


「わーったよ。そこまでハッキリ言うなら俺も引き下がるわ。馬に蹴られて死にたくないからな」


「それが賢明です」


 いささかモラルに反した行いかもしれませんが、暗黒騎士である私はそれをむしろ推奨すべきですからね。それに貰うべきものはたんまり貰ったのでどうなろうと一向に構いません。

 二人とも、お幸せに。

未亡人と義理の息子のロマンスいいよね……いい……って思ったら

ブクマや星を入れてみるといいよ!

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