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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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24・恥ずべき真相

 二人だけの密室で、ひそやかに息子さんの告白が始まりました。

 神殿の薄暗い小部屋で信徒からの懺悔を聞いてるみたいですね。

 一度気まぐれでやったことありますが適当に相槌打ってたら向こうは満足してくれました。話の内容は覚えてません。なので完璧に秘密のままです。


「えぇと、何とお呼びしたらいいでしょうか」


「天才呪い師ティアラと呼んでください」


「わかりました。ティアラさん、どこまで僕と母について知っていますか」


「あの方は、あなたが十歳のときに、あなたのお父さんと再婚したと聞いています。なので血の繋がりはないと」


「その通りです。しかし、実の親子のように仲が良かったと思います。あの人は、母ネクリアに負けず劣らずの愛情をもって接してくれた、そう、強く思っています」


「なのになぜ、呪いなどに手を出したのですか」


「だからこそです」


「んん?」


 急に話の筋道がおかしくなりましたね。夢とかでよくありますけど現実にあるとは思いませんでした。やっぱり寝ぼけてんのかなこのお兄さん。


「愛されてるから自分の身を呪ったのですか」


「こうなるとは思わなかった。それなりに知識を得ていたつもりでした」


「誰かに師事することもなければ執念怨念もないのに会得できるほど、呪術とは甘くありませんよ。かじった程度でやるには危険にも程があります」


「……おっしゃる通りです」


「苦言はそのくらいにして、なぜ呪いに手を染めたか、教えていただきましょうか」


 シュレアさんは、目線を反らして唇を噛みしめると、それから……ゆっくりと大きく一呼吸しました。

 覚悟を決めたのでしょう。

 再び私と目線を合わせたその顔には、何かしらの決意らしきものがありました。


「……………………母さんを、ウィレードラさんを見て、どう思いましたか?」


「芯の強そうな、それに気品のある女性ですね。生まれ持ったものなのでしょうか」


「わかりますか。やはり呪いや妖術に携わる方は、人を見抜く眼力も並ではないのですね。……実は、母さんは他国の没落貴族の令嬢だったそうです。魔物のスタンピードで領地が大打撃を受けたのだとか」


 経営が苦しくなった実家が傾き出したことで、他家のご令息との婚約の件もなし崩しでお流れになり、その数年後、いよいよ追い詰められた実家を救うべく、なかば人身御供に近い形でこの家に後妻として嫁いできたのだそうです。


「実家がポセイダムにあると伺っていましたが……そうだったのですか。道理で優雅な身ごなしだったはずです」


「我が家からの援助で急場を凌ぎ、どうにか持ち直したといいます。その後は荒れた領地の復興に力を注いでいるとか」


「国からの助けは無かったのでしょうか?」


「無理だったらしいです。いくつものスタンピードが同時に流れてきて、ポセイダムの各地で大きな被害が出たようなので。少しはエターニアのほうに向かえばまだよかったのですが、あの国は聖女に固く守られていますから……」


 今はやわやわでしょうけどね。

 理由はもちろん、おわかりですね? あの馬鹿王子と馬鹿令嬢があんなたわ言で私を罵倒し、聖女としてのやる気を破壊したからです。

 まだこちらには噂が届いてないみたいですが、いずれは周知の事実となるでしょう。どうなっちゃうんでしょうねあの国。

 魔物にかかりっきりになって疲弊したところをこの国とか北の獣人国とかに殴られてあっさりぶっ倒れたりして。


「……母に対する印象は、それだけですか?」


「そう言われましても……」


 いやまあ、第一印象はね、息子さんに面と向かって言うのもあれですけど、やらしいなと思いましたけどね。

 肉付きとか大人の色香とか切れ長の瞳とか涼しげな笑みとか、全体的に隙のない、完成度の高いエロさだなと。女性の私でもそう思うのですから異性ならたまらないのでは。


「み、魅力的ですよね。女盛りとでもいいますか、いるだけで男を誘惑するみたいな……あっ」


 言葉を選んでいたつもりが選びすぎて一周したのか、うっかり露骨な言い回しをしてしまいました。これはやらかしです。


 息子さんに怒られても仕方ないストレートな発言でしたが、意外なことに、静かに頷いていました。まさかの同意?


「僕もそう思います」


 あららららら。


「……いつからかわかりません。ですが、最初はそうではなかった。少なくとも、あの人に対する始まりの感情は不安でした。どんな人なのか。頼っていいのか。どう接したらいいのか」


 わからないこともないです。思春期に親が再婚したらそうもなりますか。多感な時期ですからね。


「でも、次第にあの人に対して、別の思いを抱くようになりました。あなたが受けた印象と同じものです。許されざることです」


「あー……」


 いくら戸籍上は母親とはいえ、血の繋がりのないあんな若い女性が色気むんむんさせてたら、そりゃそうなりますよね。劣情のひとつやふたつもよおしますよ。

 しかも十代のヤりたい盛り。

 ひとつ屋根の下にあんな豊満ボディと何年も過ごせばそうならないほうがおかしいです。これがギルドの広間で酒飲んでクダ巻いてる奴らだったらとっくに押し倒して手込めにしてますね。後先考えないアホどもですから。


「年々その欲望は強くなっていきました。それを紛らわせるために、骨董品や呪いの研究などに没頭していたのですが、どうにも……」


「こんなこと言うのもどうかと思いますが、夜のお店とかは?」


「実は、何度か行きました。ですが、しばらくは収まるものの、やはり母への情欲は消えることなく、くすぶり続けるばかりでした」


 覚悟を決めて喋ったことでタガが外れたのか、息子さんは恥をしのんで滑らかに心中を吐露してくれています。

 しかしどうしましょうね。こんなこと当主さんに素直に伝えていいのかしら。どう穏やかに説明すべきか今から頭が痛いです。


「そんな中、ある書物を町の古物商から入手したのです。人の悪意や欲望を切り離すという呪術が記された本を」


「なるほど、オチが読めました。それを用いた結果、欲望だけでなく、生存への欲求まで切り離してしまったと」


 息子さんは黙って頷きました。

 何のこともありません。蓋を開けてみれば単なる半可通の自滅です。

 下手に才能があったために被害が大きくなってしまったのでしょう。そういう意味では正しく学んでたら一人前の呪い師になれたのかもしれませんね。



「では、この壺の中身を消しても構いませんね?」


「お任せします」


 許可も出たのでそうします。

 壺の中に手を伸ばし、呪いの触媒である、息子さんの血が付いた小動物のドクロを取り出し、浄化魔法をかけました。


 血の跡が消え、まとわりついていたモヤが薄くなり、サッと散っていきます。

 残ったのは、ただの小さな頭蓋骨のみ。捨てるのも可哀想な気もするので、後からどっかに埋めてあげましょう。


「終わりました」


 正式な呪いではなかったから私でも楽に浄化できたのは不幸中の幸いでしたね。出来なければ力ずくとなってたところです。



 後は、当主さんへ事の次第をお伝えしたら完了なのですが、ここは私とこの息子さんの内に仕舞うことにして『つい面白半分に試してみたら大事になった』で口裏合わせましょうかね。

 言えませんよね。あなたがスケベすぎたからだなんて。

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