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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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23・犯人の正体

「あぁ、シュレア! よかった、本当によかったわ!」


 まだ意識はおぼろ気ですが、現状をどうにか理解はできているらしく、息子さんは自分を抱きしめる母親に困惑しながらも抱きしめ返していました。

 見ているだけで心温まる抱擁ですね。私の両親とはえらい違いです。



 ──流浪の冒険者くずれだった両親に「お前はここで待ってなさい」と言われたので孤児院の前で大人しく待ってたら二日経っても戻って来なかったのでそのままご厄介になった九歳の春。

 結局、両親は私を連れ戻しに現れることはありませんでした。


 二人の死を知ったのは、それから四年後のこと。

 ポセイダムから西の大陸に向かう船が巨大なタコの魔物に襲われ沈没した事件が起きたらしく、生存者はゼロ。一人残らず海の藻屑となったその船に、私の両親が乗り合わせていたのだそうです。

 なぜわかるのかというと、たまたまその船が襲われているところに出くわした他の船の船員が、その光景を目撃したのだとか。最初はその船員達の仕業かとも思われましたが、交戦した形跡も()()()もなかったので無実となりました。

 で、偶然前日に酒場で相席になった冒険者に二人がベロベロになりながら語ったのが、「これから船で西に行く。あちらの魔物は倒すと魔石ってのを落とすそうだから荒稼ぎしてやる」「娘がいたんだがエターニアの孤児院に預けてきた。たくさん稼いだら連れ戻しに行きたいもんだ」という、笑ってしまうくらい身勝手な理屈だったとか。

 真面目に働けやと言いたいですが冒険者ですからね。こんなものです。

 むしろ、旅のついでにエターニアの孤児院を巡り、わざわざ私を探して両親の最期を教えてくれた冒険者さんが律儀にも程があるといえるでしょう。私ならやりません。

 そんなダメ冒険者のカップルの子として生を受けた私が親を反面教師にするどころか、聖なる力に目覚め、それを活用して冒険者になったのですから、やはり血は争えないのですね。


 ルーハもあの若さで冒険者の道をひとり選んだのですから、普通の生い立ちではなかったと思うのですが、


「俺の産まれ育った国は遠い遠いとこだよ。とてもね。みんな豊かな生活を送れてて、争いとは無縁な国だった」


 こんな嘘っぱちの情報しか出さないのですから推測すらろくにできません。この世のどこにそんな楽園みたいな国があるっていうんですか。

 「ならあなたはそこから追放されたのですか?」と問うと、彼は「いや、代理でこっちに来たんだ。本来やるはずの奴がお亡くなりになってね」なんて、要点をひた隠しにした曖昧な説明で煙に巻くのです。歩く倉庫みたいなあの悪餓鬼はきっと何一つとして真実を語っていないのでしょうね。(元)聖女相手にいい度胸です。



「……シュレアの心と正気が再びこの世に戻ってくる日を、どれだけ待ち望んだことでしょう。貴女はシュレアだけでなく、ガルダン家の未来まで救ってくれました。どれほど感謝してもし足りません」


 喜ぶだけ喜んで冷静さを取り戻した当主さんが、涙に濡れた顔を隠しもせず私達に感謝の言葉を述べています。

 それより報酬くださいな。解決したはいいがタダ働きの上に焼き討ちはもう勘弁ですよ……って、何か忘れて……


 ……ああ、そうでした。

 解決などしていません。肝心の犯人追及がまだ終わっていないのです。

 放っておけばまた似たような事をやる可能性は非常に高いでしょう。何とかこの壺から手がかりを見つけ、犯人の息の根を速やかに止めねば。


「 息子さんがお目覚めになられたのは喜ばしい事ですが、ちょっと見てもらいたいものが……」


 ルーハは、目配せしたり命じたりするまでもなく、すぐさま手元の壺を当主さんにお見せしてくれました。気が利きますね。


「それは……」


「あの、触れたりはしないで下さい。封じ込めてるとはいえ、まだ呪いの元が中にあるのでね。何かの弾みで漏れ出してあなたに取りついても困ります」


 私の封印にそんな穴などないとは思いますが念のため言っておきましょう。万が一がありますもの。


「呪い……? 言っている意味がよくわからないのですが……まず、なぜあなた方がそれを?」


 当主さんが小首をかしげ、見覚えがありますよと言わんばかりの反応で壺をまじまじと見ています。


「どういう事でしょうか。まさか、これをご存知なので? 大事な品物だったりするとか?」


「いえ、そこまでの品ではありません。そう古い時代のものではないので、せいぜい金貨三十枚くらいの価値です」


 結構な額じゃないですか。それだけあれば一年は何もしなくても生きていけますよ。


「息子さんの呪いはこれから飛び出て取りついていたんです」


「そんな馬鹿な!」


 口に手を当て、あり得ない、どうしてそれがと、当主さんは動揺するのみです。


「なぜそこまで驚くのですか」


「それは、シュレアが昔から気に入っていた壺なのです。骨董好きな子でしたので。けれど半年ほど前に、見飽きたといって、屋敷の裏にある倉庫にしまったはず……」



「違います」



 透き通った声。

 上品そうで弱々しい、ガラスのような声。

 ベッドから上体を起き上がらせた、息子さんの声でした。


「違うとは、いったいどういう事でしょう」


「……倉庫にしまった事が、です。それは真っ赤な嘘です。僕が、自らの愚かな行いを誤魔化すための」


「何を誤魔化したのでしょうか。どうしても言いたくないのであれば聞きませんけれど。依頼人の息子さんの意見ですからね。尊重しましょう」


「……………………」


 息子さんはうつむくと、シーツを握る手に力を込め、ぐっと何かを堪えるように動かなくなりました。

 え、また意識なくなったのでは…………大丈夫でしょうか。


「──その壺に術をかけてから、埋めたことをです」


「「「…………え?」」」


 何を言ってるのか理解するのに、しばしの時を消費しました。

 自分で自分を呪った? 手の込んだ自殺がしたかったのですか? まさかまだ朦朧として正気になってないのでしょうか。


「その……もしよろしければ、まず私だけ先に話をお聞きしますが、いかがですか?」


 誰からも異論は出ませんでした。



 隣の部屋で当主さんとうちの助手が待機して、残っているのは私と息子さん、そしてこの呪いの壺のみです。


「…………半年も眠っていたのですね、僕は……そんなことになるなんて……」


「その話から察するに、何か手違いが起きたようですね。……私はこれから聞く話を他言することはありません。誓いましょう」


 それを聞いていよいよ踏ん切りがついたのか、息子さんは、ぽつりぽつりと、小石を池に落とすように語り始めたのです──

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