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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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22・呪いの元を断て

「この方が息子さんですか」


 ベッドに横たわる、シュレアと呼ばれたその男性の姿は、ハタチ前後くらいに見えます。

 もっと若い子を想像していたのですが……ルーハより年下どころか、私とどっこいどっこいかもしれないとは。これは意外でした。


「──親子にしては歳が近すぎる。そう思ったのでしょう?」


 私の心を読んだかのように、当主であるウィレードラさんは息子さんの頬を撫でながら振り返りもせずにそう言うと、事情を説明してくれました。


 この子は先妻・ネクリアの息子で、自分とは血が繋がっていない。

 今年で二十歳になる。

 先妻はこの子が六歳の頃に病に倒れて亡くなり、自分が後妻となったのはその四年後のこと。

 当時、夫のシュゴルが三十五、自分が二十四。

 それから八年間は何事もなく、後妻である自分とこの子との関係も良好であったが、夫である先代当主が心の臓をわずらい急死。

 亡くなった夫の代わりに当主となり、てんやわんやになりながらもガルダン家を切り盛りして、ようやく平穏が戻ったと思われたのだが……


「半年前のある日を境に、この子は……シュレアはベッドから起き上がるどころか、意識すら目覚めなくなったのです。揺さぶろうが呼びかけようが……」


 気丈に振る舞っていた当主さんの声に、震えが混ざっていました。

 たとえ血が繋がってないとはいえ、八年も一つ屋根の下で親子の間柄でいれば、やはり情も湧くものなのでしょうね。


「事情はわかりました。確かに病にしては唐突すぎるし、決して目覚めないのは異様ですね」


 病でないなら毒でも盛られたのかもと思いましたが、それならば、わざわざこんな安らかな効能は使わないでしょう。致死性のものを選択しますよね。

 仮に眠りの毒だとしても、半年以上も効き続けるなんてあり得ません。


 やはり呪いですね。方法や理由まではわかりませんが。


「ツテを頼りに、離れた町の高名な神官をお呼びしたのだけれど、事態を解決するどころか逆に失神してそのまま治療院送りになったわ」


 その神官は今もほとんど寝たきりだとか。かわいそう。


「それで、私のような者にお声を」


「真っ当な手段ではこの子を救えないと、そう判断したのです。……ああ、気を悪くなさらないでね」


「いえいえ、我が術が正道ではないのはこちらも百も承知でありますから。どうぞお気になさらず」


 本当は聖女まで務めたこともあるのでド正道なんですが今は暗黒騎士(闇の力などろくに使えぬ単なる自己申告)なので脇道にそれてる気もしますけど、深く考えると混乱してきますから一時忘れましょう。


「それでは儀式を行いますので、この部屋から退出して下さい。最悪、周りを巻き込む恐れもありますからね」


「わかりましたわ。…………どうか、シュレアをお願いいたします」


 深々と一礼すると、当主さんは息子さんの寝室から出ていきました。



「さて、厄介なことになったな」


 ドアが閉められ、十秒ほど待ってから、ルーハがぼやきました。


「楽しそうに見えますけど?」


「あんたにとっては厄介でも俺にはそうじゃないからね、今回の件は。それでどうするんだ? 勝算がないわけじゃないだろ?」


「ないもなにも、あなたの『隠匿』でこの人の呪いを保存してくださいよ。それで済む話です。意識が無い相手からなら問題ないのでしょう?」


「お前が解呪したらいいだろ」


「無理ですよ。どっかの町の有名な神官さまでさえ撃退されたのに私にできるはずが」


「聖女が何を泣き言こいてんの? 自己評価どん底系主人公かよ。いいからやってみろって。ものは試しだ」


「……そ、そこまで言うなら一応やりますか」


 失敗しました。

 その反動でしょうか、呪い(やはり呪いでした)がこちらに牙を剥いてきました。

 これがあるから解呪って面倒臭いし誰しも二の足を踏むんですよ。虫を叩き潰そうとして得物を振り上げた瞬間顔めがけて飛んできた感じですね。


「あの色っぽい当主さんを追い出しといて正解だったな」


 瞬時に飛んできた呪いをスキルでしまいこむその手早さに、私は内心で舌を巻いていました。盗賊に見えるものではないはずですがどうやってるのでしょうか。

 まあ、風や光や魔法すら保存できるイカれたスキル持ちに、何を今更とは思いますけどね。


「でも、手応えとしては、そんなに厳しいものは感じられませんね。何度もやれば成功しそうな気もします」


「で、その度に俺がキャッチするのか? ならもういいよ。俺がそこの兄さんから悪いものをちょいと拝借するさ」


「最初からそうすればいいんですよ。全く面倒な子ね」


「んだとコラ」



 不満そうにぶつくさ言いながら、ルーハが眠りについたままの息子さんに寄って、手を伸ばしました。


「よっ」


 実体の無いよからぬ雰囲気とでも言うべき何か──呪いが、息子さんから引っこ抜かれていきます。


「お見事」


ぱちぱちぱち


「なんか馬鹿にされてるようでいまいち喜べないな、その拍手」


「ひねくれたこと言わないの」


 何はともあれ「これで後は報酬いただくだけですね。案外楽な仕事でした」と思っていた、その時、



シュオオッ……



 煙草の煙をまがまがしくしたような何かが、窓をすり抜けて部屋の中に入り込んで来ました。


「あら」


 新手の呪いです。どっから来やがったのでしょうか。

 雰囲気的に、そこのベッドの主に取りついていたのと同種のようですが……しかし、来るの早すぎませんかね。外でスタンバイしていたとしか考えられないんですが。


 まあ同じなら対処も同じです。

 シュレアさんの上で数回くるくる回ってからその胸元に吸い込まれるように入っていった呪いをルーハが没収。同時に私がこの部屋に結界を張ります。悪しきものは出禁になりました。


「……どうしました? もしや、もう終わったとでも……」


「ちょっとお待ち下さい。原因が掴めそうなので。それと、まだこの寝室には入らないでもらいたいのです」


 当主さんに簡素な説明をしてから私達は外に向かいました。



 二階にある息子さんの寝室。その部屋の窓が見える庭に出てみると、困惑したように窓の前でぐるぐるしてる灰色のモヤがいました。

 取りついていない状態なら消すのも簡単です。その汚い呪いをフッ飛ばしてやる。

 私が光の矢を打ち込むとモヤはただの一発で消滅しました。


「おっ」


「そこですか。やけに次が早いと思ってましたが、やはりね」


 私が呪いを滅ぼした二十秒くらい後に、庭に生えている大きな木の根元辺りから、また新しい呪いが漏れ出てきました。


「よく見たら、だいぶ前に掘り起こして埋めた形跡あるな……」


「スコップあります?」


 生まれたばかりの呪いを打ち滅ぼしながら在庫について聞きました。素手で掘るのはお断りですからね。


「あるぞ。冒険者やってると意外と掘ったり埋めたりするからな。必需品とまでは言わないが持ってると重宝する」


 ホント何でもありますねルーハ商店。


「それじゃあなたが掘って下さい。私は射らないといけないので手が離せません」


「あー、しゃあないな。わかったよ。……浅いところに眠っててくれたらいいんだがな……」


 私が淡々と光の矢を放ちルーハが淡々と掘っていくと、1メートルにも満たない深さで高そうな壺が顔を見せました。これが原因ですか。

 誰が埋めたかはともかく、早速無力化してしまいましょう。


「永眠の災いよ、この中から世に出てはならぬ。我が許しと天の許しなく、姿を晒すことはかなわぬものと知れ……」


 骨董品に封印魔法かけるなんて初めての経験ですが、閉ざされた領域を封印するのは慣れたものですから特に問題なくできました。

 迂闊に壊すと何が起きるかわかりませんからね。だいたいは呪いをかけた張本人に返っていきますけど、私達の知らない場所で死なれたり再起不能になったら真相が解らずじまいなので、今はこのままにします。



 さあ、まずは当主さんのところへ戻りましょうか。

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