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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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21・呪われた子

(まずまずの大きさですね)


 屋敷を眺め、どのくらいのお金持ちなのか推測します。

 大きさは並程度。どこの町にも一軒はこれくらいの豪華な建物があるものです。見た感じとしては近年建てられたようではなく、年期がなかなかありそうなので、今の当主が一代で財を成したのではなく何代か続いている家系でしょう。

 屋敷を囲む壁や正門にヒビや汚れがないので、そこまで手が回らない──内情が火の車といったこともないと思います。見栄を優先してるだけかもしれませんが……。


 そんな歴史ある商売人のおうちが切羽詰まっている。間違いない事実です。

 どこの誰かもわからぬ怪しげな者に頼み込むほどですからね。それはつまり、あらゆる手を尽くしても望むべき成果が得られなかったことに他なりません。金の力の限界です。


「来たわけですが」


「何だよ、問題でも発生したか?」


「私は呪い師なんかではありません。冒険者をやっていた可憐な赤毛赤目の僧侶ちゃんが聖女として選ばれ、そして暗黒騎士へと変貌しました」


「基本的に肩書き以外ほとんど変わらんな。いや、今また冒険者やってんだから、回帰したと言うべきか。おかえり」


「ただいま。この屋敷の主人が求めているのが呪術的な解決だとしたら、私に出来ることなど皆無だなと思いまして」


「解呪方面の頼み事ならお前さんの専門になるんじゃないか?」


「商売仇に呪いをかけてくれとか言われたらどうします? もしくは呪われたから呪い返してほしいとか」


 ルーハはしばし悩んだ後、あっけらかんとこう言いました。


「申し訳ありませんが、私の力ではかないません。あちらには余程の術者がついている様子。手を引かせていただきたい……とか適当ぶっこけばよくね?」


「よくもまあそんな白々しい言い訳がペラペラと」


「感心したか?」


「呆れてるんですよ、その二枚舌に」


「秘密にしてたが、実は三枚あるんだぜ」


「それだけ口がうまいのに、あのあばら家を宿だと言い張っていたお婆さんに毎回言い負けてたんですよね」


「あんな妖魔みたいなババアにお喋りで勝てねーよ。舌が十枚くらいあってもおかしくないぜ…………おっ、おいでなすったな」


 正門であーだこーだとわめいている私達の姿が見えたのでしょうか。大声は出してないので、うるさくはなかったと思います。

 見覚えのある白髪の執事さんが、屋敷の入口からこちらにやってくるのが見えました。


「ようこそいらっしゃいました。ご当主さまも首を長くしてあなた様が来るのをお待ちしております。どうぞこちらへ……」


 こうなったら後には引けません。

 呪い師としての名前は、えぇっと、そうですね……………………そうだ、ティアラっていうのはどうでしょう。

 これから私は新人呪い師ティアラです。逆らう奴らは一人残らず呪い殺しちゃうぞ(はぁと)。


 老執事さんに偽名を名乗り、ルーハはまだ名乗ることを許されない助手の身分ということにしておきました。

 念のためローブを着込み、フードを深くかぶって素顔をわかりづらくしています。安宿のロビーでルーハは顔を見られていますが、逆に言えばこのお爺さんさえ口封じできれば彼の面は割れません。今回の件の流れ次第では、老執事さんに恨みなどありませんが最悪()()()()()()になるでしょう。



「失礼致します。呪い師様をお連れしました」


「そう。ご苦労でしたねローゼス。──はじめまして。私がこの屋敷の主人である、ウィレードラ・ガルダンです」


 高そうな絵画や壺とか置かれた応接室にて待ち構えていたのは、葉巻ふかした太った中年男性──ではなく、三十代半ばくらいの気品ある金髪女性でした。いかにもやり手のマダムという風情です。


「ご招待いただきました、しがない呪い師のティアラと申します。こっちは助手で、まだ未熟ゆえ名を名乗ることはできません。ご容赦を」


「構いませんよ。私が必要としているのは呼び名ではなくあくまで実力なので」


「どうやら、まどろこしい話はお嫌いな方のようですね。では単刀直入にお聞きしましょう。どのような難題を抱えてらっしゃるのですか?」


 わずかに女性の顔が強張りました。



「何者かが息子にかけた呪いを解いてもらいたい。それが私からの依頼です」



「息子さんにかけられた呪いとは、また穏やかではありませんね。誰かの恨みを買ったのですか?」


「心当たりはないわ。……もっとも、恨みというものは的はずれな理由や身勝手な逆恨みもあるので、こちらとしても完全に把握するのは困難ね」


「……あまりこのようなことは聞きたくないですが、身内のやらかしの可能性は?」


「夫であるシュゴル・ガルダンは既に他界しており、近しい親族も、西のポセイダム王国に私の父方の実家があるのみですね。そちらとの関係も良好よ。夫には弟が一人いたけれど、とうにこの世を去っているわ」


「なるほど。では息子さんが何かの怒りに触れた、もしくは何か呪われた品に手をつけた……その線はいかがでしょうか?」


「……あの子に限って、そのような無茶や愚行を犯すとはとても思えないけれど……」


 埒が明かないですね。だからこそ呪い師なんかに頼るしかなくなったのでしょう。


「──わかりました。心当たりがあればそれを排除したらいいのですが、現状では絞り込みは無理のようですね。では、実際に息子さんにお目にかかることにしましょう」


「わかったわ。私についていらして」



 肉感的な女主人の後ろ姿。

 私達はドレスの上からでもわかるその豊満な身体を黙って見ながら、後をついていきます。


(程よく熟れた淫魔(サッキュバス)と言われたら誰でも納得しそうですね)


 とんでもなく失礼な話ですが、しかし女性の私でもそう思えてくるくらい、目の前を歩いている屋敷の主は色気に溢れていました。隣のルーハが変な気を起こさないか心配になるほどです。


「……凄いエロいからって血迷ったら駄目ですよ?」


 小声で釘を刺しておきます。まだ十七の若者ですからね。ケダモノにあっさりなりかねないのがこのくらいの年代の男の子です。


「人を何だと思ってやがる」


「性欲に翻弄される年頃かと思って」


「そこはまあ、それほど間違ってもいない。俺だって男だからな」


 その割には、私に対して、なんというか……そんな目を向けませんよね。平然と一緒に水浴びしたこともありますし。

 彼の彼はなかなかのサイズだったのを覚えています。といっても他の比較材料を知らないので平均がどんなものだかわからないのですが。

 少しは私の裸体に見とれるかなと思ったら「脇も下もふっさふさだな」とか笑って抜かしやがったんですよねこの野郎は。飛び蹴り一発で済ませるべきではなかったと今でもあの時のことを悔やみます。


「ここです」


 過去の憤りを甦らせているといつの間にか目的の部屋に来ていました。


「私です。入りますよ、シュレア」


 ノックもせず、中からの返事も待たずに彼女は扉を開けました。さあ、どんな子がいるのやら。

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