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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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18・流葉

気がついたらもう5万字くらい書いてるのに

いまだにスローライフのきっかけすらない哀れなクリスティラ

 どこに向かっているのかさっぱりわからぬままのんびり運ばれていく、川の流れに己を委ねる葉っぱみたいな状況の私と相棒。馬車の持ち主が言うように、この道をひたすら進めばいずれはこの国の王都にぶち当たるのでしょう。


 しかし、そこまで行くのはあまり気乗りしません。

 人の多い賑やかなところで暮らせば、私の正体を知る者や、素性を探ろうとする物好きがいずれ現れるのは避けられないことです。

 バレたところで、無理やり樽に詰められ塩漬けでエターニアにお届け……とはならないと思いますが、密やかなスローライフがしたいのです。騒がしいのはもう飽きました。


 そこでこの暗黒騎士スタイルです。


「迫力と威厳で一目置かれることで、程よい静かな環境ができるって寸法なのですよ」


「距離を置かれて弓矢で射られる状況の間違いだろ」


「誰がなんのためにそんな非道を」


「その理由は今までに何度か説明したはずですがもしやお忘れか?」


「またそれですか」


 しつこい人ですね。

 宿を求めて訪れた村が偶然、狭量で残忍な人々の巣だっただけじゃないですか。

 いつまで済んだ事を引きずるのでしょうねうちの盗賊ボーイは。全部綺麗さっぱり灰になったんだから忘れたらいいのに。仮にまた同じようなことがあっても、精霊様が助力してくれますって。


「せめて季節の変わり目とかにやるくらいなら助かるんだけどな」


「なんで?」


()()()()時期には()()()()人が増えるからさ。春先とかな。普段の言動がまともなら、温かい……とまではいかなくても、生温い目で見てもらえるだろうしな。後は周りの寛容さに期待だ」


「私としても絶えずこの姿でいるわけじゃないですけど、でも基本はこれでいく所存ですよ?」


「そこは譲れないのか」


「なんのために名乗ってると思うんですか。けじめですよ、けじめ。もう神殿には帰らない、今後あの国がどうなろうと構わないという決意なのです」


「……なら、周りとの激突は免れないぞ。逆らう者を残らず恐怖で従えて抵抗する気概を根こそぎ奪い取るか、あるいは誰も来ないようなダンジョンの最深部で石床でも耕して過ごすかだ」


「そこまで悲観しなくてもいいと思いますよ。それにもしあなたの言い分が全て正解だったとしたら、その時はまた別の国に行けばいいだけのことです。大陸は広いですもの。暗黒騎士にも笑顔を向ける友愛に満ちた地域がいつか見つかるはずです。私はそう信じてます」


「……その格好やめたら即座に解決するってのに……ガキの駄々みたいな決意なんぞ捨ててくれねーかな……」


 またボソボソ何かぼやいてますね。ほっときましょう。





 船じゃないんだぞってくらい波打つ幌馬車にシェイクされること数時間。

 そこらの街道の脇で野宿でもやることになるかなと思ってましたが町につきました。


「ここがベーンウェルの町だよ。ここ一帯の地域だと一番でかい町さ。だから活気も一番ある。当然、揉め事もだがね。へひゃっひゃっひゃっ」


 行商人のおじさんはこちらが聞く前に先んじて解説してくれました。年配の方というのは若者にあれこれ教えたがるものですからね。

 それはありがたいのですけど、砕けた物言いと親切な態度なのに笑い方は下卑た感じなのが、なんか複雑な気分になります。



「こんなところまで乗せていただき感謝します」


「おう、元気でな。あんたの活躍を期待してるよ!」


 やはりこの国で何かが始まろうとしているようです。そんな予感を含んださよならの言葉を交わした後、私達は行商人さん達と別れていつもの二人旅とあいなりました。



「おい見ろ」


「言われなくてもわかってますよ」


 町の中央付近にある公園。

 噴水のまわりにいくつも設置された大きな石の彫刻、そのひとつにもたれているヤバいのがいました。


 鷲のような被り物で頭をすっぽり覆った怪しすぎる人物です。いや、被り物ではなく獣人族なのかもしれませんが。

 首から下は普通の冒険者っぽい軽装なのが逆に気持ち悪さを加速させています。

 背には柄の部分がやけに長い剣をかついでいました。こんなの使うくらいなら槍でいいだろと言いたくなるほど微妙な長さ。特注でしょうか。


 関り合いにならないようにしましょう。

 あの邪神官の仲間だったら嫌ですからね。こんな場所で魔物とか呼び出されても目立って困りますし、それを一掃したらさらに目立ちそうでもっと困ることになります。さっさとここを離れましょうか。


「うわぁ」


 さりげなく公園から立ち去ろうとした時、さらにおかわりが来て、思わず喉から「お腹いっぱい」の声が出ました。


「怪人鷲男の次はバニーガールかよ」


 ルーハが笑いながら言いました。


 真っ白な兜の頭頂には二本の長い突起がついており、まさに兎の耳を模したものでした。

 鼻から下は露出しており、そこだけでもかなりの美女だとわかるくらい整っています。口の左下辺りの黒子がまた何とも言えない好色な雰囲気をかもし出してますね。年下の男の子とか好きそう。偏見ですが。

 衣服は一言で喩えるなら踊り子という感じ。上は胸元の開いた袖無しで、下はスリットの深いスカート──ここまでくると前垂れと後垂れにしか思えませんが──を着て、色気をぷんぷんさせています。

 ですが腰のレイピアは余計な装飾などない本格派です。明らかに使い込んだ感があります。その鋭く細い刃で一体いくつの命を貫いてきたのでしょうか。


「お久しぶり、ゲドック」


 周囲の視線を集める二人。

 兎女が、鷲男に声をかけました。


「……馴れ馴れしく呼ぶな、シファーレ」


「その割には私のことも名前で呼ぶのね。変な人。そんなことより……わざわざ山から降りてきたってことは、出るんでしょ?」


「無論だ」


「なら一緒に行きましょうよ。私も同じだし、お互い積もる話もあると思うから」


「断わる。俺は孤独が好きなんだ」


「またつれない事を言うのね。ほら、行きましょ行きましょ?」


「おい、腕を絡めるな。引っ張るな……わかった、わかったから」



 変人二人は女性側がエスコートする形で去っていきました。会話だけ聞いてると思春期のカップルみたいでしたね。

 しかし……


「ま、あれだな。あの野菜屋の親父が言っていたのと関係あるだろうな」


「おそらく、何かしらの催しがあるのでしょう。詳細まではわかりませんが。で、私はそれの出場者だと勘違いされた……なんかこないだから勘違いされっぱなしですね」


「聞き込みしなくていいのか?」


「別にいいでしょ。そんなの出ませんもの」



 薄々気づいている方もいるかもしれませんが、出ることになります。私もなんとなくこれまでの巡り合わせを回顧するにそんな予感がしていましたし、やはりルーハも同様に予感していたそうです。

 出場理由についてですが、それは後ほど語りましょう。

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[一言] 怪しい服装の読者「わしの出番は、まだかのう。ヒャハハハー」
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