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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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17・人の縁に恵まれない私

 不当な迫害を受けた私こと暗黒騎士クレアは、自滅の村を離れ、土地勘の欠片もない地域をさまよっています。


 人や馬の往来によってかろうじて靴や蹄で踏み固められている道を何も考えずに歩き、良さげな町や村との出会いを待つばかり。

 そんな都合よすぎる出会いなんかねーよ目を覚ませとほざく相棒の頬をひねりながらも歩みは止めません。諦めたらおしまいです。諦めなければいつか夢は叶います。

 そのいつかが来る前にお迎えが来るほうが大半なんだよ目を覚ませとほざく相棒の反対の頬をひねりながらも前に進みます。絶望には屈しません。希望を胸に宿して生き続けるのです。

 しつこくまた余計なことを言うと今度は()をひねりますからねと釘を刺したおかげで黙り込んだ相棒と共に旅は続きます。



「言いづらいんだが……その格好、やめたらどうだ?」


 そろそろ休憩してお昼ごはんにしようかなとか考えてると、心なしか内股気味にルーハが聞いてきました。防御重視の構えでしょうか。


「またお馬鹿なことを」


「あのなクリス」


「クレアです。慈悲深き暗黒騎士クレア。そしてあなたは盗賊リューヤではなく盗賊ルーハ。お忘れですか?」


「……クレア、落ち着いて聞いてくれ。にわかには信じがたいだろうが俺の意見のほうが正論なんだ。あの村の連中の対応を覚えてるだろ?」


「昨日の今日で忘れませんよ」


 危うく蒸し焼きにされるところでしたからね。結果的にあの方々が逆に黒焦げになりましたけど。

 唯一例外だったのは地面にめり込むようにぐちゃぐちゃになっていた村長だけです。多分慌てて転んだか誰かにぶつかり倒れたとこらを、パニックを起こした村人たちに足蹴にされたのでしょう。まさに踏んだり蹴ったりですね。


「あれが普通なんだ。その邪悪な風体で友好的なコンタクトをとっても、きっと何か企んでると判断して排除しようとするのが当たり前なんだ。みんな気味悪がってるんだ」


「たまたまでしょ」


「人が人を生きたまま焼こうとするのはよほどの事なんだ。たまたまで済む事ではないんだ」


「そこまで真剣に言われたら、ちょっとは私も揺らぎますね」


「わかってくれたか」


「ならまた今度似たような迫害を受けたら、少しは前向きに善処しましょう。それは約束してあげます」


「政治家か貴様は」


 さて、話し合いも和やかに終わったことだし、ランチランチ♪

 ルーハの顔が険しいですが多分お腹すいてるせいでしょう。胃が満たされたらいつもの脱力系の顔に戻ると思います。



 新鮮な野菜と肉汁溢れるお肉を挟んだサンドイッチを頬張り、モグモグします。


「美味しいですね、このソース。甘辛くて、それでいてしつこくない」


「ああ、仕事ないときに、ギルドの受付の姉ちゃんから教わったんだ。暇だったんでな。それに俺流のアレンジを少々加えた」


「そうだ、忘れてました。あなたって意外と料理得意だったんでしたね」


「俺が料理得意って……そんな得意ってほどでもないだろ。お前が不得意すぎなだけだ」


「んぐっ」


 人の気にしてることをよくもさらりと言いましたね。


「誰にだって、苦手なものの一つ二つあるんですよ。それをつついても仕方ないじゃないですか」


「前に風の噂で聞いたが、ポーション作りや装備品への聖なる加護も微妙だったらしいじゃないか」


 チッ、知ってましたか。


「国一つ守護してる聖女にそんな下働きみたいなことやらせるのがおかしいのです」


「それはまあわかる。けど腕前の悪さとそれはまた別の話だ。なんでお前って防御魔法は超がつくほどなのに他はそこそこなのかね」


「治癒系も凄いですよ?」


「だな。まんべんなく中の上ってよりは、そのくらい得手不得手がはっきりしてんのが逆にアリかもな。器用貧乏より一点突破か」


「ふふ、わかってるじゃありませんの。流石は私の相棒ですわね」


「けどよ、ゆったりのんびり生活やりたいなら、多少は苦手分野もこなせるようにならないとな。ポーションの品質はどんなもんだったんだ?」


「……………………一級品と二級品の、中間くらい、かな」


 目が泳がないように気をつけながら話を続けます。


「これがねぇ」


 ルーハが右手をくるりと動かすと、見覚えのある色合いのポーションが出てきました。


(持っとるんかい)


「半年ほど前にギルドに持ち込まれたはいいが、ろくに買い取り手がつかなくて受付の姉ちゃんが困ってたからよ、懐が暖かかったからつい何個か買ったんだ。それと、お前のお手製だって話だから、昔のよしみでな」


「ギルドに払い下げされてたの!? あんなところに!?」


 聖女だったんですよ私。そんな私の端正込めた癒しの霊薬をよくも乱暴者と怠け者の巣に流してくれましたねあの腐れ神官どもマジ許せない。滅びろ神殿。


「あんなって……いや、確かに真っ当な生き方してる奴はほぼいないが……」


「あるかないかもわからないお宝探しや命懸けの魔物退治で日銭を稼ぐ生活が真っ当なわけないでしょ」


「否定はしないしできないけどよ、そんな問題のある奴らさえ跨いで通るようなポーション作る奴が何をぬかす」


 ルーハの放つ言葉のナイフがぐさりと脳に刺さりました。

 こまった……ちょっとはんろんできない……


「仕事終わりに一度使ってみたけどよ、数時間休んだくらいの体力回復しかしなかったな。顔見知りの冒険者に聞いても「値段の割りに効果そこそこ」「足元見てんのか壁聖女」って具合だったか。実際ギルドでもさらに値段下げてやっとハケてたしな」


「ぼったくりなんてしてないのに……」


「費用と効果が見合ってないんだから言われても仕方ないだろ」


「なら最初からやらせるなって話ですよ。先代の聖女様はポーション作りも一流でしたから、クリスティラ様もこのくらい容易いでしょう? なんて抜かして作り方も教えてくれなかったんですからねあのおばさん神官」


 思い返すだけでムカつきますね、あの下膨れのしたり顔。


「そうなのか?」


「こっちはポーションどころか傷薬すら作ったことないんだから分かるわけないですと詰めよったら、案外素直に教えてくれましたがね」


 それでも素人が聞きかじりの知識で作れるはずもなく、最初の頃はほとんど手探りに近い形で悪戦苦闘していました。


「で、その努力の成果がこれ、と」


 青い液体の入った小瓶をもてあそびながら、ルーハが難しい顔をしています。


「一年以上も作り続けてきたんだから、少しはまともなものが作れるようになったと思ったんですけどね……」


「んー……甘めに見積もればなんとか二級品って感じかな、俺の見立てでは。師事する相手に恵まれていれば、もっと効果のあるものが作れてただろうに」


「そうですね。たとえば、錬金術師か神官か、あるいはポーション職人が窮地に陥ってるところに居合わせて、助けたお礼に優れた技術を……みたいな?」


「すると、みるみる才能が開花して、やがて大陸屈指のポーションの作り手に……ってか?」


「そんな出会いがあればねー」


「あればなー」


 二人してハハハと笑って空を仰ぎました。雲のほとんどない、よく晴れた空です。





「おや?」


 雑な道がやっとまともに整備された街道に合流して、これをそのまま辿れば町とかにぶつかるだろうと喜んでいたら、幌馬車が魔物らしきものに襲われてるところに遭遇しました。


「これはもしかして、もしかするのかしら」


「はっ、そんな都合いい出会いがあるはずないだろ」



 ありませんでした。


 名称もよくわからない犬みたいな魔物を蹴散らして幌馬車の持ち主を助けたお礼に、町まで乗せてもらうことになりました。なお持ち主は野菜の行商人さんです。

 自分と使用人だけでも倒せたが、助けてもらったのは事実だから、よかったら乗ってきなと言われたので好意に甘えることにします。内心では、ぬか喜びさせやがってという逆恨みじみた怒りが込み上げていましたが。

 しかし、世の中なんてそんなものです。都合の悪いことはちょくちょく起きても都合のいいことはまれにしか起きません。


「こんな見た目だけど善良なんで怖がらないで欲しい」とルーハが余計なことを言うと、行商人さんは「わかってるわかってる。その格好でこっちから来たってことは、王都に向かうんだろ? そうか、今年はついにその年かぁ」と、よくわからない返しをしてきました。

 あと使用人さんはどこか怯えたような様子で、最後まで私のほうを一度も見もしませんでした。失礼ですね。


 軽くガタのきている幌馬車にルーハ共々揺さぶられながら、私は、この世の世知辛さやコロッセイアの王都で始まるらしき何かに想いを馳せるのでした──

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