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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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13・旅の終わりが見えてきました

 殺し屋とか飛竜とか小鬼とかを難なく撃破しながら私達二人の旅は続きます。


 野宿を何回か挟みながら山道をひたすら歩き、「これマジでコロッセイアまで行けるんかいな」という嫌な思いが段々脳裏から離れなくなってきた頃、ついに我々の頭上に一筋の光明が差してきました。

 荒れていた山道が、それなりにまともなものに変化してきたのです。


「やれやれ、やっと折り返しか」


 ルーハが、ホッと息をつきました。

 これまで手付かずに近かった道に、何かしらの整備がなされていた痕跡が出てきたということは、この辺りまで、かつては整備されていたわけです。


「つまり、ここから先がコロッセイアなんですね」


「絶対にそうだとは言えないが、まあ間違いないんじゃないの」


「大きな断崖絶壁とかあったらどうしましょう」


「その時になってから考えるさ」


「そうですね。あるのかないのかもわからない脅威にいちいち怯えるのも愚かですから」


「だからといって、何の予測もしないってのも無用心だけどな」


「それはいいですけど」


クイ、クイッ


「なんだよ、袖を引っ張って」


「あなたに預けていた、()()出して下さい」





「……………………」


「よし、と。これでどこからどう見ても文句のない立派な暗黒騎士です」


 魔神から奪い取った角つきの兜。

 ぬばたまの闇を集めて織ったマント。

 死の力を宿した髑髏の魔剣。


 恐るべき逸話をそのうち持つことになるかもしれない品々をまといし、堕ちた聖女クリスティラ──転じて、暗黒騎士クレアがここに誕生したのです。


「…………こうしてフル装備の姿をまじまじ見ると、危険人物感がハンパないな。いるだけで周りの治安が悪化しそうだ」


「当然です。暗黒騎士ですからね」


「ならなんか闇っぽいことできんのかよ」


「それは今後の課題ですね」


「……まあ、そのほうがいいか。本当にやれるよりは口だけのほうが、危ない人ではなく可哀想な人と見なしてくれるかもしれないしな」


「ふふっ、哀れみなど不要ですよ」


「…………どこの世界でも中二病を患うやつはいるんだな……よりによって、それが相棒ってのが……あの女神といい、女運ないのかな俺…………」


 なんかルーハがぼそぼそ呟いてますがほっときましょう。どうせよくわからない事を言ってるに決まってます。持病のようなものと割り切りましょう。



 衣替えも終わり、杖を片手に山道をさらに先へ。本来ならこの杖もルーハに預けたかったのですが、剣に慣れてないので護身のために持ち歩くことにしました。それに杖のほうが剣より長いから、防御魔法による攻撃も遠くまで届きますので便利です。

 でも暗黒騎士の私に僧侶が持ってそうな杖だと不釣り合いですから、何か不吉な感じに手を加えたいですね。

 髑髏とかは……既に魔剣がありますからやめといて……怖そうな見た目の魔物の首でも先端にくくりつけましょうか。


「どんな魔物がいいと思います?」


「そんなことで悩む前に同行してる俺の身にもなれ」


「自分だけで考えても独りよがりにしかならないでしょう?」


「関わりたくねぇ……」


 つれない感じのルーハでしたが、しつこく尋ねるとついに素直になったのか「角とか牙がたくさん生えてる顔がいいんじゃないか。もうどうにでもなれよ」と、良さげな塩梅のアドバイスをくれました。

 やればできるじゃないですか。そういうのでいいんですよ、そういうので。



「放置されてたのは同様ですけど、こちらの方がしっかりしてますね」


 エターニア側よりもガタがきていません。石や砂利の敷き詰められ方が本格的な感じがします。


「戦争に力を入れてる国は土木工事も強かったりするんだってよ。昔のイタリアだかローマだか……じゃなくて、何かそんな国があったらしい。詳しくは知らないけどさ」


「そうなんですか。……なんでしょう、変なところで博識ですよね、ルーハって。文字の読み書きもできるし……」


 そんな教育を受けた人が盗賊の道を選ぶのも、つくづくおかしな話です。


「……もしかして、どこかの王族のご落胤とか?」


「ねーよ」


「ですよね」


「そんなありきたりなもんじゃない。実はな、俺は女神に選ばれ、この世に降り立った存在なのさ」


 自分の顔を親指で指差し、ニカッと笑って歯を光らせました。

 爽やかな顔なら格好良く決まったのでしょうけど、目付き悪いからいまいちサマになりませんね。

 でも私は嫌いじゃないですよ? 欠点も慣れれば愛嬌に感じるものです。酷く臭いものも長く嗅いでいればやがて気にならなくなりますからね。


「いきなり血迷いましたね」


 それはそうと言うべきことは言います。いざとなれば混乱や恐慌などを鎮める魔法を彼の頭にかけてあげなければいけません。


「今のお前に言われたらおしまいだな」


「どういう意味です?」


「お、なんか脇道があるぞ。行ってみるか!」


 彼の言う通り、山道よりもさらに昔の時代に整備されてそうな道が、林のほうに伸びています。

 私は乗り気ではありませんがルーハがさっさと奥まで行ってしまったので仕方ないですね。


「寄り道などしたくないのですけど……」



 道なりに進んだルーハと私の前に、典型的な石造りの遺跡が姿を現しました。

 たいした奥行きもなさそうですね。地下への階段がなければ簡単に踏破できそうな大きさです。


「お宝は期待できそうにないな」


「とうの昔に狩り尽くされてるでしょうね。こんなわかりやすい遺跡なんて滅多にないですもの」 


「……待て。なんだ……何か出てきたぞ」



 のそりと、遺跡の半壊した入口から、獣のようなものがもったいぶって出てきました。



「バーゲストですね」


「ああ。ここを寝床にしてたんだろ。俺たちの匂いを嗅ぎ付けたのかな?」


 一見、子牛ほどの大きさの野犬に見えなくもないですが、何本もの角や、乱雑に生え揃った牙が並んだ大口が、それを全力で否定していました。

 その大口や鼻の穴からは炎が「ブシュー、ブシュー」と、息の代わりに吹き出ています。つまりこいつは炎を吐くのです。だから何って感じですが。

 性格は執念深く、一度狙いを定めたら異様に利く鼻で匂いを覚えてどこまでも追いかけ、それが時には年単位になることもあるのでとても悪質です。



 それからどうなったかと言うと、私の杖の先端に獣じみた魔物の頭部がくっつくことになりました。念願かなって余は満足じゃ。

 脇道……たまには逸れたほうがいいんですね 。

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